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エデュケーション@プログラミング+第5回

小中学校の授業でゲーム作りは当たり前、ニュージーランドは小学3年でファイナンシャルを学んでいる!!

「世界では学校が変わってきた!」上松恵理子さんインタビュー

2017年06月15日 09時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

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 2017年6月24日(土)、第二回全国小中学生プログラミング大会のプレイベントとして「プログラミング体験キャラバン」が、朝日新聞東京本社浜離宮ホールで開催される。午前中は、保護者や教育関係者向けのシンポジウム「新しい学びと子どもたち」、午後は「小中学生向けのワークショップ」という内容だ(詳しくは文末参照)。シンポジウムでは、「海外のプログラミング教育の最新事情とその背景」と題し、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授の上松恵理子氏の講演が行われる。上松氏は『小学校にプログラミングがやってきた! 超入門編』(三省堂刊)の著者であり、海外の教育事情に関する第一人者。同イベントに先立ち、ここではプログラミング教育の前提となるネット時代の学校について聞いた。

イギリスが3年前に大きくICT教育の舵を切った理由

イギリスのプログラミングの授業風景(写真:上松恵理子)

―― プログラミング教育というとイギリスのニュースを多く見かけます。

上松氏(以下、敬称略) そうですね。イギリスは1995年に教科「ICT」というものを、小中高校の必修で入れました。ところが、2014年にそれをやめてしまったんですね。その理由としては、エクセルやワードの使い方を教えることが中心だった内容を、これからは、コンピューターを使って何かを生み出す、協調して学ぶなど、もっと先のことをやるべきだということからなんですね。それで、2014年に教科「コンピューティング」をはじめました。

―― どんな内容になったのですか?

上松 「インフォメーションテクノロジー」、「デジタルリテラシー」、「コンピューターサイエンス」の3つの要素からなっており、もちろんその中に、プログラミング教育も小学校1年生から必修で入ってきています。プログラミングに関しても、何のためにどう使うのか? だけでなく、そういった背景まで考える内容になっています。

―― 目的や理由がセットになっているということですか?

上松 そうですね。教科書を見せてもらうと小学校3年生で「GPS(全地球測位システム)」が出てくるんですが、どういうシステムで、なぜそれが必要で、それによってなぜ自分たちの位置が分かるのか、システムが構築された経緯や背景まで勉強するんですよ。

―― 小学校3年生で? 日本では「ポケモンGO」ですけどね。

上松 だから、このソフトを使って遊ぶことができるとか、プログラミングでこの言語ができるとか、エクセルを使いこなせるとかではなくて、そこにどんなプログラミング技術が使われているかや、情報社会と技術がどう関連していくかなどを勉強していくことを大切にしていますね。そうした学びに対する評価基準もできています。それを、いろんな外部機関が学校に来てやってくれている。

―― なるほど、イギリスは、モデルとして1つありますね。ニュース等を見るとサイバーセキュリティも重視していたと思います。

上松 そこもきちんとやっていますね。

お話をうかがった上松恵理子氏。海外の教育事情に精通されている。

子どもたちの人権とプログラミング教育の関係

上松 イギリスと並んで紹介したいのは北欧のモデルですね。

―― 北欧はどんな感じなんですか?

上松 フィンランドやスウェーデン、デンマークなどを見てきましたが、たとえば、授業中に机の上にスマートフォンがあるのは当たり前なんですよ。北欧の隣にエストニアがありますけど、エストニアにいたっては小学校1年生でスマートフォンの普及率が90%以上と先生が言っていました。聞いてみると小学生向けの安い料金プランがあるそうです。そんな具合ですから、授業は、国語の授業でもパソコンのある部屋でやります。要するに、大人の社会と同じで先生に提出するものはちゃんとテキストエディタで作成して、プリント出力もありますし、クラウドに提出しています。しかも、大量に書かせる。日本は先進国の中ではいちばん、小学生に創作文の長文を書かせていないと思います。漢字の練習は熱心な一方で、毎回論文を提出させるという授業は少ないですよね。スウェーデンの小学校の先生が、創作文をデータで提出してもらうと、段落の入れ替えなどが簡単でよいと言っていました。

―― アメリカもエッセイを書かせますよ。そのためにキーボード操作を覚えるんですよね。

上松 はい、数学に特化した高校ですらエッセイがちゃんと書けないと、いくら数学ができても試験で落とされますね。理科の実験観察結果とか、国語はもちろんですが、毎時間毎時間大量にレポートを書かせています。

―― なぜ日本とそんなに違うんでしょう?

上松 日本は先生が忙しすぎるんですよ。生徒を30人、40人と見なくてはいけないですし。毎回毎回授業で生徒全員の長文をチェックするというのは労力が必要ですから。

―― 海外はもっと少人数教室なんですか?

