「ネットの声を実社会に届ける」ことを目的に設立された任意団体・インターネット先進ユーザーの会(通称MIAU)は26日、東京都渋谷区の映画専門大学で、緊急シンポジウム「ダウンロード違法化の是非を問う」を開催した。
先週18日に文化審議会著作権分科会の私的録音録画小委員会で、事務局である文化庁著作権課から「違法複製物からの複製は著作権法30条(私的使用のための複製)の適用除外とする」という資料が提出され、その方向で報告書を作成する動きが出ていることを受けたもの。
シンポジウムには、MIAUの発起人でAV機器評論家・コラムニストの小寺信良氏、同じくIT・音楽ジャーナリストの津田大介氏のほか、弁護士の小倉秀夫氏、上武大学大学院教授の池田信夫氏、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテン総合研究機構 講師の斉藤賢爾氏などが出席。法律、経済、技術の見地から、ダウンロード違法化によって生じる歪みに関する講演があった。
「ダウンロード違法化がなぜ問題か」を議論
モデレーターを務めた小寺氏は、10月のMIAU設立時に呼びかけたパブリックコメントの送付数が7500件に達したことを報告(関連記事)。その8割がダウンロード違法化に反対するものだったと述べた。
加えて同氏は私的録音録画小委員会で、文化庁の川瀬真 著作物流通推進室長が提示した「改正(ダウンロードの違法化)は止むを得ない」という見解を紹介。「ダウンロードの違法化に関する関心は広いが、具体的に何が問題なのか? 判断を決めかねている人に対しても分かりやすく、問題点の指摘ができるようなプログラムを考えた」とシンポジウムの主旨を説明した。
「表現の自由」や「知る権利」に重大な危機
弁護士の小倉氏は「現行法でも公衆送信権ないしは送信可能化権の侵害として、無許諾のアップロードを取り締まることができる。しかし米国やドイツの権利者団体が数千万の規模で訴訟が起こしているのに対して、日本ではそういった権利行使の事例がほとんどない」と指摘。そういった状況で、ダウンロードも違法化することが正しいのかどうか、批判的な立場でコメントした。
加えて仮にダウンロードが違法化した場合でも「違法ダウンロードが行なわれたかどうか」を探知することは難しく、証拠も残りにくい。
「取り締まるためには、刑事訴訟を起こして証拠保全手続きを取り、裁判所の職員が(疑がわしいというだけの)ユーザーの自宅に押しかけ、HDDの内容やファイルの閲覧履歴などを確認する必要があるだろう」(小倉氏)
文化庁は将来的に「著作権法30条(私的複製の例外)が不要になる」可能性を示唆しているが、これは著作権法30条が体現した「法は家庭に入らず」という原則が破られ、プライバシーが著しく侵害される危険性もはらむ。
ダウンロードの違法化は「抑止効果」を得るという意味合いが強く、実際に権利を行使する権利者はいないという見方もあるが、「それならば、ダウンロード行為を違法にする意味があるのか」と小倉氏は問いかける。
違法サイトと適法サイトをどう見分けるかという問題もある。権利者側は「適法マークによって、違法なサイトかそうでないかを見分けられるようにする」としている。しかし、「こういった申請には相応のコストがかかるし、権利者団体やその外郭団体に行って、適法マークを取得できる人しかコンテンツのアップロード行為ができなくなる」と小倉氏は言う。あまりにユーザーのリスク意識が高まってしまうと、適法マークを取得できないアマチュアなどが自分のコンテンツを流通させにくくなるという主張だ。
さらにマークのない海外サイトを利用するリスクも高まる。お墨付きを得た国内のサイトしか安全に利用できないとなると、ネットの利用自体が減り、「情報鎖国」が進むかもしれない。結果として「表現の自由」や「知る権利」にも重大な危機が訪れる危険性があると指摘する。
小倉氏の発表は「現行法は業者保護のための競業規制法」、それに対して改正後の著作権法は「一般市民が知ってよい情報と知るべきでない情報をJASRACなどがコントロールする情報統制法になる危険性がある」という言葉で締めくくられた。