8月7~8日、タワーホール船堀にて日本SF大会「2010TOKON10」が開催された。TOKON、つまり東京で実施するSF大会としては10回目にあたるのだが、日本SF大会としては第49回となる、もはや老舗のイベントである。
そもそもSF大会ってなんぞや?
日本SF大会というのは、例えば“コミケ”のような同人誌即売が中心のイベントとは違い(“ディーラーズルーム”と呼ばれる同人誌即売会場もあって、多くのサークルが出店している場所もあるが)、企画ものの展示がメインとなっている。各種グループの発表やSF作家のトークといった、趣向を凝らした企画に参加することこそが大きな楽しみなのだ。十数件の企画が同時併行で開催されるため、すべてを見て回るのはもちろん無理なのだが、駆け足で回って見た中から注目すべき企画と、会場全体の雰囲気を紹介していこう。
会場の様子をピックアップして紹介!
セミナー「幹細胞医学が見る夢」
大ホールで実施された本大会最大とも言える企画は、慶應義塾大学による「幹細胞医学が見る夢」と題した市民公開講座だ。これは慶應大学から招いた教授・講師の方々と作家・瀬名秀明氏、哲学者・東 浩紀氏が、生命医学の最前線を紹介するとともに、その意味をSFに繋げるというアカデミックな構成だ。
トークイベント「佐藤嗣麻子の映画&トークショー」
佐藤嗣麻子氏、山崎 貴氏らがさまざまな映画(いわゆるSF映画には限らない)をネタにしたトークショーなのだが、やはり今年の年末に公開を控えた「ヤマト」(実写版)への言及も見物だった。
トークイベント「初めてのツイノベ」
Twitterベースで小説を書いている人たちを呼んでのトークショー。140文字以内でどれだけの表現か可能かという技術的な観点よりも、いままで小説を読まなかった読者が読むだけでなく自分で書きはじめているという、書き手/読み手ともに新しい層が形成されているという分析が、なかなか興味深い。
トークイベント「ヒコーキが先かストーリーが先か」
ここではアニメ「ストラトス・フォー」に関わった人達を中心に、飛行機アニメの描写を熱くトーク。もちろん「ストーリーが先か」の問いなど問題外なくらい、ひたすら飛行機を描きたくてアニメを作っているという人たちなのだが……。企画書一発目が「こうです」と描かれたのが、パンツを見せながらうつ伏せ馬乗りの女の子(同作品のTSR4は伏臥式コクピットなのだ)。
ちなみに別の部屋では「ストライクウィッチーズの世界設定」企画もやっていて、“パンツアニメ”に見えて(いや実際にはパンツではないのだが……)、実はいかに緻密に軍事考証がなされているかという濃い話が語られていた。
トークイベント「スーツアクター/スーツアクトレス中の人座談会」
ゴジラなどの怪獣系から戦隊ヒーローまで、「スーツの中の人」を招いてのトークショー。火薬を使ったシーンにおける“やばかった話”など、普段あまり顔出しでしゃべらない人たちだけに「ああ、あれの中ってこんな人だったのか」という新鮮な驚きと感動があった。
このほかにも特撮系企画「TVファンタスティック」では、池田憲章氏がおなじみの解説スタイルで熱く古いSFドラマを紹介していた。
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もちろんアニメ・特撮関係も多いものの、活字SFをじっくりと語っていこうという企画もあり、各ジャンルの作家陣の座談会や日本SFの歴史を見直そうといった堅めの内容もある。特に、今年1月に他界した柴野拓美氏を偲ぶ企画では、国内SFの黎明期からの故人の役割をSFの大御所たちが振り返るトークとなった。
さらに今回、星雲賞受賞となった「グイン・サーガ」(シリーズものは本来、完結をもって賞の対象となるのだが、作者逝去により未完のままでの受賞となった)を振り返り、100巻を超えるこのシリーズが、30年という長期に渡ってSF界に与えた影響がいかに大きかったが再認識させられた。
このほか、宇宙関連の企画などもかなりの盛況を見せていたのだが、セミナーやトーク中心の企画に加えて展示タイプの各種企画がSF大会という“お祭り”を盛り上げた。「カフェ・サイファティーク」は、メイド喫茶ならぬ“ハカセ喫茶”。現役理系のメガネ君たちが白衣で接客し、高度な知的会話を楽しめるというもの。しかも、特別ゲストとして瀬名氏も白衣で登場するなどサービス満点だ。
――ともあれ、アニメや特撮関連の企画で盛り上がりたい方でも、活字SFの現状と未来をまじめに考えたい方でも、SFというジャンルで括られるモノを楽しむことができるならば、この年に一回の祭りを必ずや楽しめるはずだ。