GPU黒歴史編の第10回は、NVIDIAの「GeForce GTX 480」を取り上げる。「NVIDIA Hair Dryerの再来」とまで呼ばれた、と書けばもう大体想像がつこうというもの。もっとも今度はアーキテクチャーの問題ではなかった。GTX 480の話は、連載14回と87回でも取り上げているが、改めてGTX 480についてまとめてみたい。
DirectX 10では先行するも、
DirectX 10.1対応で出遅れたNVIDIA
2006年11月にNVIDIAは、「G80」コアの「GeForce 8800 GTX」をリリースする。これはDirectX 10に対応した同社初の製品であり、競合するATIを買収したAMDに先んじて、この分野での製品投入に成功した。AMDがDirectX 10に対応した「R600」コアの「Radeon HD 2900 XT」をリリースしたのは2007年5月だから、半年ほどのアドバンテージがあったわけだ。
ところがさらに半年後の2007年11月。AMDはDirectX 10.1に対応した「Radeon HD 3870」を早くも投入する。Radeon HD 3870は「RV670」コアなので、実はR600の派生型でしかない。それにもかかわらずAMDは、TSMCの55nmプロセスへの移行とDirectX 10.1への対応を、トラブルなく行なうことに成功した。性能面で言えば、メモリーバス幅が半減(512bitが256bitに)したのでやや微妙なところはあったが、消費電力の削減などもあって、使いやすい製品に仕上がった。
対するNVIDIAはと言うと、90nmのG80をUMCの65nmプロセスに移行した「G92」コアが「GeForce 9800 GTX」としてリリースされた程度で、内部構造はG80のままだった。さらに2008年一杯を費やして、UMCの55nmプロセスに移行した「G92b」(9800 GTX+)や、メインストリーム向けの「G94b」「G96b」への対応を行なうことで手一杯で、DirectX 10.1の対応すらままならなかった。
実のところNVIDIAはこの当時、DirectX 10.1への対応にあまり積極的ではなかった。DirectX 10.1の仕様策定に当たって、旧ATIがかなり主導権を握ったことを好ましく思わなかったようだ。逆にDirectX 8.1では、NVIDIAが主導権を握って策定したにも関わらず、ATIやその他のベンダーが追従せずにあまり流行らなかった。そんな事情も関係していたのかもしれない。
当時NVIDIAは、「DirectX 10.1は中途半端なので、DirectX 11世代で対応する」という姿勢を崩さなかった。また、G80にせよG92/G92bにせよ、ベースとなるのはGeForce 6800/7800世代の「NV40/G70」コアをDirectX 10対応にしただけ。これをさらにDirectX 10.1へと対応させるのは難しい、という判断もあったようだ。
そのためNVIDIAは、DirextX 10対応のまま内部を新設計した「G200」コアを、「GeForce GTX 280」として2008年6月に投入する。ただし手堅く推移させるためか、G200コアは引き続きUMCの65nmプロセスを使い続けた。2009年1月には、これをUMCの55nmプロセスに移行させた「G200b」(GeForce GTX 285)コアを投入する。
このG200bコアをDirectX 10.1に対応させる予定だったのが、2009年6月あたりに投入するはずだった「GT212」である。さすがにDirectX 10からDirectX 11に一足飛びにジャンプは難しい、と判断されたようで、間にDirectX 10.1の対応を挟むことにしたらしい。
GT212ではほかにも、TSMCの40nmへの移行やGDDR5への対応も含まれていた。しかしGT212は、連載14回で述べたとおりキャンセルされ、そのサブセットである「GT215/216/218」だけがリリースされる。
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