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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第261回

半導体プロセスまるわかり 14nm以降に立ちふさがる大きな壁

2014年07月14日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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16/14nm FinFETへの中継ぎで
短命に終わるであろう20nm

 すでにTSMCは20nmの量産を開始しており、これを利用して製造されたチップのサンプル出荷も始まっているが、予想以上に短い命になりそうなのが20nm世代だ。公式にはTSMCおよびGLOBALFOUNDRIES、サムスンの3社が20nmをラインナップしているが、その実情はなかなか厳しい。

 各社のシナリオは同じで、20nm世代は続く16/14nm FinFET世代への橋渡しである。FinFETではトランジスタ性能が改善するので、20nm世代ではトランジスタはローパワーに特化している。といっても、基本的には28nmのLPプロセスのものをそのまま20nmにしたといったところだ。

 例えばTSMCの場合、28nmのLPと比較して「1.9倍のトランジスタ密度で、25%省電力」としている。もっと怪しいのがGLOBALFOUNDRIESの20nm LPMで、ページの説明を読んでいると、28nmのSLPと比較して2倍のトランジスタ密度・42%高速・61%省電力となっているが、最後に「Uses patented High Density Constructs to facilitate IP migration to 14XM」(14XMプロセスと移行可能な高密度構成)とある。

14XMプロセスと移行可能な高密度構成とある

 14XMが頓挫してしまった現状でまだこれを引き続き同じように提供してくれるのか非常に微妙である。移行だけ考えたら、むしろサムスンの20nm HKMGプロセスに切り替えてくれた方がマシに思えるのは筆者だけではあるまい。

 さて、その怪しげな、そしてまだ量産製品のないGLOBALFOUNDRIESはおいておき、TSMCについて語ると、確かに量産は始まったが、現状利用できる用途は「トランジスタ数を増やしたいが動作周波数は低めで良い」製品に限られる。

 その意味では、最初の製品がXilinxのUltrascale FPGAというのは非常に適切であり、トランジスタ数は必要だが、動作周波数はそれほど高くなくて良い類の典型例である。

 逆に言えば、動作周波数もそれなりに必要という用途には、TSMCの20nmは適切ではないようだ。良い例がNVIDIAのMaxwellである。GM107に続く「はずだった」GM104がキャンセルになり、28nmで作り直したGM204が出てきた理由は、GM104をTSMCの20nmで製造したところ、全然性能が上がらなかったから、という一言に尽きる。

 詳細はいずれNVIDIAのロードマップでまた触れたいと思うが、少なくともTSMCの20nmに関してはGPUや高性能モバイル系は絶望的である。ただトランジスタ数は増やせるので、例えばCortex-A7のオクタコア、あるいはGPUもシェーダー数を大量に増やす使い方には適しており、ミッドレンジ以下のモバイル向けSoCには非常に有望と思われる。

 微妙なのは、この世代からサムスンを離れてTSMCに移るといわれているアップルのA8で、本当に動作周波数が上がるのか、現時点でははっきりしていない。なお、A7と比較して50%高速という話が流れているのだが、これが動作周波数50%アップなのか、それとも合計処理性能が50%アップなのかが不明である。後者であれば、多少動作周波数を落としてもコア数を倍増させれば可能なので、無理な数字ではない。

 ではGLOBALFOUNDRIESとサムスンはというと、こちらも状況的にはあまり変わっていない。少なくとも28nmより高速に動作させるために20nmを選ぶ、という選択肢はないようで、むしろ回路規模を大きくする(CPUならばコア数を増やす、GPUならシェーダ数を増やす)目的での選択になるようだ。

 本命は次のFinFETということで、こちらが立ち上がるまでの中継ぎ以上のものではない、というのが現状のようだ。問題はその中継ぎがどれほど続くかである。

16/14nm FinFETの量産開始は
2015年とのことだが、果たして……

 現状、16nmと14nmの提供を公表しているのは、TSMC(16nm)と、サムスン/GLOBALFOUNDRIES(14nm)の3社2グループである。ただしUMCも非公式ながら14nm FinFETプロセスの開発を行なっており、年内には試作生産を始めたいという意向を示している。

 もっとも試作生産から量産までには結構な時間がかかる(例えばTSMCは28nmの試作を2009年に開始したが、量産開始は2011年末である)から、当面はこれは勘定に入れなくていいだろう。

 さて、TSMCは2015年中に量産を開始するとしている。2014年4月に行なわれたTSMCテクノロジージンポジウムにおける話題をCadenceがまとめてレポートしているが、これを読む限りは予定通りの進行である。

