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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第61回

「モノをコトに」するための宣伝企画とは

『妹さえいればいい。』が示すアニメコラボの理想形

2018年03月22日 18時00分更新

文● まつもとあつし 編集●村山剛史

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実在のお酒やアナログゲームが頻繁に登場した理由は……? (C)平坂読・小学館/妹さえいれば委員会

「楽しかった」で終わらせない
目標は「視聴者の生活・行動に変化を起こす」こと

―― 型破りといえば、『妹さえいればいい。』はコラボの本気度合いにも驚かされました。ほぼ毎話にお酒とゲームが登場し、しっかりと物語のなかに尺をとって絡んできていましたね。

田中 先ほどの1話冒頭もそうなのですが、当初から監督ともども話していたのは、「映像ではやりづらいけれど、原作の特徴・魅力となっている部分は、避けずに真正面から取り組みましょう」ということでした。結果として、製作・制作ともに大きな負担が掛かる取り組みも生まれてしまいましたが、そこはもう覚悟を決めて走り抜こう、と。

 原作でも、お酒やゲームは物語の流れのなかで自然と登場しますので、その流れをアニメでも利用させていただきました。

 原作者の平坂読先生が、“物語やキャラクターが好きだと言ってくれるのは当然うれしいけれど、読んだ後で、読者の生活や行動に何かしらの変化が起こせたら、それは作家冥利に尽きる”というようなことを仰っていたのですが、監督陣も私たちも本当に同じ思いでして。平坂先生からご提案いただいた「現実のモノ・コト」たち――ボードゲームやお酒など――を、心を砕いてお話に組み込み、実物として描くことに努めました。

(C)平坂読・小学館/妹さえいれば委員会

売上が4倍に!? 本気のお酒コラボはこうして生まれた

岡村 私も田中さんから相談を持ちかけられ、作品を読んだのですが、やはり魅力は「現実のモノ・コト」にあると感じましたので、宣伝の企画を考える上でもそれをベースにしました。

 そして、バンダイビジュアルさんからは、「アニメの領域とは異なる企画を出して欲しい」といつも言われていますので、例えばお酒については、「とりあえず登場するお酒を全部買って飲みましょう!」と。その上で比較グラフが作れるくらい徹底的に分析しましょうと提案しました。

 その成果が、作中に登場したお酒をレーダーチャートなどを駆使して紹介する「うまい酒さえあればいい。」です。実際に専門機関(味香り戦略研究所)に依頼しています。

田中 とはいえ実物を勝手には描けませんから、許可を得る、というところは本当に慎重に一つ一つ行わせていただきました。

 ボードゲームは比較的スムーズに各社さまにご許可をいただけたのですが、お酒は本当に難しかったですね。原作には海外のクラフトビールが沢山登場しますが、断られたり、そもそも返事が返ってこなかったり(笑) どうしても難しかったビールについては、平坂先生に、同じくらい魅力的な国産ビールを代わりにご提案いただいて、そちらにご許諾を得る形で行わせていただきました。

―― その甲斐もあって発泡酒「桜桃の雫」の売上が通常の4倍になったことが新聞で紹介されるなど話題になりましたね。

田中 そうですね。またサンクトガーレンさんのクラフトビールも、問い合わせがとても増えたそうで、「妹さえいればいい。に登場したサンクトガーレンセット」を販売されていました(現在完売)。ありがとうございます!

本編に登場した網走ビールの発泡酒「桜桃の雫」は売上が4倍に。その反響は読売新聞の道東版に載ったほど

岡村 素材提供などでも協力をいただいて、その甲斐あって雑誌「dancyu」に特集されたときには、さっそく社内用に購入されたと仰っていましたね(笑)

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