Rocket LakeはRyzen 5 5800Xと互角に戦える性能 インテル CPUロードマップ
文●大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII
2020年10月19日 12時00分
先週はAMDのZen 3の話題だったので、今週はインテルのRocket Lakeの話をしよう。ただそう言えば、ロードマップそのものをずいぶん取り上げていなかった気がするので、まずはラインナップの更新からスタートしたい。
前回のインテル CPUロードマップは連載537回なので、ほぼ1年近く空いた形になる。そこで、Coffee Lake世代までは落とし、Comet Lake以降でまとめてみた。
Ice Lake-SPとSapphire Rapidsでは
マザーボードの交換が必要
まずCore-X向け。連載537回の1週間ほど後になる11月29日に、Core i9-10900XとCore i9-10980XE Extreme Editionが発売になっている。
こちらはベースがCascade Lakeということで、現時点でもインテルのハイエンドに君臨しており、直近でこれが更新される予定はない。もっとハイエンドであるワークステーション向けのXeon Wについては、こちらもやはりCascade Lakeがベースになっており、こちらも更新される予定はまったく聞こえてこない。
とりあえずCooper Lakeに関してはXeonの、それもごく特定顧客向けという感じであまり数量が出ていないようで、Xeon Wに落ちてくる可能性はゼロである。むしろ年内に投入とインテルが公約しているIce Lake-SPの方がまだ可能性はある。
しかしIce Lake-SP、AI性能は確かに高いものの、動作周波数そのものは全然上がらない欠点もあり、Xeon W向けにどの程度投入するか不明である。
またIce Lake-SPではプラットフォームは連載578回で説明したようにLewisburg Rチップセットが採用される。これは現在のLewisburgのIce Lake対応版なので、既存のマザーボードの延長でも行けそうな気もするのだが、問題はIce Lake-SPがPCIe Gen4のサポートとDDR4×8chのメモリーI/Fを持つことで、技術的には延長で行けると言っても現実問題としてはマザーボード交換になる。
ただ連載578回の画像にもあるように、次のSapphire RapidsはPCIe Gen5とDDR5メモリーのサポートに切り替わるので、これまたマザーボード交換は必須である。
こう考えた時、果たしてIce Lake-SP世代のXeon Wを本当に投入するのかは少し疑わしい気もする。とはいえ、AMDのRyzen Threadripperに市場を食い荒らされるのを黙ってみているというのもインテルらしくないので、なにか対抗馬は出すとは思うのだが。
Comet Lake-Sに新製品の予定はなし
さて、次がCore iシリーズ。今年4月3日に、まずはCore i9からCeleronまで、合計22製品を同時発表した。もうすでにおなじみのComet Lake-Sシリーズである。
コアそのものはCoffee Lakeとほとんど差がないが、最大10コアになった。一応インテルによれば、Coffee Lake→Comet Lakeでも多少プロセスの改良で動作周波数を引き上げたとしているが、消費電力を増やしても耐えるように工夫した、という以上ではないように思われる。これらの性能については5月に加藤勝明氏の検証記事が上がっているので、興味のある方はご覧いただきたい。
ちなみに当初の22製品は、TDPが125/65/58Wのいわゆる通常版であり、後追いで5月にTDPが35Wの製品も投入されている。そして7月末、突如Core i9-10850Kがインテルの製品情報紹介サイト「Intel ARK」に出現。8月に発売が開始された。
性能評価はこちらにあるが、おおむねCore i9-10900Kにかなり近い性能でありながら1万円安いというお手頃製品である。
これに続いて他にもなにか出るか? というと、直近でわかっている範囲では特に新製品の予定はない。もちろん、Ryzen 5000シリーズの発売日である11月あたりに向けて、例えばCore i9-10900KFの価格をさらに下げて投入するというような策があるのかもしれない。だいたい今だと市場価格が6万前後であるが、これが5万を切るような価格で投入されたら結構なインパクトはあるだろう。
Gemni Lake Refreshの後継
Elkhart Lakeは2021年第1四半期出荷
ちなみに直近でもう1つ見えているのが、Pentium/Celeron系列である。従来はGoldmont Plusコアを搭載したGemni Lake RefreshことPentium SilverのJ5040/N5030、それとCeleronのJ4025/J4125/N4020/N4120が一応投入されているが、これの更新がすでに発表されている。
今年9月23日、インテルは組み込み向けのTiger Lakeと併せて、特に産業機器向けの機能安全にも対応した組み込み対応のAtom x6000Eシリーズを発表した。
このAtom x6000Eシリーズ(コード名はElkhart Lake)は全部で12製品になるのだが、この中には組み込み向け以外にも利用可能なPentiumとCeleronが2製品づつ含まれている。
分類としてはEmbedded(組み込み向け)ながら、使用条件がPC/クライアント/タブレットということで、それこそ省スペースPCやMini-ITXのワンボードなどで、今後はGemini Lake Refreshに代わって使われていくものと思われる。
このElkhart LakeはTremontコアを搭載し、製造プロセスは10nmである。問題は出荷時期で、現状は発表のみであり、出荷予定時期は2021年第1四半期となっている。おそらく現実的には、次に説明するRocket Lake同様に2021年3月になるものと思われる。
