バルミューダついにコーヒーメーカー発表「家で飲めるレベルじゃない」

文●盛田 諒 編集● ASCII

2021年09月08日 13時00分

BALMUDA The Brew
発売日 2021年10月7日
直販価格 5万9400円
バルミューダ

https://www.balmuda.com/jp/brew/

 試されるコーヒーメーカーです。

 バルミューダが9月8日、待望のコーヒーメーカー「BALMUDA The Brew」を発表しました。コーヒーを全量の3/4ほど抽出した後、コーヒーサーバーに直接注湯する「バイパス注湯」という方式を採用。コーヒー本来の味や香りを引き出しつつ、雑味のない後味にするというコンセプトで、バルミューダはこれを「クリアブリューイング メソッド」と呼んでいます。

ドリッパーとサーバーそれぞれに注湯する2つの流路(バイパス)がある

 モードはレギュラー、ストロング、アイスの3種類。レギュラーはバイパス注湯をする標準的な味わいで、ストロングはバイパス注湯をしない濃い味わい。アイスコーヒーは氷で満たしたグラスに注いで飲むため、ストロングよりさらに濃い味わいにしています。

 使用時はドリッパーにペーパーフィルターをセットしてコーヒー粉を入れます。モードと杯数を設定して抽出開始。「カッコ、カッコ」と時計の針が進むような音を聞きながら待つと、コーヒーサーバーから「ふしゅー」という音とともに蒸気が立ちのぼり、サーバーがあたためられます。

モードは3種類(レギュラー、ストロング、アイス)

最大3杯分(約120ml×3杯)まで抽出できる

ペーパーフィルターにコーヒー粉をセットしたら抽出開始

「カッコ、カッコ」と時計のような音を聞きながら待つ

初めに蒸気でコーヒーサーバーが予熱される

 しばらくすると、注湯口から5つの孔を通ってコーヒー粉にお湯が注がれます。蒸らしを終えた後、数回にわたり注湯を終えると、最後にサーバー内に直接注湯(レギュラーモードの場合)。

数回にわけてコーヒー粉にお湯が注がれる

最後にコーヒーサーバーに直接お湯を注ぐ(バイパス注湯)

 湯温と湯量は細かく調整されます。最初は93℃で蒸らし、92℃から82℃まで徐々に湯温を下げながら抽出し、最後に86℃の湯を注ぐといった形だそうです(レギュラーモード・3杯の場合)。湯量については0.2ml単位で細かく調整しているといいます。

温度制御の例(レギュラーモード・3杯の場合)

 やがて抽出完了の音楽が流れ、約5分でコーヒーができあがりました。

5分ほどでコーヒーができあがった

 味は、たしかに濃い味わいでありながらも、すっきりした後味。香りも強く、整った味です。個人の感想ですが、いわゆる純喫茶で出されるコーヒーのようでとても好みでした。少なくとも自分で淹れるコーヒーより数段上の味です。特にアイスコーヒーは香りがよく、大変美味でした。

 自宅でお湯割りドリップも試したことがありますが、どうしても薄くなり、「エスプレッソでカフェアメリカーノを作るのとはわけが違うんだな」とよしていました。しかし、これを機に考えをあらためました。しっかりと調整された湯温で淹れるとこんなに整った味になるものなんですね。

 バイパス注湯という特殊なドリップ方式もさることながら、特筆すべきは幅140×奥行き297×高さ379mmのスリムボディ。横幅は同社の電気ケトル「BALMUDA The Pot」と同程度で、一般的な全自動コーヒーメーカーやエスプレッソマシンに比べて置きやすい大きさです。

電気ケトルとほとんど変わらないスリムデザイン

右から

左から

後ろから

設置例。コンパクトさがよくわかる

 デザインはバルミューダらしく細部までこだわった仕上げです。マットブラックの本体につやのあるステンレス製パーツを組み合わせ、上部にはBALMUDA The Potにも搭載した橙色のランプをあしらいました。本体上部にはあえてフタを設けずドリップしているところを見える形にして、音や香りを楽しめる設計にしているそうです。そのぶん蒸気は盛大に噴きあがるのですが。

ドリッパー上の空間がぽっかり空いている

ドリッパーを右にひねるとカチッと固定される

手前にひねると軽い力で引いて取りはずせる

ドリッパー上部のステンレスパーツ

手が入らないようにするガードの役割をもつ

電気ケトルにもついていたランプも搭載

水タンクのフタはマグネット式

前後左右どこからでも開けられる

水タンクは付け外しがしやすい作り。ただし上部に空間が必要

取り外したタンクに水を入れるところ

タンクの端にはすべりどめがついている

 この味をスタバが認めたということか、スターバックス リザーブとコラボした特別モデルも発売予定とのこと。BALMUDA The Potもスターバックス リザーブとコラボしていたので、そのうち「★/R」ロゴが入ったBALMUDA The Brewが発表されるのではないでしょうか。

 ちなみに開発段階では全自動マシンも試作したものの、「いいことがない」とやめたそう。ミルを内蔵しながら価格と品質のバランスをとることは難しく、サイズが大きくなり、お手入れが面倒になるなどデメリットの方が大きかったそうです。代わりに手挽きのミルを発売するということ。