上松 北欧など10数人のクラスもありますよ。それでも、先生方は教える時間が終われば帰ってしまいます。先生は「教える」ことを専門にやっていて、それ以外の、たとえば不登校などがあったら、担任の先生ではなくて専門家が対応するんですよ。教材費なんかも日本は封筒に入れて先生に渡したりして、先生がその管理などをするというケースがありますが、海外ではウェブサイトでクレジット決済という感じです。先生は教えることに専念しているんですね。

スウェーデンの算数の授業風景。机にはタブレットが並び、教材が表示されている(写真:上松恵理子)

―― なるほど。

上松 そんなふうに日本とは異なる状況なので、スマートフォンを自由に持ち込めるテストもあったりします。これはかなり前からのことで、数学のテストなんかもインターネットを見ながら受験できるものもあります。

―― どんな問題が出るんですか?

上松 イメージ的には、研究論文計画書みたいなのを書かせるといったことが、テストの内容なんですね。

―― 要するに、マル・バツ式のテストじゃないということですね。

上松 デンマークは完全に「BYOD("Bring your own device" =個人の機器を持ってくる)」になっていて、スウェーデンなども市によっては紙の教科書をやめたところがあります。

―― "BYOD" ということは学校で端末を用意していない?

上松 いえ、教室には5, 6台ノートPCがあって、生徒によってはそれを使っています。そうした端末を使って調べ学習などをやるわけですが、たとえば音楽を聴きながらやってもいいんですよ。調べ学習の時間では。

―― 日本だとありえないですね。コンピューター以前にベースとなる文化が違うのでしょうか?

上松 子どもの人権をすごく大事にしているんですね。

―― そこは、まるで知りませんでした。

上松 海外の学校を訪問するとプログラミングの授業は必ず見せてもらっていますが、中学校の選択授業では「アクティブラーニング」(近年注目されている子どもが主体的にかかわる学習法)でゲームを作っていたりします。どうなるとクリアできるか、どんなキャラクターを登場させるか、そういうことを議論しながらやっています。

―― どこまでも子どもたちが主体なんですね。プログラミングは作りたいものがあるとき、いちばん勉強しますからいいですね。

上松 そうなんです。自分がなにを作りたいかだけではなく、遊ぶ側のニーズも考えます。一方で、フィンランドの倫理学とか宗教学の授業を見せてもらうと、全員タブレットを持って、それを使って意見交換していたりします。タブレットは、クラウド上でみんなの意見をやりとりするのに使っているんですね。面白い意見に対しては、先生がその場でチャットみたいな形で返信するんです。

フィンランドの授業風景。写真手前のPCに映っているのは、デバイスで教材データや学習記録を管理するサービスの画面(写真:上松恵理子)

―― 日本でも大学ではそうしたツールを使う話がありますが、スウェーデンの場合はツイッターなどを活用しているんでしょうか?

上松 学習用の専用のアプリです。海外では国の機関が推奨する教育アプリがたくさんあります。子どもの人権を尊重して、先生が教え込むというのではなく、子どもの学習すべきものを中心に考えているということですね。ちなみにヘルシンキ市では親が子どもの学習状況をリアルタイムで知ることができるアプリもあります。

世の中の変化に対して学校も変化していく

上松 日本は、国語・数学・社会・理科・英語という5教科が、私が教師をやっていた頃から変わっていない。実は、そういう国はなかなかないんですよ。

―― 海外は変わってきているんですか?

上松 子どもが将来のために学ばなくてはいけないものを、時代にあわせて変えてきていますよね。ニュージーランドなんか、公立小学校の正規のカリキュラムに「ファイナンシャル」という授業があるんですよ。それを見てきて、今回、論文にも書かせてもらいました。

ニュージーランドの授業風景(写真:上松恵理子)

―― どんな感じですか?

上松 たとえば、20人のクラスだとして、その子たちにお金を週に1回あげるんです。

―― 現金を、ですか?

上松 いえいえ、授業のための仮想的な通貨ですよ。それで、たとえば遅刻したら罰金とか、ゴミを捨てたらとか、逆に掃除したらあげるとか、その先生によっていろんな使い方をするんですけど、共通してやるのは、不動産、マンションを買うとか、ローンを組んだりとか。それで、今度は部屋を貸して収入を得るとか。マーケットプレイスで自分のマンションがいくらだとか見れたり、地震でマンションが崩れてといったことも起きて、その場合は、保険に入っていた子は全然損をしなかったとか。あるいは、家賃収入があると税金はいくらだとか学ぶんですね。もちろん仮想ですから誰も現実に損はしませんよ。

