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覚醒プロジェクト

「覚醒プロジェクト」PMに聞く

「おもしろい研究のスタートダッシュを後押ししたい」覚醒PM・ヒューマノーム研究所の瀬々 潤氏

2024年05月02日 10時00分更新

文● 石井英男

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国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)による若手ディープテック研究者を支援するプロジェクト覚醒プロジェクトが、2024年度の研究実施者を募集している。学士取得から15年以内の若手研究者を対象に独創的な研究開発テーマを募集し、採択された研究者には300万円の支援や産総研の最先端設備、プロジェクトマネージャー(PM)による伴走などが提供される。応募は5月7日まで、同プロジェクトの公式サイトで受付中だ。
新設の「生命工学」分野でPMを務めるヒューマノーム研究所 代表取締役社長の瀬々 潤氏に、プロジェクトへの思いや応募者への期待について聞いた。

ヒューマノーム研究所 代表取締役社長
瀬々 潤氏

東京大学大学院新領域創成科学研究科にて博士号を取得。東京大学・助教、お茶の水女子大学・准教授、東京工業大学・准教授、産業技術総合研究所・研究チーム長を歴任。日本メディカルAI学会理事などを兼任。
機械学習・数理統計アルゴリズムの手法開発および生命科学の大規模データ解析を専門とする。医療に限らず、生物・農学分野なども含めオミックス、ゲノム、表現型解析を実施している。米国計算機学会のデータ解析コンテスト KDD Cup 2001 優勝、Oxford Journals-JSBi Prize 受賞。
2018年より株式会社ヒューマノーム研究所・代表取締役社長に就任し、AIの普及に向けたノーコード解析ツールの開発・販売や、IoTデバイスを用いたリアルワールドデータの計測・統合解析・フィードバックを実施している。

革新的なものを作るには物体と情報の融合が欠かせない

——瀬々先生のご専門、その分野における最近のトレンドについてご紹介いただけますか。

瀬々 専門は、機械学習や数理統計の手法を開発し、生命科学の大規模データ解析を行なうことです。生命科学においては近年、大規模なデジタルデータが比較的容易に取得できるようになりました。かつては1つ1つ実験をしてその差を調べていましたが、今では全遺伝子データやさまざまな画像データがどんどん手に入るので、それをどうやって解析して生命現象に繋げていくのかがポイントになっています。生命科学と情報科学の融合が進んでいるというのが、まさに現代の大きなトレンドです。

——2017年に先生が設立されたヒューマノーム研究所ではどのような事業されていますか。

瀬々 ヒューマノーム研究所の研究テーマの一つは、健康に繋がる行動を見つけることです。スマートウォッチなどの登場により、私たちの行動データが詳しく取れるようになってきました。そうした行動データをAIが分析し、健康的な生活を送るための改善方法をアドバイスするサービスを提供しています。どのような行動が健康にどうつながるのか、その発見のためのデータ収集や解析に取り組んでいます。

 ほかにも、プログラミングができない人でもAIを作れる、ノーコードAI環境を開発しています。AIはさまざまな使い方ができますが、まだまだ十分に普及しているとは言えません。広くいろいろと試してもらいたいと考え、当社ではノーコード環境を開発しました。特に生命科学の世界では、AIの能力は認められているものの高嶺の花であり、どこか遠い存在と思われている面があります。まず手元にあるデータを使ってAIを作って予測をしてみましょう、というのがノーコード環境を提供している目的です。「AIは新しい実験道具なんだ」という発想をみなさんに持ってもらいたいと考え、取り組んでいるところです。

瀬々氏が代表を務めるヒューマノーム研究所ではノーコードのAI開発ツール「Humanome Eyes」も提供している

——覚醒プロジェクトは今年で2年目になります。昨年はAI分野のみの募集でしたが、今年は瀬々先生がPMをされる「生命工学」を含む4分野となりました。覚醒プロジェクトへのいをお聞かせください。

