1960年代の広告代理店を舞台にしたドラマ「マッドメン」の主人公たちが現代のテクノロジーを目の当たりしたら、きっと愕然とすることだろう。
「世界中のありとあらゆる人々のポケットに直接広告を突っこむことができるって本当か?!」と彼らは尋ねるに違いない。「どれほどクリエイティブなことができるか、想像してみろよ!」と。
モバイル革命は様々なことを可能にした。最初の存在意義は、ネットワークにつながった高性能なコンピュータが常に手の届くところにある、という点だった。モバイルはまた、必要な時にすぐ、情報に簡単にアクセスし、世界中の誰とでも連絡を取ることを可能にした。また、スマートフォンユーザーに関する膨大なデータを収集し、その情報を前例のないレベルで提供している。
広告主やマーケット担当者がスマートフォンとユビキタスコンピューティングを長年にわたって切望してきたのも不思議ではない。ブランドと消費者をリアルタイムに結びつけるという好機は、10年以上前にグーグルがインターネット広告を始めた時と同じく、お金を生み出す魅惑のレシピのように見えるのだろう。
「野球で言えば、まだ2回のあたりだ」と、モバイル広告配信ネットワーク「Nexage」の最高経営責任者兼社長、アーニー・コーミアは言う。コーミアは 4月下旬に開催されたマサチューセッツ革新技術交流会でのパネルディスカッションで、関連広告の構築プロセスについて語った。
コーミアにとって幸運だったのは、モバイル広告とマーケティングが発展していく先を定義し始めている2つの際立った傾向の1つを、彼が担っているということだ。プログラマティック広告とコンテンツ連動型ネットワークの間で、モバイル広告の近い将来は具体的な姿を現し始めている。
余談
マイクロソフトのデバイス担当上級副社長スティーブン・エロップは4月28日に、ノキアの買収が完了した後にも、アンドロイドベースのNokia X が生産中止になることはないと発表した。買収前はノキアの最高経営責任者であったエロップは、マイクロソフトの「Conversations」ブログの Q&A セッションで、 Nokia X は残ることになると話していた。
「マイクロソフトが Nokia X を含む携帯電話事業を獲得することは、マイクロソフトのサービスに新たな10億人のユーザーを追加するのに役立つだろう」と、 エロップは書いている。 「Nokia X は Google ではなく、MSFT のクラウドを利用している。Skype、outlook.com、Onedrive に新規の顧客を獲得するちょうど良い機会だ。すでに MSFT サービスには何万もの新規登録が行われている」
2月に開催されたモバイル・ワールド・コングレスで、Nokia X の立ち上げ以来ノキアとマイクロソフトの両方の幹部が話してきたことを、エロップは繰り返している。Nokia X はマイクロソフトにとって、より多くのユーザーを自社のクラウド製品へと運ぶ乗り物だ。新たに「一つになった」マイクロソフトは Nokia X がもたらすであろう可能性に価値を見いだしている。
課題が山積みの長くつらい道
広告の観点から見れば、モバイルはウェブとはだいぶ異なる。これが、広告主とマーケット担当者がビッグバンを引き起こせずにいる理由の一つだ。ユビキタスなブラウザの cookie は、人々を付け回して好みを分析するのには向いていない。モバイルの場合、ユーザーの注意は頻繁だが細切れで、 アプリ、ブラウザ、マップ、メッセージなどあちこちに散らばってしまう。 スマートフォンユーザーは一日に最大150回も携帯をチェックするが、一度の操作は大抵数秒だ。
モバイルユーザーの視聴は断片的で、彼らに情報を届けるのは難しく、万能なソリューションとなる技術はまだ開発されていない。
