今回のことば
「破談になることは、99.999%ない。だが、万が一のことを考えて、破談となった際にも、鴻海はシャープのディスプレー事業を購入する権利を得られることを盛り込んでいる」(鴻海科技集団・郭台銘会長兼CEO)
正式調印に至るまでの熾烈な攻防
シャープと鴻海科技集団が、4月2日、大阪・堺の堺ディスプレイプロダクトにおいて、共同で会見を行い、鴻海科技集団の中核企業である鴻海精密工業によるシャープの買収について正式調印した。
正式調印に至るまでの、両社の攻防は熾烈だった。
シャープの再建提案は、産業革新機構と鴻海の2社に絞られ、当初は、産業革新機構の提案が優勢だとされていた。だが、その後、出資金額の積み増しなどを行った鴻海の提案へと傾きはじめ、シャープは、2月25日に開いた取締役会で、鴻海が提案した経営再建策を受け入れることを正式に決議。鴻海側にそれを伝え、2月中の決着を予定していた。
だが、シャープが同時に提出した偶発債務に関する調査を行うことを理由に、鴻海側が正式契約を保留。その調査などに1ヵ月の期間を経て、ようやく、今回、正式調印に至ったわけだ。
この間にも様々な動きがあった。当初は、出資金額は約4890億円としていたが、経済環境の悪化や、シャープの業績の下方修正などを理由に、出資条件が1株当たり118円であったものを、88円へと見直すことが提案され、シャープ側はこれを受け入れた。もはや、鴻海側の提案を受け入れなくては立ちいかないところにまで追い込まれていたシャープは、結果として、約1000億円減額した3888億円となった。一時は、減額幅は2000億円ともいわれており、鴻海科技集団・郭台銘会長兼CEOならではの剛腕な交渉力が発揮された期間でもあった。
さらに、主力取引銀行である、みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行と、既存の借入金の金利引き下げなどで合意。同時に、3月末に期限を迎える借入金の返済期限を1ヵ月延長する合意も取り付けた。
これに対して、防戦一方のシャープは、保証金として1000億円の支払いを、3月31日に受けることで一矢を報いた格好だ。これは、仮に、破談になった場合に、シャープは、この1000億円を返却する必要がない。
高橋興三社長は、「いろいろなことがあったが、ここに両社が並んで座っているということは、この提携がいいということをお互いが信じているからだ。今後のクロージングに向けて、全力を尽くす。今後、問題があるとすれば、独禁法などの問題であり、両社がお互いに前に進んでいくことに変わりはない」と語る。
鴻海科技集団・郭台銘会長兼CEOも、「3888億円の金額は、今日、正式に契約をしたものであり、今後、減額することはない」と語りながら、「保証金の1000億円は、シャープの再建に対して、我々が、いかにコミットしているのかを示すものである」と強調してみせた。
だが、契約条項のなかには、出資期限となる2016年10月5日までに出資が実行されずに、破談となった際にも、鴻海はシャープのディスプレー事業を購入する権利を与ることが盛り込まれている。これは鴻海側の状況が変化し、破談になった場合でも実行されるという条項だ。
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