―― 仮想とはいえお金が動くと楽しそうですよね。

上松 家賃収入だけじゃ足りないので就職しましょうということで、履歴書を書いて先生に持っていくなどの就活体験もするんですよ。

―― すごいですねぇ。公立の小学校でそういう授業をされているって。

上松 ニュージーランドのお隣のオーストラリアなどは、デジタル教材がものすごくたくさんあります。ウェブベースで、先生や保護者、子どもなどによってどこまで見れるかのパーミッション(閲覧権限)は決まっているんですが、教材データ自体は1つのところにまとまっている。それをダウンロードして授業をするわけですが、1時間やったら「今日の授業は難しかった?」と聞いて、子どもはボタンを押して回答します。すると先生側に回答結果がグラフで表示され、難しかった子どもが多かったら次の時間は復習から入るし、簡単すぎた子が多かったら、じゃあ次はひとっ飛びして違うことをダウンロードしてやろうかなと、先生がその場で選ぶことができるんです。

―― 企業が90年代にネットワークを導入してオフィスやグループウェアなんかを入れていったことを、学校はまだやっていないということでしょうか。企業も、日本は世界的な水準からみて進んでいるほうではないですけどね。

上松 そうですね。あと先生の仕事で大変なのは、大学進学とか高校進学のときに、その子の内申書を書くことです。ところが、大学入試は、オーストラリアのクィーンズランド州などはそうですけど、マイナンバーのようなIDを大学に伝えるだけなんです。日本では紙で金庫に保管されているようなものが、オンライン化されていて、一発でその子の過去の学習履歴を見ることができる。

―― しかもそのほうが正確そうですね。

より詳しいお話は6月24日の講演にて!

 海外の学校事情を、いちばん詳しく見て研究されているという上松氏には、これ以外の国々の事情についてもお聞きできた。今回は、その中でも注目すべき事例をほんの少しだけピックアップして紹介したが、2017年6月24日(土)に開催するシンポジウムの講演では、この日のテーマである「プログラミング教育」について、より詳しく触れていただく予定だ。ご興味のある方は、ぜひ「第二回全国小中学生プログラミング大会 プレイベント・プログラミング体験キャラバン」にお出かけいただきたい。

第2回全国小中学生プログラミング大会 プレイベント
『プログラミング体験キャラバン』

イベント詳細情報、参加ご応募は公式サイトをご確認ください。

イベント概要

  • 日時:  2017年6月24日(土)10:00 開場 / 10:30 開演
  • 会場:  朝日新聞東京本社 浜離宮朝日ホール(新館2階) および 読者ホール(本館2階)
            (東京都中央区築地5-3-2)
  • 参加費:無料
  • プログラム
            シンポジウム(10:30~)
            子ども向けプログラミング教材体験コーナー(10:30~)
            小中学生向けワークショップ(14:00~)
  • 主催:  全国小中学生プログラミング大会実行委員会
            (株式会社角川アスキー総合研究所、株式会社UEI、NPO法人CANVAS)
  • 共催:  株式会社朝日新聞社
  • 協力:  オールナイトニッポン.com
  • 協賛:  ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社、株式会社アーテック、
            伊藤忠テクノソリューションズ株式会社、株式会社日本HP、株式会社ドワンゴ
  • サポーター
            株式会社アフレル

シンポジウム『新しい学びと子どもたち』概要

  • 時間:  10:30~12:00
  • 定員:  300人
  • 会場:  浜離宮朝日ホール(新館2階)
  • パネルディスカッション『これからの時代の“よく学び、よく遊べ”とは?』
            漆紫穂子 氏  品川女子学院 理事長・中等部校長
            樹林伸 氏  漫画原作者
            石戸奈々子 氏  NPO法人CANVAS 理事長、慶應義塾大学 准教授
  • 講演『海外のプログラミング教育の最新事情とその背景』
            上松恵理子 氏
            博士(教育学)、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部 准教授、
            早稲田大学情報教育研究所招聘講師・研究員

上松恵理子氏プロフィール

博士(教育学)、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部 准教授。早稲田大学情報教育研究所招聘講師・研究員「教育における情報通信(ICT)の利活用促進をめざす議員連盟(超党派)」有識者アドバイザー、総務省「プログラミング教育事業推進会議」委員。ICT教育に新リテラシーを取り入れることの研究と実践に取り組む。近年では主に世界の最先端のICT教育やプログラミング教育の調査を行う。著書に『小学校にプログラミングがやってきた!超入門編』(三省堂)など。

著書のご案内

小学校にプログラミングがやってきた! 超入門編
上松恵理子 編著
2020年度から小学校でのプログラミング教育が必修化される。本書はプログラミングを子どもに楽しく習得させるための必須の心得を伝授。プログラミングを初めて学び、教えるための待望の入門書!全6章、「簡略用語集」付き。

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