いまから26年前の春。1989年3月11日、JR新宿駅と渋谷駅に初めての発車メロディが鳴りひびいた。
国鉄が民営化されてJRになったのと同時に、けたたましい電子音だった発車ベルがなめらかなメロディに変わったのだ。時代の象徴としてとらえられたふしぎなメロディがつくられるまでには、とてつもない苦労があった。
複数のメロディが重なっても不調和になってはいけない。小さな音であっても遠くまで聞こえなければいけない。同じ調子でありながら、何年経っても飽きられてはならない──数々の課題を解決した先にメロディは完成した。
プロデューサーは当時ヤマハにつとめていた井出祐昭氏。
音の良さでたびたび話題になる映画館・立川シネマシティも、立体的な音響効果がおもしろい表参道ヒルズも、井出氏の音響設計によるもの。何気なく聞いている発車メロディの裏側にある、奥深い音響の世界を覗いてみよう。
話者──井出祐昭(いで・ひろあき)
ヤマハチーフプロデューサーを経て2001年に有限会社エル・プロデュースを設立。音の未来を研究開発する「井出音研究所」を2010年に設立。サウンド・スペース・コンポーズという新分野を確立。著書に『見えないデザイン サウンド・スペース・コンポーザーの仕事』(ヤマハミュージックメディア)。