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多くのコンピューター将棋の開発者が願い祈ってきた未来

Ponanza完勝、第2期電王戦第1局の佐藤名人が敗れた顛末と電王手一二さんの独占秘話

2017年04月05日 13時50分更新

文● 飯島範久 編集●ジサトライッペイ

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Ponanzaの冷徹で正確な攻めに屈した佐藤叡王

 さて対局の方はというと、10時にPonanzaの先手で始まり、いきなり初手が▲3八金と意表を突く手を指してきた。前回、先手で10分以上考えてから指したPonanzaに驚いたが、今回はすぐに指したものの、指し手にはビックリだ。なお、本局の棋譜は電王戦公式サイトで確認できるので、ぜひ棋譜を見ながらこの記事を読んでいただきたい。

▲3八金に対して△8四歩と指す佐藤叡王。

 ただ、永瀬拓矢六段の話によると、この手はPonanzaの22ある初手の中のひとつだそうで、佐藤叡王も想定はしていた(終局後の会見で言及)。ただ、考えてはいたけれど、力戦形になりやすいため、佐藤叡王にとってはちょっと指しにくかったかもしれない。少し考え込んでから△8四歩と指した。これに対し、Ponanzaは▲7八金と両金が玉から離れる手を指し、さらに佐藤叡王を悩ませたかもしれない。しかし、これらの手は咎めるのは難しいらしく、特に損得もなく19手目の▲3六歩までは両者ともそんなに時間をかけずに進んでいった。

 問題はここからだ。佐藤叡王は17分ほど考えて△8六歩と飛車先を伸ばしたのだが、このあとたびたび長考するようになった。もちろん、長考しなければ正しい手は指させないわけで、長考してはダメとは言えないが、佐藤叡王が考えているときにPonanzaが先読みし、その読みが正しいことが多く、ノータイムで指されることが多かったのだ。

本局は佐藤叡王がこのように長考するシーンが多く見られた。

 逆に言えば、佐藤叡王の読みも正しかったことを意味するので、いいことではあるのだが、こうなってしまうと悪循環。相手が考えている最中に佐藤叡王が考えられず、結局自分の持ち時間を消費することになる。対人間ではあまり考えられない状況だけに、佐藤叡王もペースを崩れさてしまったのではなかろうか。昼食休憩時には、佐藤叡王が1時間46分持ち時間を消費したのに対し、Ponanzaは35分しか消費していなかった。手数は39手だ。

昼食休憩までの状況は、Ponanza自身も優勢と判断していた。

 昼食は、佐藤叡王が日光埋蔵金御膳、Ponanza開発の山本一成さんが天そば、下山晃さんが親子丼。外は、肌寒く時折小雪がぱらつく天気だったが、土曜日ということもあり、東照宮は観光客で溢れていた。3月に陽明門の平成の大修理工事が終わり、あのきらびやかな装飾や彫刻が見られるということで、筆者も久々に訪れたがとても感動した。まだすべての修復工事が終わっていないものの、きれいになった三猿「見ざる、言わざる、聞かざる」や、「眠り猫」といった代表的な彫刻は見られるので、一度訪れてみるといかがだろう。

佐藤叡王が選んだのは日光鱒鮨本舗の「日光埋蔵金御膳」。1550円で1日限定20個らしい。

Ponanzaチームの山本さんが選んだのは天そば、下山さんが選んだのは親子丼だった。ちなみに、これらは撮影用で本人たちが食べるものは別途用意されている。

東照宮といえば陽明門。3月に平成の大修理を終えて、きれいになった姿を現わした。屋根には雪が積もっており、かなり寒い。

左が三猿「見ざる言わざる聞かざる」、右が「眠り猫」。どちらも美しい彩色にお化粧直しされていた。

 13時半に再開しても長考を続けた佐藤叡王は、13時46分にようやく△8四飛と引いた。これで、残り時間は約2時間50分。まだまだ中盤でこの残り時間は少々きつい展開だ。このときは、まだ評価値は佐藤叡王が-160前後で、数値的には十分にやれる域なのだが、持ち時間が圧倒的に少なく、完全にPonanzaのペース。ちなみに、今回画面上の評価値は平岡拓也さん率いる将棋コンピューターソフト開発チームの「浮かむ瀬」(Apery)の値を表示している。

山本さんは今回正座ではなく椅子に座っているので、かなり楽だったのではないか。

 14時半ごろに、ニコファーレに“ひふみん”こと加藤一二三九段が登場。いい意味で会場も現地の控室も盛り上がった。そのあたりは、ぜひタイムシフトで楽しんでいただきたい。そんななか、終局後の会見でも両対局者が触れていた指し手が展開する。46手目△9七歩と9筋を攻めた佐藤叡王だが、Ponanzaが▲6五歩と銀頭を攻め、△7三銀と引いた。その直後、Ponanzaが▲9七香と歩を取ると佐藤叡王の評価値が-86に挽回。ただし、またもやここで長考に入ってしまうことになる。

おやつは協賛企業ブールミッシュのショコラ・ファンとレアチーズケーキ、プダン・オ・ヴァニーユ。佐藤叡王はショコラ・ファンを、山本さんはレアチーズケーキとプダン・オ・ヴァニーユの両方を選択したとのこと。

二度起こったトラブルによる中断

 14時56分ごろ、記録係の手が挙がり、トラブルが発生した。ここから1時間ほど中断に入る。そのときは、立会人の勝又清和六段と山本さんが話している姿が映し出されていたので、Ponanza側のトラブルだと思われていたが、実際には終局後の会見でも述べていたが、システムのトラブルが原因で、原因は不明。将棋ソフトはドワンゴが作成したシステム上で動作しており、電王手一二さんが動作中は思考を停止させるなど、細かく制御している。山本氏が佐藤叡王の考慮中に異変に気がついたということは、思考を停止してしまったのかもしれない。いずれにせよ、両者の時間が止められたため、佐藤叡王はかなり助かったことだろう。

画面には勝又清和六段が山本さんに話を聞くシーンが。音声は左下にあるひふみんの喋りが止まらない。

 16時ごろに再開した時点で佐藤叡王の残り時間が1時間33分ほど。だが16時15分に指した50手目△9八角がターニングポイントとなった。▲2九飛、△8八歩と進んだところで、評価値は佐藤叡王の-300オーバーとなった。終局後の会見で語っていたが、この△8八歩に対しての53手目▲7四歩からの手筋が盲点だったとのこと。16時33分に再度トラブルにより中断したが、このとき残り時間はPonanzaが4時間8分、佐藤叡王が1時間20分。なんとPonanzaはここまで1時間も使っていなかった。

 トラブル中にひふみんが再び登場し、中継を盛り上げ、控室も大爆笑していたが、佐藤叡王はそれどころではなかっただろう。16時50分に2度目の中断から再開したが、△同銀、▲7七桂と進み、評価値が佐藤叡王の-700オーバーと一気に危険水域に落ちてしまった。

浮かむ瀬以外の将棋コンピューターソフトも対局を評価していたが、どれも状況的にはPonanza優勢。

夕食のおにぎり。この状況で佐藤叡王は食事が喉を通ったのだろうか?

 夕食休憩を挟んで対局は続いたが、何しろPonanzaは自分の持ち時間を削らないので佐藤叡王は追い込まれるだけ。71手までで佐藤叡王は投了した。19時12分のことだった。

終局間際の対局場をたまたま別棟から撮影。

19時12分に佐藤叡王が投了した。終局時の評価値は-3000近かった。

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