「基本的な試みを再考する必要がある」と、ボストンに基盤を置くモバイル広告のスタートアップ「Crave Labs」の設立者で最高経営責任者でもあるジェフ・ピーデンは言う。「iOS やアンドロイドには何百万ものアプリがあり、モバイルサイトはもっとたくさんある。そんな中でブランドが認証したアプリとサイトのホワイトリストを構築し(デスクトップ環境ではこれは標準であったが)、媒体主と広告主が直接取引を行うには、著しい限界がある。 今日では、場所、性別、興味、その他の人口統計学的、心理学的側面といった、既知の、あるいは新たに察知した消費者の特徴に基づき、状況に応じてユーザーのことを考える必要があるのだ」
二つの傾向:プログラマティックとコンテキスト
広告主は、モバイル市場に適した二つの傾向に基づいてモバイルキャンペーンを構築することを学んでいる。一つはプログラマティック・バイイング/セリング、そしてもう一つはコンテキスト・アウェアおよびデータ・アウェア配信だ。
プログラマティック広告バイイングは、ソフトウェアを使用して広告在庫の買い付けと販売を自動化するもので、そのやり取りはネットワークやプラットフォームを経由して実行される。ウェブ上ではもう長い間、プログラマティック広告バイイングはグーグルとリアルタイム入札ネットワークに関連付けられ、ソフトウェアを通して最も高値をつけた入札者に対してキーワードが売却されている。プログラマティック広告はまた、「プログラマティック・ダイレクト」とも呼ばれる、アプリやウェブサイト上のインプレッション(広告の露出回数)の買い付けとしても定義することができる。買い付けは株取引とほぼ同じ手法で、あらかじめ定義された条件に従って、自動的に行うことが可能である。
今日の格言:
「労働する動物は人間だけではないが、技術を向上させることができるのは人間だけである」〜エイブラハム・リンカーン
コンテキスト・コンピューティングを定義するのは簡単だが、マーケティングと広告の観点からこれを実装するのは難しい。スマートフォンはユーザーに関する様々なデータを作成する。ユーザーがどこに行きたいか、何を探しているか、友達は誰か、どのアプリを使い、どんな種類のコンテンツを消費したいのか、といったようなことだ。例えば私のスマートフォンは、私がこの週末、ワシントン D.C で友達とワインをたくさん飲み、博物館と動物園に行った事を知っているだろう。
広告のコンテキスト・アウェアネスとプログラマティック・バイイングは、モバイルアプリとウェブサイト上で企業が対象ユーザーを絞るのに役立つ。例えば、ある地域に住んでいて、ある特徴(25歳から34歳の女性など)を持ったスマートフォンユーザーすべてを対象にしたキャンペーンを立ち上げるとしよう。そして、プッシュ通知や広告をデバイスやアプリに送ることにする。問題は、マーケティングと広告の認知度を人々が身近に感じるレベルにまで高めることだ。今現在モバイル広告主が取り組んでいるのはこの問題である。
Nexage、PubMatic、OpenX、ツイッター傘下の MoPub のような会社がプログラマティック配信を提供しており、広告主が群がり始めている一方で、Adelphic Mobile(アップルの iAd プラットフォームの基礎)、Crave Labs、Celtra、Tapjoy、InMobi、Velti のような会社はコンテキストを提供し、その配信の効果を宣伝している。
これらの会社は皆、ツイッター、グーグル、アップル、アマゾン、マイクロソフトが広告のパイの大部分を食いつぶしている中で、プログラマティックとコンテキストの王の座を競わなければならない。世界中ではさらに何十もの企業が同じ問題に取り組んでいて、初期のフェイスブック従業員ジェフ・ハンマーバッチャが言ったことは正しかったと証明している。「私と同世代の優れた頭脳の持ち主は皆、どうやって人々に広告をクリックさせるかを考えているのだ」
「モバイル広告はまだ、成熟し始めたばかりだ」とピーデンは言っている。「モバイル広告が開始された初期に市場の大部分を占めていた、基本のアプリを超えてブランドを流通させる広告という方針から、更に広い範囲でモバイル広告を採用することに目を向け始めたのだ」。
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※本記事はReadWrite Japanからの転載です。転載元はこちら。