(1)初対面のインパクトが大きい。
窓越しの対面からしばらく後、セイと石和は出会うことになりますが、その時、石和は大きくて立派な本棚をバールで叩き壊しているんです。これは、かなりびっくりさせられる遭遇ではないでしょうか。しかも、初対面にもかかわらず、石和ったらすごく失礼なんです。
〈「どうして壊してしまうんですか」
「部屋に入らなくて」
見ればわかるだろうというように石和は言った。
(中略)
「うっかり運んできたのがばかだった」
「うっかり?」
「この話、面白いですか?」
私は顔が赤らむのを覚えた。憤懣か羞恥か、あるいはその両方によって〉
相手に合わせることができない。お愛想がいえない。そもそもお喋りがあまり好きではない。でも、恋が相手への反発や違和感から芽生えるのはよくあるわけで、まずは気になる存在に昇格するのが恋愛の第一歩だということが、その後の展開からもよくわかります。
(2)ミステリアス
出身を聞かれて、最初は北のほうの島だと答え、その後、ここより南の島だと答える。なぜ、嘘をつくのかは謎。自分のことを訊かれると肩をすくめてそれ以上の会話を拒む。
人づきあいが苦手で冷たい性格なのかと思いきや、セイが大事に思っている老婆・しずかの家の雨漏りを直してやったり、しずかが入院すれば足しげく見舞いに通いもする。
クールなのかと思いきや、筍掘りに行くと異様なまでの熱心さで掘ったり、お祭りでは周りが気味悪がるほどの情熱をもって盆踊りを習得しようとする。
つまり、石和は言動の先が読めない男なんです。それが婦女子の関心を呼ぶんでしょうかねー。少なくとも、この小説世界内ではセイの関心を引くことに成功したわけです。わたしはこんな面倒臭い男、嫌いですけど。
(3)言葉は少ないけど、発すると決まる。
〈「いろいろやってみるんですよ。どうにかして、どこかに行けないものかと」
石和は言った。
「どこかに?」
「バカみたいに踊ったり、やみくもに走ったりすると、どこかに着くような気がするんですよ。あるいはわあっと叫んだとたんに、トランプが裏返るみたいに、今までいたのとはべつの世界に自分は立っているんじゃないか。そういうことが起きるんじゃないかという期待を捨てられないんです。そういうのってありませんか」
「石和先生は、どこかに行きたいんですか」
「行きたいですね」
石和は挑戦的に即答した。
「あなたは、どこにも行きたくないんですか」〉
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