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国内生産に負けない中国生産を実現する原動力とは?

なぜ壊れない?ヤマハのネットワーク機器の品質管理を探る

2016年04月25日 08時30分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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「とにかく壊れない」と言われるヤマハのネットワーク機器。「なぜ壊れないのか」「品質をキープする仕組みとは?」「国内生産と同じクオリティを中国拠点でも確保できるのはなぜか?」などさまざまな秘密を品質保証部 音響品質保証グループとエレクトロニクス生産統括部 音響生産企画部の担当者に聞いた。

レストランの厨房や劣悪な工場でも動作するために

 今回、お話しを伺ったのは、音響品質保証グループの小池田恒行氏と犬塚昌志氏の二人。小池田氏は1990年代にTCP/IPスタックを自前で開発し、ヤマハルーターの初号機であるRT100iのソフトウェア開発に携わり、この5年は品質保証部門でネットワーク機器の品質を見ている。一方、犬塚氏は1989年のISDN LSIの営業技術から始まり、ルーターの開発を経て、この2年半くらい品質保証部門で海外の技術移転を推進している。

 ヤマハのネットワーク機器での品質保証は、開発したハードウェアの試験、市場からのフィードバックへの対応、そしてこれらを維持するためのQMS(Quality Management System)の管理という大きく3つがある。新製品の立ち上げ時は、開発部隊と連携し、信頼性や妥当性の試験、初期ロットの検査などを行なっている。

ヤマハ 品質保証部 音響品質保証グループ 担当課長 小池田恒行氏

 ハードウェアの試験は、ユーザーの元で安心・安全に使えるか試作品を調べるというもの。内容的には「基本、温めたり、冷やしたり、揺さぶったり、落としたり」(小池田氏)がメインで、他の機器からの電波やカミナリ、静電気などの影響、過電流や電圧などの電源についても検証する。また、振動や落下試験を行なっているのもユニーク。輸送中を想定した梱包状態での振動・落下試験のほか、車載を想定しているわけではないが電源が入っている状態で微振動させるような試験も行なっている。

 項目的には20~30程度だが、その中でもさらに細かい条件が⽤意されているという。たとえば、スペック外の低温で起動させるテストは、寒い地域で動かなかったといったユーザーの声から生まれたもの。また、レストランの厨房や工場の劣悪な環境で使われることもあり、カタログスペックからややマージンをとった状態でさまざまな試験を行なっているのがこだわりと言える。

恒温試験ではさまざまな温度でのケーブルの抜き差しなども試す

ゆれや振動を想定した振動試験の様子

 もちろん、スペック外の環境で使うのは奨励されることではないが、現場でそんなことを言っていられないのも事実。「スペック外のテストまでやっていて、ほかのメーカーの人にも驚かれています。マージンを巡って開発陣とやりあうこともあります」と小池田氏は語る。

不具合のログをとるためにねばる。とにかくねばる

 サポートから受けるフィードバックに関しては、再現環境を作るのが大変だという。犬塚氏は「開発環境で不具合を再現するため、お客様のところでデータをとらせてもらうこともあるのですが、実環境で止めて試して、部品を交換してというのが難しい。とにかく1週間に1度起こるのか、3年に1回起こるのかわからないけど、とにかく起きるまでねばる。ファームウェアの変更や機器交換が夜中の3時だからということで、深夜に作業することは以前はよくありました」と語る。最初は強い調子で問い合わせてきたエンジニアも、いっしょにトラブルを解決する作業を経ることで「戦友」になることも少なくないという。

ヤマハ 品質保証グループ 音響品質保証グループ 主事 犬塚昌志氏

 個体ごとに動作が違う場合は杓子定規な対応やマニュアルではダメで、まさにエンジニアの勘が必要になるという。「その点、なんだか変だなと感じられるかどうかで結果が大きく変わる。こういう勘を働かせられるメンバーがいるのが強み。お客様の⽬線で気がつくことを意見を言ってきてくれる」(小池田氏)。労力を払ってでも不具合を再現し、信頼性をどんどん向上させていく。この過程で妥協を許さないのがヤマハのカルチャーだ。

 以前は試験用の器具も手作りで、部品の故障も多かったが、最近はハードウェアの信頼性も向上し、試験のやり方などは文書化されてきている。しかし、一概に問題がなくなったわけではない。「やはりコネクタなどはお客様が直接触るので、故障につながりやすい。試験機器も万能であれば、仕事も減るのですが、そういうわけでもない。こう考えると問題がなくなったわけでもありませんね」と犬塚氏は語る。

ユーザーの声が聞こえないのが一番怖い

 こうした品質保証でのヤマハらしさとは「基本は安心して、長く使えること」だ。たとえば、壊れ方1つとっても、熱を長く持つことで煙が出るといった危ない壊れ方をしないように設計している。「言い方は悪いですが、死に際にがんばりすぎないよう、部品の選定や安全装置などを意識しています」と小池田氏は表現する。

 故障で戻ってきたモノも基本的に全品検証している。たとえば、特定の月日に製造月で故障が多い場合は、部品のロットを疑い、夏場に故障品が多かった場合は、落雷を疑う。「RTX3000で何件か原因不明のリブートがあり、ソフトウェア担当が数ヶ月検証したところ、どう考えてもキャッシュのデータが化けているとしか考えられないと結果が出ました。チップメーカーに聞いてみたら、使っているパッケージの樹脂の問題であることがわかりました」(小池田氏)といった経験もあるという。

 一番大事にしているのは、やはりユーザーの声。小池田氏は、「品質保証に長らく携わってきた立場としては、なにしろお客様の声が聞こえないのが一番怖い。規模を追求した数値化や仕組み化が進む中でも、そういったところが忘れないようにしたい」と語る。それを実現する仕組みもきちんと構築している。営業技術からスタートし、ユーザーの声を日々聞き出す立場だった犬塚氏は、後に開発に移った時にユーザーとの距離を感じたという。そのため、距離感を解消すべく、ヤマハはユーザーの声を吸い上げる仕組みの構築を拡充してきた。「メーリングリストやSNS、あるいはカスタマーセンターなどからの問い合わせを吸い上げ、ユーザーの声をなるべく肌で感じられるようにしている」と犬塚氏は語る。

ユーザーとの距離が離れるのが一番怖いと語る2人

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