今回の業界に痕跡を残して消えたメーカーは前回のPalmつながりで、Be Inc.を紹介したい。話は、Apple Computer社から始まる。
1990年、Jean-Louis Gassee氏がApple Computerを退社する。もともとGassee氏は1981年からApple Computer Franceの社長の座にあった。ただ1985年にSteve Jobs氏がApple Computerを退社した後、1985年に研究開発担当副社長、1988年に製品・開発・製造担当副社長とどんどん昇進していく。この抜擢はJohn Sculley氏によるものだ。
そもそもSteve Jobs氏退社のきっかけとなった、同社の1985年5月24日の取締役会で、John Sculley氏に対して「Sculley氏の中国出張中に、JobsがSculleyを追放しようと画策している」と密告したのがGassee氏だったそうで、それもあってJobs追放のキーマンという評価もなされているGassee氏だが、このあたりは本題ではない。
Jobs氏が退社後は、Gassee氏はJobs氏に代わり、Macintosh IIやMacintosh Portableなどの開発に携わっていく。ただし、社内で急速に昇進してゆくGassee氏は、今度はSculley氏にとって目障りになったのかもしれない。
Sculley氏が進めていたMacintoshの外部企業へのライセンス、あるいはNewton Message Padの開発などに関しても、Gassee氏は批判的な立場であり、このあたりが表向きには両者が反目しあったきっかけだと評される。結局1990年3月にGassee氏は開発担当副社長の職を解かれ、これを理由にGassee氏は退職を決断する。
マルチタスク、オブジェクト指向の
最新OSを作るべく立ち上げた会社
ということでやっと本題。Apple Computerを退社したGassee氏は、一緒にApple Computerを退職したSteve Sakoman氏とともに、さっそくBe Inc.を設立する。Be Inc.の目的は、最新のOSを提供することであった。
BeOSとして世の中に登場するこの最新OSはC++で記述され、マルチタスク/マルチスレッド、対称型マルチプロセッサー、オブジェクト指向、リアルタイムメディアなどを特徴としている。
今ではほとんどのOSがごく当たり前のようにこれを実現しているが、1990年当時といえばまだWindowsは3.0が出たばかりで、Windows NTは開発が始まった直後といったところ。Apple ComputerはまだSystem Software 6(System 7が出るのは翌年の1991年)という時期である。
余談であるが、この当時筆者の環境は原稿執筆がEPSON PC-386M上のMS-DOS、BBSの巡回その他はMacintosh SE/30+Vimage SE/30で漢字Talk 6.0.7かなにかを使っていた。PC互換機はベンチマークなどのテスト用になっていた。要するにまだ本格的な仕事をするには、どの環境も不十分といった時期である。もっともこれは後から見れば、という話であってこの当時はこれでそれなりに満足していたのだが。
こうした複数の処理が一本化されるのは、Windows for Workgroups 3.11にWin/Vを組み合わせた環境がPC互換機上で構築できるようになった1993年あたりからである。Win/Vの製品としての発売は1994年だが、その前に入手できていた気がする。なお、Windows 3.1は一応使いはしたが、安定した環境からはほど遠く、制約も多すぎた。
これに先立ってSE/30は売り払い、PC-386Mもこの後には無くなったはずだ(売ったのか捨てたのかも覚えていない)。
それでも1994年にはマルチメディア(QVGAクラスの動画や、XGAサイズの静止画)は扱えていたし、確か図版の作成もこの頃にはWindowsに移行していた。それ以前は図版はおもにMacDrawで作成していた。これがSE/30を使っていた理由の1つだった。
話を戻すと、1990年というのはそういう時代である。その時期にBeOSが目指したものは、ずっと新しいものだった。
もっとも、先に少し出たWindows NTの開発に携わったDavid Cutler氏がDECからマイクロソフトに移籍したのが1988年10月のことであり、最初のリリースであるWindows NT 3.1が1993年に登場したことを考えると、スタートに関してもWindows NTの方が少し早かったことになるのだが、少なくとも1990年の段階ではまだこれは明らかではなかった。

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