Transputerを超並列で搭載する
Meiko Computer Surface
さて、話を脇道から元に戻そう。このT800の開発遅延が明らかになったことで、「ではT800のFPUに頼らずに、超並列を作ろう」と考えたのが冒頭のスピンアウト6人組だったようだ。
彼らはまずT414の前に同社が開発したT2シリーズという16bitのプロセッサーをベースにした超並列のプロトタイプを9週間で作り上げ、1985年にSIGGRAPHで展示する。翌年、プロセッサーをT414ベース(後にはT800も追加)に切り替えてMeiko CS-1を開発。これはMeiko Computing Surfaceとさらに名前を変えて発売された。
画像の出典はThe Jim Austin Computer Collection。
(http://www.computermuseum.org.uk/fixed_pages/meiko_computing_surface.html)
Meiko Computing Surfaceの本体は、2ドア冷蔵庫より少し小さい程度だったらしい。内部は下の画像のように、VMEのダブルサイズのカードが最大40枚(20枚×2)収まる形だ。
画像の出典はThe Jim Austin Computer Collection。
(http://www.computermuseum.org.uk/fixed_pages/meiko_computing_surface.html)
下の画像がシステム構成の概略図であるが、さまざまな種類のカードが用意され、その上に最低1つのT414(後にT800も追加)が搭載され、このT414同士がリンクでつながる形でシステムを構成するという、まるでTransputerのカタログに出てくるかのような構成になっているのがわかる。
画像の出典はRoland N Ibbett氏とNigel P Topham氏の“HIGH PERFORMANCE COMPUTER ARCHITECTURES - A Historical Perspective”。
(http://homepages.inf.ed.ac.uk/rni/comp-arch/index.html)
当初はT414ベースのカードのみが提供されたが、INMOSがT800を出荷すると、これに対応したT800ベースのカードも追加され、さらにインテルのi860、あるいはSunのSPARCを載せたカードも追加されることになった。
Meiko Computer Surfaceが成功した理由の1つは、ソフトウェア環境をしっかり提供できたことだろう。当初こそOPS(Occum Programming System)なる非常に原始的なOSしかなかったが、後追いでMultiOPSというマルチユーザー環境のOSにバージョンアップ、後にM2VCS(Meiko Multiple Virtual Computing Surfaces)という、ある種の仮想化OSも提供された。
さらにMeikOSという、UNIXライクなOSも一時期は提供されている。ソフトウェア環境としてはOCCAMではなくCやFortranなども提供されるなど、かなり充実していた。
また、少なくとも当初のMeiko Computer Surfaceは、必ずしもスーパーコンピューターのトップを狙っていたわけでもなかったのがかえってよかったという話がある。
実際スパコン市場のトップを狙うには、T414やT800ベースのシステムでは無理があっただろう。その代わり、Meiko Computer SurfaceはCGなどの低価格帯向けシステムを狙い、これが見事に当たることになった。
加えて、Meikoは当初T800の次にINMOSが予定していたT9000を採用する計画だったらしいが、こちらはT800に輪をかけて遅れた結果、i860やSPARCを利用することにした。だが、このSPARCの利用がMeiko Computer Surfaceをさらに広く普及させることになった。
1988年、同社はIn-Sun Computing Surfaceという製品を発表するが、これはフロントエンドにSunのワークステーションを置き、バックエンドにMeiko Computer Surfaceを置く構成で、ユーザーは使い慣れたSunのワークステーションの環境でComputer Surfaceの演算性能を享受できることになった。
1990年までに同社は300以上のMeiko Computer SurfaceやIn-Sun Computing Surfaceを販売している。少なくともこのうちの1台は、日本で活躍していたらしい。
英国人のOwen F Ransen氏が1985年~1987年に日本でアートディレクターをやっていた日記(関連リンク)によれば、CGの製作のためにMeiko Computer Surfaceを利用していたという記述が出てくる。
当時Meiko Computer Surfaceの価格がどの程度だったかははっきりしない。なにしろ構成次第でだいぶ変わるわけだが、たった2人で構成される会社でもなんとか導入できる程度の価格だったことは間違いなさそうだ。
ここでまた脇道にそれるが、この当時Meiko ScientificとINMOSの関係は非常に良好だったようだ。もともとINMOSからスピンアウトしたとは言え、そのINMOSの製品を利用して多くのシステムを出荷していたメーカーであるため、INMOSにとってみればむしろ願ったり叶ったりだったのだろう。
1992年にInmosが主催したTransputer Initiative Symposiumの写真(関連リンク)を見ると、Meiko Scientificがブースを出しているのが確認できる。
また同社は英ケント大学に32個のT800を搭載したComputing Surfaceを寄贈している(関連リンク)など、創業から1990年代初頭は同社にとって非常に良い時期だったようだ。
→次のページヘ続く (後継機はTransputerと決別)
この連載の記事
-
第768回
PC
AIアクセラレーター「Gaudi 3」の性能は前世代の2~4倍 インテル CPUロードマップ -
第767回
PC
Lunar LakeはWindows 12の要件である40TOPSを超えるNPU性能 インテル CPUロードマップ -
第766回
デジタル
Instinct MI300のI/OダイはXCDとCCDのどちらにも搭載できる驚きの構造 AMD GPUロードマップ -
第765回
PC
GB200 Grace Blackwell SuperchipのTDPは1200W NVIDIA GPUロードマップ -
第764回
PC
B100は1ダイあたりの性能がH100を下回るがAI性能はH100の5倍 NVIDIA GPUロードマップ -
第763回
PC
FDD/HDDをつなぐため急速に普及したSASI 消え去ったI/F史 -
第762回
PC
測定器やFDDなどどんな機器も接続できたGPIB 消え去ったI/F史 -
第761回
PC
Intel 14Aの量産は2年遅れの2028年? 半導体生産2位を目指すインテル インテル CPUロードマップ -
第760回
PC
14nmを再構築したIntel 12が2027年に登場すればおもしろいことになりそう インテル CPUロードマップ -
第759回
PC
プリンター接続で業界標準になったセントロニクスI/F 消え去ったI/F史 -
第758回
PC
モデムをつなぐのに必要だったRS-232-CというシリアルI/F 消え去ったI/F史 - この連載の一覧へ