ハルルはキシリアを“黙らせる”存在
富野氏:僕は僕で、まったく同じ気分で湖川キャラクターを受け取った。キャラクターについて、僕はほとんど注文をしていません。
湖川というキャラクターデザイナーに発注した瞬間に、作品のディテールはほとんど決まるんです。ですからそれにすり寄って、ドラマの意味性をぶつけていくわけです。
基本的な“気分”が自分の中にあって演出をしていくときに、自分1人の気分だけでは、ご覧になる画面は、実を言うと出てきません。湖川がいるからだし、湖川のキャラクターがあるからああいう芝居をさせたということが、山のようにあるんです。
特に発動編のハルル(敵方のリーダー格の女性)は究極的に湖川のキャラクターが要求しているんです。ここまで行けと。それに応えようとしたときに、ガンダムがある上でのイデオンだったために、目いっぱいやらなければならなくなった。流しの仕事が一切出来ないところまで行った。
視覚的なことまで言いますと、湖川キャラクターの何に一番困って、なんとかこのデザインというか作画を黙らせなくてはいけない、ドラマに全部封じ込めないといけないということで、湖川の描く絵、コンテでは、(あごの線をさして)この線! この線を目立たないように、黙らせるように演技をつけるにはどうするか。
一番気にしたのは、男達のキャラクターです。ものすごく強い性格の女達を、あごの線を見せないように、強い演技、強いキャラクターに作っていくということが要求されている。そういうことが組み合わさってイデオンというものは出来ています。
湖川氏:お富さんが持っている気分というのは、その当時、よく伝わってきていました。勝手にやっていいんだよという気分がどんどんくるんです。
実は今日、質問しようと思っていたことがありましたが、答えが分かったという事項が有ります。それはハルル。
(富野監督が)キャラクターはだいたいOKしてくれて、自分の気持ちが入っていけるから、イデオンでは気持ちがどんどん過剰になってきたんですね。ところがハルルのキャラを作ったときに、「これじゃだめ」って、初めて返ってきたんですよ。その理由を聞きたくて、ずっと知らなくて、今答えを言いましたよね。アレ(アゴの線)が嫌いらしいです。(会場笑い)
アニメのキャラクターの中では初めてあごが張っている美人を世に出そうと思ったんです。僕はヘンなことをやりたがるんですね。結局僕はハルルが好きで気持ちが入っているので、ほかに5体くらい美人ではないハルルを作りました。それをお富さんに見てもらったところ、「うーん、最初のでイイよ」と。(会場拍手)
富野監督:だからなんですよ。ハルルは予定よりも強くなった。全体のキャラクターの相関図での足場としては、彼女はものすごく立ってくれたし、親子の感情みたいなもの、自分では想像を出来ないものを作り出すことができた。作り出すことができたときに、今ものすごく懐かしいことを思い出しました。
何でハルルをああいうふうにしなければいけなかったかというと、ガンダムのキシリアに勝ちたかったんです。あの女を黙らせたい。キャラクターをもう1人作りたかったということがあって、かなりムキになった。
富野キャラは実在する
藤津氏:仮想敵自分みたいな感じですね。
富野監督:いや、それはちょっと違います。僕の中ではあの当時から、作品の中に登場してそれなりにできあがったキャラクターというのは、全部実在しています。キシリアはキシリアです。僕ではありません。かなり僕はキシリアが好きなの。マチルダさんより(笑)。
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