仕事に追われ「最近、小説を読んでないなぁ」と感じているビジネスマンも少なくないだろう。しかし、時として小説は未来を見据える先見力を養うのに、格好の教材となりうる。『文学賞メッタ斬り!』の共著者としておなじみの「トヨザキ社長」が、ビジネスに役立つオススメの一冊を贈る。
『日本人には教えなかった外国人トップの「すごい仕事術」』 著者:フランソワ・デュボワ
ビジネスの神々のご託宣を聞きたいなら
カルロス・ゴーン、知ってる! リシャール・コラス、かろうじて知ってる。マリア・メルセデス・M・コラーレス、知らなーい。アントワーヌ・サントス、知らん。ティエリー・ポルテ、だれー。それぞれ日産自動車CEO、シャネル日本法人社長、スターバックス コーヒー ジャパンCEO、エコール・クリオロ シェフ、新生銀行社長ですの。でもって、これら日本でのさばって、もとい、大成功を収めている外国人社長5人にインタビューしているフランソワ・デュボワとかいうフランス人に至っては……。ねえねえ、この人マリンバのソリストつまり一流音楽家なのに、なんで日本でキャリアデザインとやらを教えてんの? なんでマリンバで世界ツアーとかしないの? なんで? POURQUOI?
すみません。わたくしアスキービジネスで連載仕事をもらっておきながら、経済だの経営だのに無知蒙昧。おまけに無関心。なので、この5人の神&デュボワさんのありがたみに関してもまったく無理解。というわけで、IT系ビジネスマンの皆さんにとっては自明と思われるところからおさらいしてみたいんですの。それは(わたしにとっては)謎の人物デュボワさんが教えているというキャリアデザインの内容。このメソッドの基本は
1.イメージではなく“真実”を見ること
2.自分の姿をきちんと見据えること
3.自分が置かれている状況を客観的に理解すること
で、「人生で壁や困難に直面したり、『ここぞ勝負』という時に負け続けている人は、まさにこの三つができていない人」なんだそうですよ、若い衆。で、その答えを見つける助けをしているのが、どうやらこの謎のフランス人の仕事であるらしいんですの。ほぉ~。
んで、「キャリア」を「一般的には仕事におけるキャリア、あるいはプロフェッショナルな経験という意味に、限定して使用されることがほとんど」だけれど、語源的には本来もっと広がりのある人生そのものを捉える「道」のようなものを意味すると考えているデュボワさんが、外国人社長の皆さんから「あなたにとってのキャリアとは何か」「あなたはいかにして成功したのか」「日本の若者をどう思うか、どういうアドバイスができるか」など聞き出したのが、この『日本人には教えなかった外国人トップの「すごい仕事術」』っていう長ったらしいタイトルの本なんですの。
大事なことは、間違いや挫折を恐れ、嫌い、できることなら無視してしまおうと思わないことです。失敗や挫折をしてもいいから、それを学びの機会にすることこそ大事です。そして、実際に起きた時には危機を察知し、できるだけ早く対処する。それが大きな挫折を避ける唯一の方法なんです。(カルロス・ゴーン)
アジアの国々に対して、お互いをつぶしあうような力の発揮の仕方ではなくて、お互いにとって発展的な力の使い方をしたほうがいいと思うんです。私は、欧州連合は人類の歴史に素晴らしい功績を与えることができる可能性があるモデルだと感じています。その意味でもヨーロッパは、アメリカよりもはるかに、日本にインスピレーションを起こすことができるモデルになりうると思う。(リシャール・コラス)
(女だから、フィリピン人だからという理由で不当な差別や意地悪をされても)私、犠牲者の気持ちになったことはないの。(略)状況そのものを事実と受け入れるべき。もちろん、ケンカもできます。でもね、ケンカのどこに意味があるのかしら。1日の終わりに、あなたの実力を証明して結果を出せば、きちんと尊重されるだけのことよ。(略)そうじゃないと、人生ずっと苦しくてしようがないものになってしまうでしょう。いつだって犠牲者の気持ちを引きずって、自分の境遇を恨んで。そこを焦点にしてはダメ。(マリア・メルセデス・M・コラーレス)
とても残念に思うのは、いまの若者に堪え性がないこと。人は時間をかけて育てられるものなのに、ちょっとコツを掴みはじめると、わずかな期間でみんなポーンと辞めてしまう。(略)自分がこうありたいと願う将来像を現実のものとするためには、必ず通過しなければならないステップが存在するのに、多くの若者がそれらすべてに無関心であるように見えてしまうんですよ。(アントワーヌ・サントス)
(いい従業員とは)コミットしている人のことです。(略)コミットメントがしっかりとしている従業員は、お客様のために仕事をします。コミットメントしている従業員は、ちょっと離れた同僚であっても、「どうも調子が悪そうだ、どうしたんだろう。何か自分に手伝えるかな」という発想をしてくれます。何かおかしいことがあれば、「問題があるのですが、解決する必要があります」と言ってきます。(ティエリー・ポルテ)
などなどなどなど、素晴らしいお言葉のオンパレード! しかもこの5人の神々は仕事で一流なばかりではなく、本人の言を信じるならば家族を大事にし、芸術への理解も深く、従業員への気配りも忘れないミスター&ミセス・パーフェクトなんですの。でもって、インタビュアーのデュボワさんだって負けちゃいません。「僕には、車も家も、何も必要ないんです。畳一枚あればそれでいい。そうすることで、すべてから自由になれるんです。いつでも、どこへでも動いてゆける」んですって。あらまー。おうちがないだなんて、ひょっとしてホームレス?
いうなれば、仙人vs.神企画。なんてありがたい対談集なんでございましょうか。正座して読んだらよろしくてよ。
1961年生まれのライター。「本の雑誌」「GNIZA」などの雑誌で、書評を中心に連載を持つ。共著に『文学賞メッタ斬り!』シリーズ(PARCO出版)と『百年の誤読』(ぴあ)、書評集『そんなに読んで、どうするの?』『どれだけ読めば、気がすむの?』(アスペクト)などがある。趣味は競馬。
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