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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第326回

スーパーコンピューターの系譜 半導体メーカーTIが製造したASC

2015年10月19日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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 前回に引き続き今回もかなり古いものだが、TIのASC(Advanced Scientific Computer)を解説したい。そもそもTIことTexas Instrumentsの名前は、必ずしもコンピューターに詳しくない人でも聞いたことがあるくらい知名度が高い会社である。

 そもそもIC(集積回路)を発明したのはTIのJack St. Clair Kilby氏であり、それもあってTIは7400シリーズのTTL ICで莫大な売り上げをあげたほか、ICそのものの特許料収入も膨大なもので、会社を現在の規模にするのに大きく貢献している。

GSIに納入されたASC

 そのTIは、そんなわけで半導体部品メーカーあるいは電卓メーカーとしては非常に有名である一方、コンピューターメーカーとしてはあまり知られていない。

 実際、メインフレームなどには手を出しておらず、ミニコンどまりではあったのだが、それでも一応プロセッサー単体ではなくコンピューターシステムを製造・販売していた時期がある。今回はそうした時期の話である。

弾性波探索のために開発された
「ASC」

 TIの前身は、GSI(Geophysical Service Inc)という会社だ。同社は石油会社に対して油田などの探索のための弾性波探索のサービスを行なうことを目的としていた。

 弾性波探索というのは、ハンマーあるいは爆薬などを使って振動を起こし、その振動が伝わってくる波形を観測することで地中の状況を判断するという技法で、これを使って油田探索などを行なうわけだ。

 このGSIをTIの創立者たちが買収したのが1941年、社名をTIに変更したのが1951年である。その後TIはビジネスを拡大してゆき、最終的には1988年にこの弾性波探鉱サービス部門を売却するものの、それまでの間TIは引き続きこの分野に向けてさまざまな機器を提供し続けていた。

 ということでやっとASCに話が移る。弾性波探索は前述のとおり、振動が地中を伝わるさまを解析して地中の様子を判断するものだが、これには大量の分析作業が必要になる。

 もちろん人手でやっていたら間に合わないので、計算機を使って解析するわけだが、端的に言えばより精度を上げるためにはより高い計算能力、それも浮動小数点演算能力が必要になる。

 TIはこの目的で、“Advanced Seismic Compute”というプロジェクトを開始する。しかし、途中でその名称は“Advanced Scientific Computer”になった。というのは、別に弾性波探索ではなにか特殊な計算をするわけではなく、基本的には一般的な科学技術計算が高速に実行できれば済むわけで、この計算機を弾性波探索専用にする意味はない、と気づいたかららしい。

 このASCプロジェクトが成立するまでの過程は、プロジェクトを指揮したHarvey G. Cragon氏の論文に掲載されている。要約すると、TIはASCに先立ち、TIAC 870という(やはり弾性波探索向け)のシステムを開発していたが、1965年にコストがかかりすぎという理由でキャンセルされる。

 ただキャンセルしたままでは解決しないので、新たな考え方を利用したシステムを開発することが1966年に決まった。実はこの当時、前回説明したイリノイ大学のILLIAC IVの開発が始まっており、TIのこのプロジェクトとILLIAC IVのチームはお互いの様子をうかがいながら作業を進めたらしい。

 そのILLIAC IVに対するASCチームの評価は「データがきちんと整列している時には理想的な性能が出るし、内部構造は同じユニットをひたすら並べるだけなので潜在的に低コストで製造できるが、プログラミングは難しく、また性能はそう高くならない」というものだった。

 その代わりとしてASCではベクトル方式が採用された。これはSeymour CrayがCDCで実装したシステム、あるいはGene AmdahlがIBM 360/95で採用した方式に影響を受けていたとCragon氏自身が述べている。

 最終的には、Fortranでプログラムを書く際にDoループの中身を簡単にベクトルに展開できるようにコンパイラを作れる、という目処が立ったことで、この方式が採用されることになった。

(→次ページヘ続く 「先進的な機能が満載」)

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