AMDの新世代CPU「Ryzen」は、多コア多スレッドに対応しながらも安価な点がひとつの特徴だ。例えば、最上位モデルの「Ryzen 7 1800X」は8コア16スレッドタイプで実売価格5万7000円~6万2000円と、同じ8コア16スレッドタイプの「Core i7-6900K」が12万5000円~14万円であるのに比べると、破格とも言える価格設定だ。
では、Ryzenの多コア多スレッドを活かせるのはどのような場面だろうか。そして、それはIntel製CPUに比べてアドバンテージはあるのだろうか。そのあたりを、テストにより検証してみたい。
Zenマイクロアーキテクチャーを採用、内部は2基のCPU Complexで構成
まずは、Ryzenの基本仕様について説明しておこう。Ryzenは「Zen」マイクロアーキテクチャーを採用したCPUで、その内部は2基のモジュール「CPU Complex」で構成されている。
このCPU Complexには、4基のCPUコアと各コアごとに用意された512KBのL2キャッシュ、それに4基のコアで共有する8MBのL3キャッシュが含まれており、それゆえRyzen 7 1800Xの仕様は、CPUコアは8コアで、L2キャッシュは512KB×8の4MB、そしてL3キャッシュが8MB×2の16MBとなる。
下位モデル、例えばRyzen 5 1600では、CPU Complexを構成するCPUコアが3基に減り、6コア12スレッド対応を実現している。コア数が少なくなったためL2キャッシュも3MBに減るが、L3キャッシュは16MBのままだ。
そして、Ryzen 7 1800Xのベースクロックは3.6GHzだが、「Precision Boost」と呼ばれる自動オーバークロック機能を備えており、4.0GHzまで動作クロックが向上する。Precision Boostは下位モデルでも用意されており、Ryzen 5 1600ではベースクロックが3.2GHzだが、同機能により3.6GHzまで動作クロックが上がるようになっている。
さらに、「Extended Frequency Range」(XFR)にも対応しており、CPUクーラーの冷却性能が十分にあり、TDP(熱設計消費電力)に余裕がある場合には、さらに動作クロックが高くなる仕様だ。
なお、モデルナンバーの末尾の”X”は、このXFRにおけるTDPの余裕(一般的にはヘッドルームとも言われる)が、Xが付与されないRyzen 5 1600など従来モデルに比べて2倍になっていることを意味している。つまり、X付きモデルはより高いクロックまで伸びやすい高性能を重視したデスクトップ向けCPUであると言える。
Ryzen 7 1800XやRyzen 5 1600では、DDR4-2667までのメモリーをサポート。冒頭で挙げたi7-6900Kや、デスクトップ向けCPUの「Core i7-7700K」がDDR4-2400までしか対応していないのに比べると、Ryzenはメモリークロックでもアドバンテージを有していることになる。
なお、RyzenのパッケージはAM4を採用しており、これまでのAM3とは物理的にも互換性がなくなった。そのため、Ryzenを利用するには、AM4対応の「X370」などのチップセットを搭載したマザーボードが必要となる。
FF14とOverwatchでテスト、Twitchの高画質配信ではRyzenが有利
さて、テスト環境は表のとおり。最上位モデルであるRyzen 7 1800Xのテストでは、比較対象にIntel製デスクトップ向けCPUでは最上位モデルとなるi7-7700Kを用意。さらに、価格的に値ごろ感の強いRyzen 5 1600のテストも実施し、比較対象として同価格帯のi5-7600Kを用意した。
なお、メモリークロックは、マザーボードのUEFIで、Ryzen 7 1800XではDDR4-2667など、それぞれのCPUが公式にサポートする上限の値に設定している。また、ビデオカードは、GPU性能がボトルネックにならないよう「GeForce GTX 1080」を選択している。
まずは、CPUコア数やスレッド数が性能に直結する3Dベンチマークソフト「CINEBENCH R11.5」の結果から見ていこう。
比較がしやすいよう、i7-7700Kやi5-7600Kでも対応するスレッド数以上でのテスト結果も添えているが、4スレッドまではi7-7700Kやi5-7600KがRyzen 7 1800XとRyzen 5 1600を上回っている。
しかし、6スレッド以上になるとRyzenの2製品がIntel製CPUを凌駕するようになる。これは、i7-7700Kやi5-7600Kが持つ論理コア数の4つまでならIntel製CPUが有利だが、それ以上のスレッドではコア数が多いRyzenにアドバンテージがある。
