量子コンピューターの実用化が近いと喧伝される一方で、量子コンピューティングの定義や用語について混乱が起こっている。量子コンピューティングの専門家も混乱を認めており、同じ理解を共有できることが求められている。
ある人が捕捉イオンと呼ぶものを、別の人は静電気的に定義された量子ドットと呼ぶ。ちなみにこれは量子コンピューティングで通常のコンピューターのビットに相当するキュービット(量子ビット)についての話だ。しかし、何のことかよくわからなくても、心配しなくていい。わからないのはあなただけではないのだから。
「量子コンピューティングあるいは量子コンピューターが何を意味しているのかについて、混乱が起こっています」と話すのは、量子コンピューティングを専門とする東京工業大学の西森秀稔教授だ。西森教授がそう感じているのであれば、私たちはもう救いがない。しかし恐れることはない。電気電子技術者協会(IEEE、アイ・トリプル・イー)は、量子コンピューティング界隈の言語に混乱があることを痛いほどわかっている。たとえそれが、量子トンネル現象に関係するものであれ、重ね合わせや量子もつれ、またはそれとは全く違うものであれだ。そこで、会議録にもう少し秩序と理解をもたらすためのプロジェクトを始動した。
「量子コンピューティングの定義のためのIEEE P7130標準化プロジェクト」という粋な名前のプロジェクトは専門家たちを円陣に並べて、同分野で最も重要な用語を定義することで、誰もが同じ理解を共有できるようにしようという試みである。IEEEが言うには、それによって、「ソフトウェアやハードウェアの開発者、材料科学者、数学者、物理学者、エンジニア、気候学者、生物学者、遺伝学者をはじめとする、より多くの貢献者たちにとって、量子コンピューティングをもっととっつきやすくする」とのことだ。プロジェクトは始まったばかりだが、非常に有益なものになりそうだ。
正直言って、タイミングは完璧だ。IBM、グーグル、インテル、そして他の企業が、初の実用的な量子コンピューターを競って作成している。MITテクノロジーレビューが2017年の「ブレークスルー・テクノロジー10」の一つに量子コンピューターを選んだ理由はそこにある。実際、グーグルはすでに、2017年の終わりまでに通常のコンピューターが太刀打ちできない、いわゆる「量子超越性」を実証する量子デバイスを作成し、試験すると約束しており、IBMも「数年のうちに」同じことを計画している。たぶんその時までには私たちも皆、いったい何について話しているのかがわかるようになっているだろう。