「メカニカル・チューニング・フィルター」で音の透過性をコントロールできる
BU型ドライバーは本来の開発目的やその歴史から、解像度の高い繊細な音は得意とするが、どちらかと言えば低域に元気さや豊かさがないのが良くない特徴だ。それゆえ、BU型ドライバーを採用する多くのヘッドフォンは、「カナル型」という外耳道に栓をするようにイヤーピースを押しこんで外部の音がヘッドフォンと外耳道との隙間から入り込まないようなデザインを前提としており、それなりに消極的な低域の量感確保は可能にはなっている。
しかし、根本的に豊かで元気な低音が出ているわけではないので、筆者の愛用しているSONYのBU型ヘッドフォン「XBA-4SL」などは、ウーファー、フルレンジ、ツィーターのそれぞれに専用のBU型ユニットを割り振り、低域の補強のために2つ目のウーファーを搭載した4ドライバー方式を採用している。
実際に、再生音を聴けばその効果はある程度納得できるが、どんなに小さく作れてもドライバーユニットを4つも搭載すると、それなりのサイズと重量になり、イヤーピースのサイズを耳にフィットしたモノを選択しないと、耳からポロリという扱い上のマイナス点も出てくる可能性が高い。
AKG社のK3003は、低域が余り得意ではないBU型ドライバーの代わりに、歴史と伝統があり、ある程度枯れたテクノロジーであるダイナミック型のドライバーを組み合わせたところがハイブリッド・ヘッドフォンの名前の所以だ。
しかし、K3003に限らず、複数のドライバーを使うマルチドライブ方式は、上手くコントロールすれば、音の情報量が増え、ワイドレンジ化も可能だが、各ドライバーの受け持ち音域を綺麗に整理してやれないと、全体としての音作りが破綻するのは、ヘッドフォンでなくて普通のスピーカーシステムでも同様だ。
それは一頭の馬で引っ張る馬車と、二頭立てでしかも一頭は馬、もう一頭は牛というのとまったく同じだとは言えないが、近い関係だ。K3003の場合、AKG社の技術がそこに生かされているようだ。
K3003本体や周辺のパーツは贅沢なステンレスが使用され、ヘッドフォンの精密なハウジングを作る工程のほとんどを熟練した職人が手作業で行なっているという。標準付属の専用革ケースは、これみよがしに高級感溢れ、K3003がただ者ではない事を示している。
ステンレス・ハウジングの音の吹き出し口には、再生音の高域~低域の補完を行なう為の「メカニカル・チューニング・フィルター」と呼ばれる音の透過性をコントロールする”粒度”の異なる”物理的なフィルター”が取り付けられている。
再生音の好みに応じて、ユーザーが付属の透過粒度の異なるメカニカル・チューニング・フィルターと交換可能になっている。まだまだエイジング中でもある筆者は出荷時の標準である「リファレンス」フィルターを使用している。少し時間が経過すれば、「BASS BOOST」や「HIGH BOOST」等にも切り替えてソースに合わせて変化や対応を楽しんでみようと考えている。
カナル型のヘッドフォンではごく普通のことではあるが、K3003もユーザーの外耳道のサイズにフィットさせるため、L・M・Sと3サイズのシリコン製イヤーピースが2組ずつ付属している。また最近は極めて登場シーンは少なくなってきているが、機内サービスの音楽を聴くために、座席のイヤフォン端子へのコンバーターも標準で付属する。
AKG社のK3003は、音楽再生の世界も「価格性能比」だということにこだわり続けるなら、悪夢的価格のヘッドフォンと感じるだろう。しかし、もし音楽を至極の趣味として捉えるのなら「一点再生豪華主義」に徹してK3003に貢ぐのも決して悪い判断ではないだろう。AKG K3003は、価格に見合う再生音かどうかは意見が別れる可能性はあるが、音の絶対的なクオリティーに関してはほかを圧倒している。
![T教授 T教授](/img/2011/06/22/1511551/l/f5fe44986d09d330.jpg)
今回の衝動買い
アイテム:「リファレンスクラス・3ウェイ・カナルイヤホン K3003」
価格:秋葉原e☆イヤホンにて12万7500円で購入
T教授
日本IBMから某国立大芸術学部教授になるも、1年で迷走開始。今はプロのマルチ・パートタイマーで、衝動買いの達人。
T教授も関わるhttp://www.facebook.com/KOROBOCLで文具活用による「他力創発」を実験中。
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