前回のTandy Radio ShackのTRS-80と同時期に市場投入されたのがCommodoreのPET-2001である。こちらもやはりパソコン創世期の話をするには、欠かせない企業である。
タイプライターから電卓、そしてマイコンに
業務転換して生き延びたCommodore
Commodore Internationalは1954年にカナダのトロント市で創業した。創業者はポーランド人のJack Tramiel氏で、当初の名前はCommodore Portable Typewriter Companyとなる。
名前からわかるとおり、小型のタイプライターの製造を行う会社だ。元々Tramiel氏はアウシュビッツの生き残りで、ニューヨークでタクシー運転手やタイプライターの修理を行なっていたのが、たまたまチェコのある会社の設計するタイプライターを製造販売する契約を得て、トロントに移住。そこで創業した形だ(ちなみにこのチェコの会社は色々調べたのだが不明だった)。
当時同社が製造していたタイプライターはこんなものだった。ところが1950年代末に、安価なタイプライターが海外から大量に流入するようになったことで、同社を含めてタイプライターを扱っていた会社はいずれも倒産の危機に瀕した。
ただこの時同社は、ビジネスをタイプライターから機械式加算器(Mechanical Adding Machine)に切り替えて生き延びることに成功する。ちなみに加算器は、古い人にはおなじみタイガー式の手回し計算機よりもずっとシンプルな、単純に加算をするだけの機械である。
例えばこちらにいくつかの製品が掲載されている。単純に加算するだけであるが、それでも当時は十分重宝した。
このビジネスはそれなりにうまくいったようで、同社は1955年にその後カナダでCommodore Business Machinesに社名を変更、さらに1962年にはCommodore International Limitedの名前でニューヨーク証券取引所に上場する。
ところが1960年代になると、機械式加算器の市場にも、主に日本などから安価な製品が流入してくるようになった。これに対抗する形で、同社は電卓市場に参入する。電卓の話はMITSの時にも出てきたが、1975年あたりに一度完全に崩壊するが、それまでの数年間は同社の業績を支えるに十分であった。
ちなみに当時同社が製造していた電卓は、こちらのページにいくつかの写真を確認できる。
さて、電卓ビジネスがTexas Instrumentsの参入によって難しくなったわけだが、当初Commodoreはここでもう少し踏ん張るつもりだった。このためには、まず基幹部品の原価を下げることが必要になる。そこで同社はいくつかの半導体のセカンドソースメーカーを買収するが、この中には6502を製造していたMOS Technologyも含まれていた。
この結果、6502を設計したChuck Peddle氏が同社のエンジニアリング部門のトップとなったことで、同社の新しい方向が生まれることになった。実際電卓ビジネスはこの後急速に先細りしていき、その一方でマイコンのビジネスが急速に拡大していったからだ。
MOS TechnologyはもともとKIM-1というワンボードマイコンを、6502の拡販のために開発していた。
画像の出典は、“OLD-COMPUTERS.COM”
このKIM-1をベースに開発されたのがPET 2001である。1977年1月に発表され、同年10月から出荷が開始されている。
出典はVintage-Computer.com(http://www.vintage-computer.com/pet2001.shtml)。搭載しているのは1MHzの6502で、CRTは40×25と80×25のキャラクタ表示、メモリーは標準4KB(後に8KB)、最大32KBという構成。1500bps(実質750bps)のカセットレコーダーを標準搭載しており、オプションで5インチないし8インチのFDDも利用可能だった。
ちなみに1977年における価格は795ドルで、TRS-80と比べるとやや高めだが、同じ1977年に発表されたApple IIは同じ6502を搭載し、4KB RAMの製品で1298ドルだったことを考えればかなり安かった、という見方もできる。
当時としてはかなり売れたPET 2001であるが、競合製品も出てきたこともあり、1979年には若干性能を拡充したPET 2001-Nを投入する。
さらに1980年にはCRTモニターを大型化したPET 4000シリーズと、キーボードなどを普通のものに取り替えたビジネス向けのPET 8000シリーズを投入。最終的にはSuperPETと呼ばれるPET 9000シリーズまで投入していく。
もっともこの段階でもハードウェアに関してはプロセッサーそのものは1MHzの6502のみ(SuperPETのみ、さらに1MHzのMotorola MC6809も搭載)で、メモリー量やCRTの大きさ、周辺機器などが多少増えた程度であり、後継製品はPET 2001が出たとき程の売り上げを維持できなかった。
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