瀬々 私は昨年、AI分野のPMとして覚醒プロジェクトに参加しましたが、今年は生命工学分野のPMとして参加します。分野は異なっても考えていることは同じです。日本の強みである「ものづくり」「ディープテック」という分野において、AIの重要性が増しています。AIやデータサイエンスを抜きに新しいものを作るということは、これからの研究の世界では考えられないと思います。やはり革新的なものを作るには、物体と情報の融合が必要になってくるはずです。「覚醒」は、さまざまな分野の研究者がお互いに話し合うことで、新しい時代を切り拓ける場所になってほしいと願っています。

他の分野にも影響する新しいテクノロジーを作るような応募に期待

——2023年度覚醒プロジェクトにPMとして参加されて、どのような感想を持たれましたか。

瀬々 やはり若い才気あふれるメンバーが参画しているので、彼らと会話をしながら、私自身もとても刺激を受けています。研究実施者は、自分の研究室とは違ったところで、自分が中心となってプロジェクトを進めるという貴重な体験ができる。それが覚醒プロジェクトの大きな魅力です。実際、研究実施者の方を見ていると、日々どんどん成長していると感じます。覚醒プロジェクトを通じて若い方が育っていく過程に携われるのは、私としてもとてもうれしいことです。

——本年度担当される生命工学分野の応募者にはどのようなことを期待しますか。

瀬々 私自身が生命と情報の融合に取り組んでいますので、「生命工学」というラベルにとらわれずに、他の分野にも影響する新しいテクノロジーを作っていくような応募があるとうれしいですね。

ヒューマノーム研究所 代表取締役社長の瀬々 潤氏(インタビューはオンラインで実施した)

——PMとして先生は採択者に対してどのような支援をしたいと考えていますか

瀬々 最新の技術に関しては、私より若い研究実施者のほうがはるかに知っていることが多いと思います。私としてはこれまでの経験の中から、「こっちの方向へ行った方がいいよ」といったアドバイスをしたいと考えています。

 2023年度のPMを経験して感じたことですが、研究実施者の方はまだ若くて経験が少ない分、うまくいかなかったり予想通りに進まなかったりした時に、不安になることが多くあります。でも私から見ると、それはまったく間違ってなくて、「たまたま運が悪かったのだから先に行こうぜ」という感覚だったりします。そうした精神的なサポートができるのではないかと思います。

 研究実施者の方にはぜひ暴れてほしい。彼らが暴れるためのサポートをしていきたいですね。昨年度の応募テーマも、「それをやったらとてもおもしろいよね」というアイデアばかりでした。本当におもしろいと思えるものをきちんと実現できる、スタートダッシュをPMとして後押しできればと考えています。

——最後に、覚醒プロジェクトへの応募を考えているへのメッセージをお願いします。

瀬々 「覚醒」は、おもしろいことを試してみる機会になってほしいと考えています。必要なことは言葉として伝えてほしいですが、申請書をきれいに整えるよりは、光るアイデアを荒削りでもいいのでぶつけてみてほしいですね。採択されてから磨き上げていく研究もあり得ると思います。最初から完璧を求めずに、まずは楽しい研究やおもしろいアイデアをぶつけてみてください。

 それから、私が他のPMと異なるのは、会社を起業して代表をしているところです。例えば、会社を作って取り組んだほうがおもしろそうな提案も大歓迎です。それも含めて、何か新しい経験を得たい方にぜひ応募いただきたいですね。

覚醒プロジェクト募集概要

応募締切:2024年5⽉7⽇(火)12:00
応募対象:
大学院生、社会人(大学や研究機関、企業等に所属していること)
※2024年4月1日時点で、学士取得後15年以内であること。
対象領域:
・AI
・生命工学
・材料・化学
・量子
研究実施期間:
2024年7月1日(月)〜2025年3月31日(金) ※9カ月間
支援内容:
・1研究テーマあたり300万円の事業費(給与+研究費)を支援
・AI橋渡しクラウド(AI Bridging Cloud Infrastructure, ABCI)やマテリアル・プロセスイノベーション プラットフォーム(Materials Process Innovation, MPIプラットフォーム)などの産総研保有の最先端研究施設を無償利用
・トップレベルの研究者であるプロジェクトマネージャー(PM)による指導・助言
・事業終了後もPMや参加者による情報交換の場(アラムナイネットワーク)への参加

応募・詳細:
覚醒プロジェクト公式サイト

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