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富士フイルム古森重隆会長が語るKADOKAWA

買収・合併に見える、出版業界のイノベーション

2014年08月18日 16時00分更新

盛田 諒(Ryo Morita)/アスキークラウド編集部

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 「要はTSUTAYAで自分たちのもうけを増やすよってことだと思うんだよね」

 モノ系雑誌のベテラン編集者は憤りを隠さない。7月31日、阪急コミュニケーションズが「ニューズウィーク日本版」「フィガロジャポン」「pen」など、雑誌をふくむ同社の出版部門を売却すると発表した。売却先はカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)との合弁会社だ。CCCは以前にもエスクァイア マガジン ジャパン、ネコ・パブリッシングといった出版社を買収している。前述の編集者は吐き捨てるように言う。

 「そのうちユニクロと同じことになるんじゃないの、コラボとか始めたりして」


CCCのプライベートブランドは既存市場を破壊する鍵

Image from Amazon.co.jp
アラサーちゃん 無修正 [DVD]

 CCCは以前から、CDやDVDでプライベートブランド商品を展開してきた。

 エンタメ事業においては「エンタメ分野におけるSPAモデル」を掲げ、映像化を前提とした「エンタメ小説大賞」という文学賞も主催している。7月21日には「Tドラマ」という映像のプライベートブランドも立ち上げ。テレビドラマ「アラサーちゃん 無修正」のDVDを制作し、レンタルDVDの形で自社流通させている。

 出版社はCCCの雑誌・書籍プライベートブランド化を警戒するが、一方で、製造小売型(SPA)の事業者が既存市場を破壊するのは必然という見方もできる。

 いま出版業界を悩ませているのは高い返品率だ。

 出版科学研究所によれば、書籍・雑誌の売り上げは9年連続で前年割れが続いている。1996年、ピーク時の2.6兆円と比べて約63%まで落とした。売り上げ・書店数がともに減少しているにも関わらず刊行点数は変わらないため、返品率は書籍が37.5%、雑誌が38.8%と高い水準で推移している。

 出版社は余剰在庫にコストをかけており、売り場はオペレーションに苦慮している。いいことは1つもない。根本要因は出版取次会社(卸問屋)の委託販売制度・再販売価格維持制度という独特なシステムにあると、数年前から専門家の指摘はあるが、今のところ制度見直しの声は出ていない。

 もしCCCが出版事業をプライベートブランド化し、自社販路で販売すれば、返本率はかなりの割合で下げられるはずだ。4797万人の会員数、24億件の年間利用数を誇るTカードのプラットフォームから得られる顧客情報を分析すれば、生産量は容易に調整できる。生産・管理コストが下げられれば、そのぶんを価格や商品開発力にあてられる。出版社1社の売り上げを丸ごとCCCが持っていっても不思議はない。


ドワンゴと経営統合、業態転換を進めるKADOKAWA

 出版業界にイノベーションを起こしているのはCCCだけではない。

 「誰もが考えつくことだけど、それをドッと行ってしまうところがすごい」

 富士フイルム古森重隆会長が「驚いた」と話すのは、KADOKAWAとドワンゴの経営統合だ。10月1日、KADOKAWAとドワンゴの両社は、ドワンゴ川上量生会長を代表取締役とする新会社「KADOKAWA・DWANGO」を設立し、メディア事業とコミュニケーション事業のあいだで人材交流をはかる。

 KADOKAWAは出版事業を1つの事業ポートフォリオとしてとらえるメディア企業だ。しかし出版業界の衰退トレンドにはあらがえず、2013年度の書籍関連売り上げは前年比93.9%、売り上げ全体も前年比93.5%と落ち込んだ。書籍からネットにとりわけ若年層読者が奪われたといわれる中、KADOKAWAはネット・デジタル・ゲームの3分野を成長事業と位置づけ、ドワンゴとの経営統合で業態転換を大きく進めた。

 「KADOKAWAさんはもともと出版社ですよね? そこから映画も作られた。電子書籍にも敏感に反応されていた。つねに新しいことを切り開こうとされていると思いましたよ。それでドワンゴとの経営統合でしょう」


写真フィルム中心の事業構造から業態転換を果たした「先輩」からエール

 古森会長にも、写真フィルムが売上の6割を占めていた2000年代の富士フイルムを、デジタル時代に合わせて多角化し、業態転換させた経緯がある。

 写真フィルム市場が10分の1に収縮する中、業界で「奇跡」とも呼ばれる事業構造の転換を成功させた。著書「魂の経営」(東洋経済新報社刊)では、「もし写真関連事業の構造改革があと1~2年遅れていたら、2008年に起こったリーマンショックのダブルパンチに耐えられず、会社は危なかったであろう」と明かしている。

 「小手先のことをやっても会社は救えないと思ったんです」と古森会長は話す。

 「写真事業を縮小して、細々とやっていく手もあったでしょう。けれども、そこで経営者が防御的になってはいけない。富士フイルムは2兆円以上の売り上げがあり、高い技術力もあり、先進的な製品を出してきた一流企業。そんな企業であり続けるにはどうすればいいかを考え続けたんです」

 21世紀に入り、GoogleやAmazonの生み出したインターネットテクノロジーは世界中のビジネスを変革している。調査会社のガートナーは「2020年には企業内のあらゆる予算がIT関連になり、全ての企業がテクノロジー企業になる」とも予言した。市場だけではなく技術の進化にあわせて柔軟に変革できた企業だけが、激変する環境で生き残っていける。そんな時代がすでに訪れている。古森会長は言った。

 「だからぼくも、未来を切り開いてくださいよと祝福したわけです」

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