そのNexGenは結局、Nx686の詳細を発表したのと同じ1995年10月末に、突如AMDに買収された。実際には水面下で買収交渉が進んでいたのは当然だが、少なくともMPF会場ではそうした話は一切匂わせておらず、それもあって当時MPFを主催していたMicroDesign社は速報を出して、翌週には詳細なレポートを出した。紙ベースの業界紙で、しかも対象読者が全世界にまたがるというのに速報を出したほど、衝撃的な話だったわけだ。
ちなみにNexGenは、Nx686に続いて「Nx786」という新プロセッサーの開発も水面下で行なっており、これを含めた全資産がAMDに買収された。それとともに、元はインテルでPentiumを開発して「Pentiumの父」と呼ばれながらインテルを退社、その後NexGenでCOOを勤めていたVinod Dham氏を、K6とK7の開発責任者に据えた。AMDはプロセッサー資産だけでなく、優秀な開発チームも手に入れたことになる。金額は1995年当時で8億5700万ドルだからかなりの巨額ではあるが、それに見合ったものを手に入れたと考えていいだろう。
Nx686を元にした「K6」がAMDを救う
さて、この買収により手に入れたNx686コアをベースに、以下のような作業を1年かけて開発した結果として登場したのが「K6」である。
- Pentium互換のピン配置に変更。これに合わせてPentiumのバスプロトコルを実装
- キャッシュの構成を変更
- 製造プロセスをIBMの0.35μmから、AMD Fab25の0.35μmに変更
最初のK6は動作周波数が166MHz~233MHz。IBMの「0.35μm Advanced Process」で製造した場合でも180MHzといった数字だったから、速度そのものはそう悪くない。その後、AMDのFab25は0.25μmプロセスに移行して、これにあわせてプロセスを微細化したのが1998年に出たコード名「Little Foot」である。動作周波数は300MHz止まり※1であったが、それなりによく売れたことでAMDの収益性改善にずいぶん貢献した製品でもある。
※1 しかもこの300MHz品がなかなか入手難で、わりと高値がついていた。
これに続いて登場したのが1998年3月の「K6-2」である。コード名は「Chomper」だが、大きな違いは「3DNow!」の実装にある。先ほども触れたが、K6のFPUはそれほど高速ではなかった。元になったNx686はそう遅いはずではなかったのが、K6になって遅くなったと言うべきか。1995年のMPFで発表された数字によれば、FPUを使った演算の性能は以下のとおりとされていた(単位はいずれもサイクル)。
| Nx686 | Pentium Pro | |||
|---|---|---|---|---|
| 命令 | スループット | レイテンシ | スループット | レイテンシ |
| FP load | 1 | 1 | 1 | 2 |
| FXCH | 1 | 1 | 1 | 1 |
| FP add | 2 | 2 | 1 | 3 |
| FP mul | 2 | 2 | 2 | 5 |
| FP div | 16~36 | 16~36 | 18~38 | 18~38 |
| FP sqrt | 16~36 | 16~36 | 29~69 | 29~69 |
スループットは「連続して命令を実行した場合に、結果が出てくるまでの頻度」である。つまりスループットが「2」であれば、2サイクルごとに1回結果が出てくることになる。一方レイテンシは「最初に命令を送り込んでから、結果が出てくるまでの時間」となる。レイテンシが「3」であれば、命令を実行してから3サイクル後に結果が得られる。
表の数字は小さいほど高速であるが、比較するとNx686のFPUはそう遅くないというか、Pentium Proに十分匹敵する性能である。ところが、こうした高速なFPUは当然回路も複雑になるため、トランジスター数を費やすことになり、ダイサイズが増える。これはチップの製造原価を引き上げて、歩留まりを下げることになる。これを避けるため、K6ではFPUの性能を下げることでダイサイズを節約した。
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