続いて「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク」の結果を見てみよう。なお、グラフィックス設定プリセットは「最高品質」を利用し、解像度は1920×1080ドット、2560×1440ドット、3840×2160ドットの3つを選択。さらに、ベンチマーク実行中の最小フレームレートを「Fraps」で同時に計測した。
ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマークは、Intelも開発に協力していることもあり、全体的にi7-7700Kやi5-7600Kが優勢だ。Ryzenの2製品は、3840×2160ドットで同等のスコアーとなっている。
では、次に「OBS Studio」を用いて、同時にTwitchで配信をした際のファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマークの結果を見てみよう。OBS Studioでは、解像度を1920×1080ドット、ビットレートを3500kbps、フレームレートを60fpsに設定した。動画配信をするとCPUリソースを割かれるため、ゲームパフォーマンスはどうしても低下してしまう。
つまり、Twitchで高画質配信をした場合、RyzenとCore i7やCore i5でパフォーマンスがどのように変わるかを見てみようというわけである。
ここで注目したいのは3840×2160ドットの結果である。終始、比較対象に後れを取っていたRyzen 7 1800XとRyzen 5 1600が、3840×2160ドットで逆転を果たしている。平均フレームレートだけでなく最小フレームレートも、Ryzenの2製品が比較対象を上回っており、Twitchで高画質配信をしている状況下で、それなりに負荷が大きくなってくると、Ryzenのコア数の優位性が発揮されるようになると言えそうだ。
「Overwatch」でも同じようなテストをしてみよう。なお、描画プリセットは、実際のゲームでの使用を考慮し「ウルトラ」を選択。解像度は、ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマークと同じく、1920×1080ドット、2560×1440ドット、3840×2160ドットの3つだ。ゲーム内で「トレーニング」を選択し、1分間の平均フレームレートと最小フレームレートはFrapsで計測している。
ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマークがそうであったように、OverwatchでもRyzen 7 1800Xはi7-7700Kに、Ryzen 5 1600はi5-7600Kに届いていない。
次にOBS Studioを用いてTwitchで配信した際のパフォーマンスを見てみよう。なお、OBS Studioの設定はファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマークのときとまったく同じで、高画質で配信している。
すると、OverwatchではファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマークとは異なり、1920×1080ドットから3840×2160ドットのすべてで、Ryzenの2製品が比較対象を上回る結果を残している。Overwatchのほうが、CPUコア数の多さを活かす場面が多いということなのだろう。
ゲーム配信に強みを見せるRyzen、リーズナブルな価格設定も魅力的
以上のテスト結果を見るに、Ryzen 7 1800Xはi7-7700Kに、Ryzen 5 1600はi5-7600Kにゲームだけの性能テストではそれぞれ離されており、Ryzenの純然たるゲームパフォーマンスは、競合製品には届いていない。とはいえ、個人差はあるだろうが、その差を明確に体験できるほどの差でもなさそうだ。
しかし、Twitchなどでゲーム配信を同時にする場合には、Ryzenが持つコア数が多いというアドバンテージが活きてくる。それは、CPU負荷が増大する高画質配信を目指せばなおのことだ。
もちろん、ゲーム配信だけではく、たとえば動画を録画しエンコードしたり、ほかの作業をしたり、CPUにゲーム以外の負荷が掛かる場合にも、Ryzenのほうがパフォーマンスが優れていることは言うまでもないだろう。
冒頭で述べたように、最上位モデルのRyzen 7 1800Xは8コア16スレッドタイプで実売価格5万7000円~6万2000円と、同じ8コア16スレッドタイプのCore i7-6900Kの12万5000円~14万円に比べると破格の値段だ。
また、Ryzen 5 1600も2万7000円~3万円と6コア12スレッドタイプのCPUとしては非常にリーズナブルな価格だ。ゲーム配信をするのであれば、ゲームパフォーマンスを維持したまま高画質を狙えるRyzenは、お買い得感の高いかなり魅力的なCPUではないだろうか。