14nm++プロセスのRocket Lakeは
2021年3月に投入予定
さてそのRocket Lakeの話を。ジサトライッペイ氏の記事にもあるように、インテルはTech blogの中で、Rocket Lakeの登場を発表した。もっとも公表されている内容はごくわずかで、以下の2つだけしかない。
- 2021年第1四半期にリリースされる
- PCIe Gen4を(やっと)サポート
ただもう少し雑多な情報が集まってきているので、これを説明しよう。まずRocket Lakeの正体であるが、14nm++を利用するが、プロセッサーコアはついにSunny Coveに切り替わる。
連載514回では、Sunny Coveを14nmに持ち込むのはダイサイズの点から難しそうで、それもあってコアそのものはSkylake世代から延々と続く従来のコアのままと思われたのだが、ついにSunny Coveに切り替える決断をしたことになる。
実は次の世代向けのコアを前世代のプロセスで製造する、という方針は大っぴらに明らかにされていた。下の画像は、2019年のIEDMにおけるASMLの基調講演のスライド(の中で引用されたインテルのスライド)だ。
これは14nmの話ではないのだが、例えば2021年に利用されるコア(Golden Cove)を、10nm+++に持っていく(Backport oppotunity)ことがありえるとしている。同じように、10nm+をターゲットに作られたコア(Sunny Cove)を14nm++に持っていくのも、アリということなのだろう。
そのRocket Lakeであるが、まさに連載514回の最後に示した試算のように、Tiger LakeからGPUとImaging、Thunderboltなどのコントローラーを全部抜くと、4コアがおおむね100mm2、8コアで180mm2という計算になる。
10コアComet Lakeのダイサイズはおおむね206mm2ほどなので、GPUをどうするか次第ではあるが、10コアのComet Lakeよりやや大きい程度で8コア+GPUをなんとか収められる計算になる。
コア数そのものは今のところ最大8コアになるようだが、幸いにSunny CoveコアはIPCが平均18%向上すると説明されており、動作周波数が同じであってもトータルの性能は10コアのComet Lakeとほぼ同じで、シングルスレッド性能は2割弱のアップになる。これは2ダイ構成のRyzen 9 5900X/5950Xと競合するには厳しいが、1ダイ構成のRyzen 5 5800Xとは互角に戦える可能性がある。
問題は消費電力で、こればっかりはプロセスをどうにかしない限り無理であり、短期的にどうにかできるメドが立っていない。したがって、次のAlder Lakeが出てくるまでの間は、「性能が同じで価格が安い」という形で訴求することになると思われる。実際、伝えられているRocket Lakeの話は、Ryzen 5000シリーズよりも低めに設定されているようだ。
また連載576回で8コア12スレッドという謎の構成になりそうという話をしたが、どうもこれはなくなり素直に8コア16スレッドになったようだ。これはスケジューラーが間に合いそうにないか、あるいは思ったほどに効果が出ないので、big.LITTLEはAlder Lakeまで先送りにするか、もしくはその両方であろう。
ちなみにPCIe Gen4に対応と言いつつも、チップセットとの接続はDMI 3.0(つまりPCIe Gen3相当)である。ただし、従来はDMI 3.0×4の接続だったのが、DMI 3.0×8になるという話が出ている。
ただこれは既存のIntel 400シリーズチップセットとの互換性が取れない。どうも400シリーズチップセットと接続の場合にはDMI 3.0×4構成で、その分帯域が減るようで、それもあってRocket Lakeをフルに活用するためには同時発表予定のIntel 500シリーズチップセットが必須となるようだ。
ではPCIe Gen4はどこに? というと、これはCPUから出る20レーン分だけのようだ。従来はPCIe Gen3×16が出るだけだったが、Rocke LakeではこれがGen4×16+4に変更されたらしい。このあたりはRyzen 3000シリーズの後追いという感じである。このCPUに追加されたx4レーンは、NVMe M.2 SSDの接続用ということだろう。
GPUはXe世代のものが搭載されるが、構成はTiger Lakeなどと同じくXe LPで、しかもEU数は32(サブスライスが2つ)に抑えられている。もっともこの32EUというのは最大構成であって、Rocket LakeでもCore i3向けは16EU(サブスライスが1つ)に制限されたりするかもしれない。
またメモリーもDDR4-3200をサポートすると見られる。DDR4時代もそろそろ末期であり、ここでサポートしなかったらもうサポートするタイミングがないため、このあたりは妥当であろう。
読めないのは動作周波数である。おそらくComet Lakeと同等程度は確保されると思うが、例えばかつてのCore i9-9900KSのように全コア5GHz駆動みたいな無茶な構成は、消費電力的に厳しいように思われる。
最近のインテルの製品は、消費電力が許す限り動作周波数を上げる方向にチューニングする傾向なので、おそらくCore i9-10900Kに負けない爆熱仕様の製品になることは間違いなさそうだ。
したがって、既存の400シリーズマザーボードをお持ちの方は、仮にRocket Lakeに載せ替えを考えているのであれば、マザーボードの更新も同時に行なうことを推奨したい。少なくとも現在聞こえている情報をまとめる限り、400シリーズマザーボードを使い続けてもあまり良いことはなさそうだ。
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