アップルはペン入力対応の新iPadで
本気で日本の教育現場を「獲りに」きている
3月27日にアップルがアメリカ・シカゴで開催したイベントは、工業高校の講堂で行なわれた。新型iPadが発表されたものの、今回はどちらかといえば脇役的な存在に過ぎなかった。アップルがこのイベントで主に語りたかったのは、教育現場への取り組みであり、まさにアップルが本気でこの市場を開拓していきたいとする意気込みが感じられた。
もちろん、アップルとしてはグーグルの「ChromeBook」を意識しているのだろう。アメリカの教育市場ではChromeBookの人気が高い。製品が安くて、ネットに接続しても安全安心ということもあり、アメリカの教育市場に受け入れられている。
新たに発表されたiPadは前モデルから価格は据え置くものの、Apple Pencilによるペン入力に対応した。ペンが使える事でノート代わりになり、さらにARアプリに対応することで、目の前に現実ではあり得ない世界を再現するできるようになり、想像力を豊かにする学習ができると期待されている。
今回のアップルイベントを「アメリカの教育現場の話」として聞き流してしまうと、それはもったいないことだ。実は、教育現場におけるアップルの取り組みは、日本でも大きな影響力を及ぼししつつあるのだ。
昨年、文部科学省から新学習指導要領が発表され、2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化されることが明示化された。
もちろん、プログラミング教育が必修化されたといっても、国語、算数、理科、プログラミングといったように、プログラミングがひとつの授業として独立して行なわれるわけではない。また、何かひとつのプログラミング言語をみっちりと勉強し、プログラマーを養成するというわけでもない。
算数や理科の授業の中で、「プログラミング的思考」を身につけていくというのが狙いのようだ。プログラミング的思考とは、論理的に物事を考え、手順をきっちりと踏むことで課題を解説していく思考のことだ。例えば、ロボットに対して「なんとなく右に動く」という指示は通用しない。プログラミング的には「右を向く」「そこから三歩歩く」「正面を向く」といったように、ひとつひとつ丁寧に手順を指示しなくては動いてくれない。そうした論理的な思考を養うためのツールとして、プログラミングを学んでいくというスタイルだ。
このプログラミング的思考の育成は、日本のみならず、世界中で広まりつつある。そんななか、アップルが注力しているのが、iOS向けの開発言語である「Swift」を学べる「Swift Playgrounds」の普及だ。
Swift PlaygroundsはiPad向けに提供されており、ゲーム感覚でSwiftが学べるようになっている。実はすでに日本において、Swift Playgroundsを使って子どもにプログラミング的思考を教える教室が開かれている。
筆者は3月初旬、横浜市にある「はまぎんこども宇宙科学館」において「iPadで楽しく遊ぼう! Swift Playgroundsでコードに挑戦」という小学4年生以上を対象にした講座を取材してきた。
講座ではまず「プログラミング的思考を養う」ということで、さまざまな身体のポーズが描かれたカードを配り、その中の1枚を子どもたちが選び、そこに書かれたポーズを、目隠ししている講師の先生に伝え、同じポーズをとってもらうというゲームが行なわれた。
生徒がひとつ、身体の一部を動かすようにポーズを指示していくのだが、的確に指示をしないと、講師の先生がどんどんおかしなポーズに変わっていく。ここで、生徒たちは「しっかりと指示をすることが重要」ということを学ぶようになるのだ。
その後、Swift Playgroundsで黙々とコードを入力し、そのコードによって、プログラムがどんな動きをするのか体験していく 講座終了後、参加した生徒に話を聞いたところ「ゲーム感覚でおもしろい。Swiftは英語の単語があるので、わからないところもあるが、それが英語の勉強になって良かった」という声が返ってきた。
講師によれば「2020年のプログラミング教育の必修化もあり、親御さんの関心が極めて高い」という。今回、アップルが語った教育市場における意気込みは、アメリカに限った話ではなく、将来的に日本の教室の学習スタイルを変えていくことになりそうだ。