 では2015年のいつなのか? というのが次の問題である。もしも2015年第1四半期あたりに量産を開始するならば、すでに量産前試作品が出てないとテスト評価ができないのだが、今のところこうした話はない。したがって早くても2015年第2四半期あたりになるのではないか、と筆者は予測している。

 ちなみにTSMCは16nmについて16FFと16FF+という2種類のプロセスを提供予定で、この16FF+は16FFに比べて15%の性能改善があるという話で、これはサムスン/GLOBALFOUNDRIESの14LPE/14LPPと同じような関係だと思われる。

14LPEと14LPP。14LPEがローパワー、14LPPがハイパフォーマンスという扱いになる

 ただ、インテルですら量産準備完了と言いながら14nmプロセスが2四半期遅れたことを鑑みると、TSMCやサムスン/GLOBALFOUNDRIESが予定通りの進行で量産に入れるかどうか、個人的にはやや疑問に思っている。

 TSMCの場合、28nmも似たようなことになっていた。そこから考えると「良くて2015年後半、悪いと2016年に量産開始」というあたりではないか、というのが「データに基づかない、直感としての」予測である。

 もっと遅れる気がするのがサムスン/GLOBALFOUNDRIESである。なにしろ28nmは、歩留まりの低さを工場の数で補うという壮絶な生産方式で乗り切ったサムスンだけに、20nmや14nmでこれが劇的に改善されているとは思いがたい。

 そしてGLOBALFOUNDRIESにしても、いきなり技術導入しただけで、すぐ量産に入れるほど先端プロセスは甘くないわけで、これも普通に考えると2015年中に量産が開始できたらある意味奇跡であり、現実問題として2016年まで延びると考えるのが妥当だろう。

 2015年中は、メーカーが以下のどちらかを選んで製品を生産することを強いられるはずだ。

  • 高速に動作するがトランジスタ密度は(相対的に)低い28nm
  • 動作速度は上げられないが、トランジスタ密度が倍増する20nm

 この影響をモロに喰らうのがGPUとモバイル向けSoCを作っている各社とAMDになるだろう。

7/10nmはまだまだ夢物語
14nm以降のプロセスルール

 TSMCは公式に10nmのプロセスを開発していることを明らかにしている。特にこの10nmではインテルを完全に追いつくことを目的にしており、このため「エンジニアを交代制にして24時間開発を続けている」なんてニュースが流れてくるほどであるが、先のCadenceのレポートにある「2015年末までにリスク生産を開始したい」が実現できるかどうかは今のところ判断できる材料がない。

 ましてやその先の7nm(TSMCは7nmのリスク生産を2017年中旬に開始したいという予定を立てている)にいたっては、現時点ではまだ夢に近い。なぜで夢に近いかというと、この7nmでのトランジスタ構造がそもそも定まっていない以上、現状はトランジスタ特性を議論できる以前の状態である。

 ということは、EDAツールなどを使っての論理設計も出来ない。架空のトランジスタ特性を定めて、それにあわせて設計はできるだろうが、7nmプロセスがそのトランジスタ特性にあわせられる保障がなにもない以上、設計するだけ無駄である。

 リスク生産を始めるためには、その前にテープアウトを済ませる必要があり、テープアウトには最短でも半年、普通は1年程度の設計期間が必要である。つまり2016年中旬までには7nmのトランジスタ特性を確定させ、EDAツールにそれを入力する必要があるわけだが、今時点でまだ基礎研究から抜け出していない10nm未満のプロセスがあと1年半かそこらで固まるとは到底考えられない。

 ちなみにここまで壮大な夢物語をおおっぴらに語っているのは今のところTSMCだけで、サムスン/GLOBALFOUNDRIESはまだ10nm世代に関してすら明確な指針を出していない。

 UMCはとりあえず14nmがなんとかなるまでその先の議論は控えているようで、SMICにいたってはとりあえず28nmの量産が最優先である。インテルですら10nm未満に関してはまだ一切明らかにしていない状況であり、そもそもその10nmがいつ実現できるか、を現状は問うている状況である。

 ということで近未来のプロセス動向をお届けした。一言で言えば、28nm未満に関しては各社強気な姿勢を表面上は出しているが、実際には結構遅れそう、というのが実情である。

 さすがにそろそろムーアの法則に従うのがムリになってきたということであり、この先は微細化がやや緩やかに推移してゆくのではないか、というのが筆者の結論である。

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