VRを買うべきときがきた!
私が、最近はまったNETFLIXのタイトルは、スペインのテレビ局で放送された『ペーパー・ハウス』だ。造幣局へ乗り込んで、札を印刷しまくる。私の印刷マニア心とバイクの好みといたずら好きが満足され、しかも、これまた私の好きな南アジアでハッピーエンド(?)となるところが楽しい。これの米国流言い回しでマラソニング(marathoning=テレビシリーズの一気見)をやってしまい、私の体力は著しく損なわれてしまったのだが。
そのNETFLIXの視聴方法について、いま話題もちきりなのが、発売されたばかりの「Oculus Go」で見るという方法だ。
Oculus Goというのは、いわゆるスタンドアロン型(PC不要)のヘッドセットである。このタイプについては、私は、年内発売のHTC「VIVE Focus」待ちのつもりでいた(Oculus Goが秋田名物「曲げわっぱ」のようにしか見えないのに対して、Focusはスペックもさることながら臆面もなく前面に張り出したデザインにVRの夢の時代へのリスペクトさえ感じる)。
ところが、「Oculus GoでNETFLIXが楽しい」という噂に、64GB版を導入してしまった(VIVE Focusが出ればまた買ってしまうような気もするが)。VRヘッドセットは、バーチャル空間へダイブするための穴のようなものなので、それぞれどこに通じているかも少しずつ違っている。
もっとも、NETFLIXの配信自体は2Dの普通の映像配信なので、それを、最新のVRヘッドセットで見るというのはいささか退行的な印象を拭えない。しかも、ネットにはソファで寝ながらNETFLIXしている人々の写真も上がっていて、それはもはや視聴文化になり始めているようにも思える。自堕落的というか、ゴロネデスク的なメディア体験の誕生である。
それで、Oculus GoでのNETFLIX鑑賞をやってみた結果どうだったかというと、なかなか快適だった。今後、NETFLIXをすべてこれで見るかというとそうではないのだが、コンテンツとその日の気分によってやると思う。2時間の映画を見るのも全然平気だった(デバイスのチューニングが進んでいるのだろう)。
それもあるが、Oculus Goの最大の特徴は頭にかぶる部分のベルトが「ゴム製」であることかもしれない。パジャマのズボン側のゴムを引っ張ってパンとはじいて納得するような具合のよさがある。すでに多く語られているが、次のような良さがある。
価格が2万円台と安い
設置作業ナシ、5~10分で使用開始できる
気軽に装着できる割りに違和感が非常に少ない
装着がパジマ感覚のゴムベルト式
音はオープンアエでこれも気軽
ここまではOculus Goの基本スペックとしての魅力だが、NETFLIXアプリもシンプルでとてもよい。
寝ながら向きを変えながら見れるモードがある
スクリーンサイズが調整可能
バーチャル空間でのスクリーン鑑賞がよい
最後の「バーチャル空間でのスクリーン鑑賞がよい」に関しては、少し説明が必要かもしれない。HMDで疑似的に大スクリーンを楽しむことは以前から行われてきた。しかし、Oculusにおいては、ただの疑似大スクリーンではない。アルプスにある別荘みたいな(窓の外に山々が見える)建物にいる感じで薄暗くした部屋で、大型スクリーンに向かっている。
NETFLIXのアプリ設計者がどう考えたか知らないが、この味付けがなかなかよい。
街にでかけて映画館に行くことが楽しいのも事実である。チケット売り場にいる同じ映画を見る連中は、同じ旅に出る仲間のようなものだ。誰かと一緒に出掛けて、ポップコーンや飲み物を買うのもイベント的な魅力がある。
映画館に出かけることは、都市生活者のライフスタイルの一部なのだという意見もあるだろう。NTTコムウェアが6月に発表した調査結果によると、映画館とネット配信のどちらを選ぶかについて、「同日配信で月額1,000円」だとしても、日本の映画鑑賞者は6割が映画館を選ぶと答えたそうだ(みんな真面目に考えて答えたのか?)。
しかし、作品を鑑賞するという点においてバーチャル空間はかなり"繭"的なよさがある。
アルプスにある別荘の快適なプライベートシアターで、ソファの隣に恋人がいるわけでもないし、ブランデーグラスを傾けながらではないが、一人になれる良さがある。これは、作品と向き合うときに大切なことなのだと思う。
今年2月に「OMC 2018」に登壇させてもらったときに、質疑応答で「VRが普及するために何が必要か?」という質問をもらった。私は、「とても分かりやすい製品が1つ出るかどうかだ」と答えさせてもらった。とても分かりやすい製品というのは、「ありそうで、実際にすでにあるけど、いままでとはちょっと違う」ようなものだと思う。Oculus Goは、そんなジャンル自体をブレークさせる匂いを持っている。
それが、NETFLIXで大きな波となっている世界共通のドラマや映画と接線を持ちえたことで、とてもいまのデジタルを象徴するものになった。ドップリと見てしまう視聴行為がまさに没入型(immersive)メディアにぴったりではないか? この現象、このあとどうなるのかというのも気になる。
そういえば、Oculusの親会社であるフェイスブック肝いりの「Venues」という、VR空間で音楽などのライブやスポーツなどを鑑賞できるアプリがある(もちろん、Oculus Goにもプリインストールされている)。名前が少々分かりにくい(ヴェニューズと読むとよいだろう)ので避けている人もいるかもしれないが試してみる価値がある。
フェイスブックのザッカーバーグCEOは、5月1日に開催の開発者会議F8で、Oculus Goを参加者に配ったそうだが、むしろ街の女性たちに手渡してみるべきだったんじゃないか?
誰もが気持ちよくVRするために
Oculus Goについての情報は、溢れまくっているのでいまさらと感じた方もおられるかもしれない。そこで、Oculus Riftの開発キットDK1からこの点に苦労してきている私のVRに関するTIPSを紹介して終わることにしよう。
すでにやっているよという人もいるかもしれないし、こういう製品もすでにあるかもしれないが、とても具合がよいのでお勧めしたい。それは、VRの永遠のテーマであるこれから夏かけてヘッドセットが汗ばむという問題への対処策である。
やることは、とてもシンプル。ニンジャマスク的なVR用の不織布製のマスクと両面テープを用意する。テープを1~2センチメートルで切ったものを、VR用マスクの額と両側の頬骨のあたりに貼りつける。
両面テープを扱い慣れている人はご存じでしょう。指でシッカリ抑えてあとに、角を折るようにすると裏紙が剥がしやすい。あとはパックよろしく顔に貼るだけである。あらかじめ両面テープを貼ったマスクをたくさん用意しておくのもよいでしょうね。
これで、スッキリいい感じでVRできる(マスクや髪の毛が視線に入り込んだりしにくい)。ただし、両面テープを顔に貼ったまま出かけたりするとまったくの謎な人になってしまうので注意が必要です。
遠藤諭(えんどうさとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。月刊アスキー編集長などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。著書に『ソーシャルネイティブの時代』、『ジェネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著、アスキー新書)、『NHK ITホワイトボックス 世界一やさしいネット力養成講座』(講談社)など。今年1月、Kickstarterのプロジェクトで195%を達成して成功させた。
Twitter:@hortense667Mastodon:https://mstdn.jp/@hortense667
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