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鉄道業界にフォーカスしたBoxのイベントは中身もメタリック

鉄道のダイヤ乱れの解消には最適化アルゴリズムと情報共有が必須

2018年11月21日 11時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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 2018年11月16日、Box Japanは鉄道業界のクラウド活用にフォーカスした「Box Japan 鉄道業界フォーラム 2018」を開催。業界関係者が集まるという鉄分の高いイベントなだけに、冒頭の講演も「ダイヤ乱れをいかにテクノロジーで解消するか」がテーマだった。

千葉工業大学 情報科学部・情報工学科 富井規雄教授

ダイヤ乱れはなぜなくならないのか?

 冒頭、「鉄道におけるダイヤ乱れ時の対応-情報共有の重要性-」というタイトルで講演したのは、千葉工業大学 情報科学部・情報工学科 富井規雄教授。富井教授はもともとは国鉄(日本国有鉄道)勤務の後、JRの研究所である鉄道総合技術研究所を経て、現在は千葉工業大学でダイヤ乱れ時の復旧や遅れの伝播防止を実現する鉄道のスケジューリングアルゴリズムを研究している。最適化アルゴリズムやシミュレーション、機械学習、データマイニングなどを駆使し、鉄道のダイヤ乱れやラッシュ時の慢性的な遅延の解消につながる研究を行なっているという。

 さて、日本全体で電車と車を比べると、鉄道のシェアは1/4くらい。東名阪の三大都市ではシェアが約半分まで拡大し、東京圏では1日のべ約380万人が鉄道を利用している。つまり、都会では多くの人たちが電車を使っているため、安全・安定輸送が強く求められる。これは多くの人たちが日々実感しているところだろう。

 総じて、日本の鉄道はおおむね機能的ではあるが、ダイヤ乱れが起こった場合には利用者から多くの不満が生まれる。「いつ運転を再開するんだ」「今度の電車がいつ来るのか?」「もっと早く情報がほしい」「迂回した方がいいのか、待っていた方がいいのか?」といった声であふれ、これに対する適切な情報提供を行なわないと、顧客満足度の低下につながる。こうしたダイヤ乱れをどのように解消するかが今回のテーマ。鉄道会社もいろいろな努力しているが、なかなかなくならない。

 実際、機器故障や事故、自然災害などを原因としたダイヤ乱れは、国土交通省に報告されている輸送障害だけでも昨年5846件に上るという。「平均して1日10件くらいは30分以上の遅延、1本以上の運休といった事態が起こっている。そのたびにダイヤが乱れている」。特にダイヤ乱れを放置し、駅の間で電車が止まってしまうと、前述の通りさまざまな不満があふれる。「架線経路で事故が起こってしまうと、冷房や暖房が効かなることもある。トイレに行けないとか、窓が開かないというこも起こる。とにかく駅の間で電車を止めないのが鉄則」(富井教授)だという。

国交省に届けられた昨年のダイヤ乱れは5846件

 ダイヤ乱れによって利用者に迷惑をかけないよう事業者が実施するのが、いわゆる「運転整理」だ。具体的には運転の取りやめ、折り返し運転や臨時運転、番線や発車順序の変更などを実施する。たとえば、後から来る電車の到着するホームを変更する「番線変更」や、遅れる電車を待たずに、予備の電車を定刻で発車させてしまう「取り込み特発」といったテクニックが用いられる。意外と簡単なように見えるが、複数のテクニックを緻密に組み合わせなければ解消しないため、難易度は高い。

ダイヤ乱れを解消する「運転整理」の課題とは?

 いざダイヤ乱れが起こると、机とダイヤ図をもって運転整理の計画を作る専門の担当が指令室に現われ、無線担当や指令担当、変更入力担当などの「輸送司令員」とともに運転整理を実施する。「非常時にダイヤを作るのは、いわゆる『スジ屋』とは別」(富井教授)。また、指令室はセキュリティ上、場所が空かされず、社員でも入れないところもあるという。

運転整理の計画を作る場合の指令室の様子

 運転整理の手順としては、まず復旧見込みや乗客の数(デマンド)などの状況を把握し、方針を決定。その上で、線路や車両、運転手などのリソース、取り決めなどさまざまな制約のもとで運転整理案を作成し、運行管理システムに入力。あとは関係者に連絡したり、利用者に案内するという流れになる。

運転整理の手順(大乱れ時)

 とはいえ、運転整理は事故の規模によっても異なる。たとえば30分の「中乱れ」であれば、なるべく早く遅れをなくすのが重要になるが、1時間以上の「大乱れ」になると、折り返し運転や振り替え輸送の依頼などが必要になる。「大乱れの場合は、利用者を動かさなければならないので、デマンドの把握が重要」(富井教授)。

 また、発生時間帯によっても異なる。朝のラッシュ時は、混雑に拍車をかけるため運転中止は難しいが、昼間はむしろ運休して遅れを取り戻したほうがよいという。さらに路線によっても異なり、通勤区間の場合は折り返し運転が用いられるが、新幹線のような長距離路線では用いられない。「大宮と東京の間で折り返せばいいと思う人もいるかもしれないが、長距離輸送はあくまで終着駅まで運ぶのが目的だからとJRは言うと思う」と富井教授はコメントする。

 総じて、運転整理はきわめて複雑で大規模な問題になる。対象の電車は100台規模で、利用者は数万人規模。しかも、迅速に解く必要があり、天候や復旧見込みなど状況も刻々と変化してしまう。そもそも情報収集と伝達に時間と労力がかかるのが大きな問題。そもそもよい運転整理かどうかは、ケースバイケースで異なってしまうのがきわめて難しいという。

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