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遠藤諭のプログラミング+日記 第31回

3331で開催のPlay! 香港コミックス巡回展にでかけてきた

香港コミックスにはアジアの都市生活者の共感軸がある

2017年11月14日 12時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

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手前の目つきの悪いパンダは私も好きな小克の作品。

 秋葉原のはずれというか、末広町駅からほど近い中学校校舎を活用したアーツ千代田3331で「Play! 香港コミックス巡回展」(11/16まで開催=最終日のみ14時まで)という催しが行われているというので出かけてきた。香港のマンガは、日本ではあまり紹介されているとはいえないが、マンガの新しいグラフィック表現を探しているような人なら好きになる人が少なくないはずだ。

 「香港アートセンター」と「コミック・ホームベース」(動漫基地)という香港の2つのカルチャーの拠点が開催するもので、巡回展というとおり過去ブリュッセルやヘルシンキで開催されたものだそうだ。展示内容は、香港のマンガやアニメの60年の歩みをバネルと実際の書籍(手にとって見ることができる)で紹介したもので、その日(11月11日)は、人気作家の1人黎達達榮(Lai Tat Tat Wing)の作画実演やトークショウも開催されていた。

黎達達栄さんの作画実演。といってもはじめてサインペンで描いたそうだ。

各時代の紹介パネルはこんな感じ。現物の本が触りほうだいなのがいい。

 それで、家を出るときに1997年に作った『香港マニアックス97 無問題』というガイド本を、なんとなく本箱から抜き出してカバンに入れて出かけたのだった。これには、当時、香港を代表するマンガ作家で日本にもファンの少なくない利志達の「30min±」という書下ろし作品を掲載していたからだ。「30min±」は、いまみても傑作だと思う(手前みそで申し訳ない)。いかにも香港らしいビルの屋上が舞台で、そこに集まった若者たちが、30分の間に何人とケータイで話をするか競争するという話である(ということでトークショウで披露することになったのだが)。

 ちなみに、『香港マニアックス97 無問題』に挟んであった写真は、彼を紹介してくれた呂學章さんと利志達、それと一緒に出掛けた旅行仲間で撮ったものだ。日テレでやっていた「週刊パソコン丼」の作家さんからつながって「香港ガイド本に香港のマンガ家に描いてもらいたい」と言ったら考えてくれたんだと思う。呂さんは元ゴールデンハーベストで、その後、香港を代表するコミックス誌の『Co-Co!』を創刊。奥さんは、当時はTVのディレクターだったが、映画『金魚のしずく』などで知られる映画監督の黎妙雪(キャロル・ライ)さんだ。

『香港マニアックス97 無問題』

利志達に月刊アスキーでの連載をお願いしていた頃の写真

 会場では、香港のマンガ作品やグッズの即売も行われており、私は、阿塗の『圖解廣東話』が気に入って買った。タイトルのとおりの絵入りの広東語辞典で、ことわざなのか造語なのかスラングなのか、これがそのままで広東語の教科書に使えるようには思えず、それ自体がいい感じのイラスト付きの批評になっているわけだ。

 近年は、中国(メインランドチャイナ)のマンガ作家もどんどん優れた作品を描いていて、旺角には、日本と中国のを半分半分で置いているコミック専門店もあったりする。それもそのはず、上海の大型書店を訪ねたら平台で“マンガの描き方本”が数えたら100冊(種類)も売っていて驚いたことがある。しかし、個人的には、自分たちの都市(香港)やそこに住む人たちを愛していて、その行く末を心配していて、世知辛い日々に追われている生活を描いた香港コミックスのほうが気持ちいいのだ。

『圖解廣東話』(阿塗編絵、七刻編譯、白油出版)

チドリ(業界用語)でうまい具合に一色・二色で構成された造本も好ましい。

 トークショウでのコニー・ラムさん(香港アートセンター総幹事 / コミックス・ホームベース創始者)によると、シュリンクする紙のコミック市場の中で、香港の作家は「ことばを使わない」(訳さなくていい)ことで世界に出ようとしている人も目立つそうだ。だったら、香港のコミックをちょっと読んでみようという人もいるはず。いちばん手っ取り早いのは香港まで出かけて行って書店に寄ってみることだ。出版社でもある三聯書店もあるし、香港特有の「二樓書店」をのぞいてみるのもいいだろう。

 二樓書店というのは「2階の本屋さん」という意味だが、旺角のような繁華街でも注意深く見ているとビルのすき間のようなところに小さな入り口があって、そこから2階とはいわず、いまだと5階あたりにもあったりする。小さな個性的な書店が楽しい。いまどきネットで調べて、たとえばこのあたりのリンクから辿って出かけるとよい。もっとも、マンガが目当てなら湾仔にあるコミック・ホームベースに行くか毎年夏に開催される香港動漫電玩節(ANI-COM)に出かけるほうがよいかもしれない。

旺角にある二樓書店の序言書室(次の360度画像はカフェもある店内)

奥はカフェになっている助言書室の店内。 - Spherical Image - RICOH THETA

二樓書店はこんな感じのビルの中にある - Spherical Image - RICOH THETA



有名な「二樓書店」(樓上書店)の田園書屋への階段

お隣では、コマンドN 20周年企画展 「新しいページを開け!」をやってた

 ところで、香港コミックス巡回展をひととおり見て3331の1階カフェでコーヒーを飲んでいたら、元ログインでゲームデザイナーでもある伊藤ガビン氏が通りかかった。同じ3331のメインの展示エリアで「コマンドN 20周年企画展 /新しいページを開け!」というのを開催中だというのだ(なんとこっちも20周年ということは1997年)。

 コマンドNというのは、5人のアーチストが集まって設立されたアーチストイニシアチブというもので、実は、このアーツ千代田3331も彼らの仕事の1つなのだそうだ。さらに会場から出てきた千葉英寿さんに引っ張りこまれ、秋葉原TVやスキマプロジェクト、「TRANS ARTS TOKYO」の開催など、コマンドNの歴史展示をとくと拝見させてもらった。これが、さすがに面白い。個人的には、昨今問題となっている自律型戦闘ロボットそっくりの形で壁にペンキを撒きちらす「SENSELESS DRAWING BOT #2」がとても気に入ってしまった(残念ながら現物の展示はなかった)。

【参考リンク】

巡回展詳細 http://www.hkac.org.hk/PLAY2017/index_jp.php

香港藝術中心 http://www.hkac.org.hk/

動漫基地 http://www.comixhomebase.com.hk/

利志達公式サイト https://www.lichitak.com/


遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。月刊アスキー編集長などを経て、2013年より現職。80年代後半より香港電脳街に通う。『香港マニアックス97 無問題』(アスペクト)、『香港的秘密』(元『香港通信』編集長吉田一郎著、アスキー)などを企画。月刊アスキーにて利志達の「我的國」を連載(1998年3月~1999年10月号)。アスキー入社前の1982年に「おたく」という言葉を生み出した『東京おとなクラブ』を創刊、編集長をつとめる。一貫して、パーソナルコンピューティングとサブカルとアジア(とくに食べ物)の三位一体を提唱し続けている。著書に『計算機屋かく戦えり』、ホーテンス・S・エンドウ名義の『近代プログラマの夕』などがある。

Twitter:@hortense667
Mastodon:https://mstdn.jp/@hortense667


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