 ついでに言うと、グラファイトトースターなどで競合する日本エー・アイ・シーも7月29日、同様のバイパス方式を採用した「アラジン コーヒーブリュワー」を発表済み(仮名称・来春発売予定・価格未定)。発売はバルミューダが先行しましたが、じきに比べられることになりそうです。

 コーヒーメーカーは2015年、トースター「BALMUDA The Toaster」発表時に開発を予告していたものであり、バルミューダ上場後初の新製品でもあります。話題性では今年11月発売予定のスマホに注目が集まりがちですが、家電で有名なバルミューダとしてはBALMUDA The Brewこそ本命。ただし価格は安くなく、むしろ同社の中でもトップクラスに値の張る、挑戦的な製品となりました。

 同社代表の寺尾玄社長はBALMUDA The Brewで淹れたコーヒーの味と香りを「家で飲めるレベルじゃない」と自画自賛しつつ、製品そのものについては価格を含めて「言い方は悪いが、一番角が立っている」と表現します。

バルミューダ代表取締役 寺尾玄社長 兼 チーフデザイナー

開発開始から数年「これは出ないな」

 寺尾社長が「コーヒーをやろう」と言いはじめたのは2015年。最初に試したのは社長自身が好きだったエアロプレス、空気圧でコーヒーを抽出する方法を機械化するというものでした。

 「ただ機械化してもしょうがないじゃないかということで、ピストンの代わりに蒸気圧で水分を供給しながら豆にお湯を通して落とすという方式を考えたんですよ。やってみると、それはそれでとてもおいしかった。すごくこってり出たんです。ものすごくコクがある味で」(寺尾社長)

 いわばスチームプレスです。たしかにおいしそうですが、3気圧ほどの高い蒸気圧をかける仕様にしていたため、安全性を確保するには「30万円で売るならできる」という設計に。「家電と呼ばれる価格」(寺尾社長)におさめるのは難しく、1年半ほどで開発は中止されてしまいました。

 1年後、今度はあるコーヒー会社との共同計画が浮上。家電だけではなく豆を売るいわゆるカプセル式コーヒーメーカーにスチームプレスを使おうという話になりました。しかし今度は味が出ない。今度はクオリティ未達で、やはり開発中止になってしまいました。

 そうこうしているうち、後から開発をはじめた電気ケトルやオーブンレンジが次々発表。社長はついに「これは出ないな」と思ったと言います。

 いやいや自分で言い出したんでしょと思わずつっこんでしまうと「武士に二言はないんですよ」と寺尾社長。はあ、武士ですかと返すと、「二言がないというのはどういうことかというと、違うことを言わないこと。言ったことのできるかどうかはまた別の話です」だと言い切りました。

 そんな武士がありますかと返しそうになりましたが、ともかく社長が開発をあきらめていたところに声をかけてきたのが、開発の中心的メンバーになった社員、太田剛平さんでした。

 「(太田さんが)『ぼく、コーヒーマニアです』と。『週末にコーヒーイベントがあると、自分の車で乗り出して、ドリップコーヒーを提供してるくらい好きなんです。コーヒーメーカーを作りたいんです』と言うんですね」(寺尾社長)

 社長はそれまでの経緯を説明し、一度は断りかけました。しかし、スチームプレスくらい特殊なことをするならバルミューダとしてやりがいがある。そこで、「変なことやるんだったらいいよ」という条件で太田さんにOKを出しました。

 「変なこと」というオーダーを受けて太田さんが最初にやってみたのは、電子レンジのマイクロウェーブ機構だけをコーヒーメーカーに入れて、熱と振動だけでコーヒーのエキスを出すというもの。次にやってみたのはトレーにコーヒー豆と水を入れてトースターであっためるというものでした。

 それはおいしいんですかと聞くと、社長は「まずいです」ときっぱり。「まずいものしかできなかったので、バルミューダとしてはもう一切やらないからやるなら自分でやれと言ったんです。そしたら、やったんですよ」

ストロングでクリアな味わい「やりこみました」

 「自分でやれ」と言われた太田さんがひざの下でやったのは、ハンドドリップのコーヒー液を30mlずつ分けて飲む実験でした。味はだんだん渋くなり、最後には雑味だらけで渋いお茶のような味に。そこで4分の3ほどで抽出を止めてお湯を足すと、雑味のないクリアな味のコーヒーが作れました。

 お湯割りにしたことで味は薄くなってしまいますが、「割る前のものを飲んでみると明らかにおいしかった。全量の粉で入れたものより倍くらいはおいしい。この味が最後に上がってくればいいんじゃない」(寺尾社長)いうことで、太田さんたちはバイパス注湯方式を使ったコーヒーメーカー開発をスタート。毎日、朝から夜までコーヒー浸りになりながら開発を進めました。

 「9時から始めると、だんだんうるさくなってくるんですよ。ストロングなものを飲んでいるうちにハイになってくる。15時くらいに『うるさい!』と言うと、『へぇすいません、エヘヘ……』みたいな感じになって」(寺尾社長)。

 ハイになりながらつきつめたのが湯温の制御。注湯口の孔の数を3個や6個に変えたり、ドリッパーの高さを1mmでも変えるだけでも味わいが変化してしまうため、様々な試作をくりかえしたといいます。結果、「一流のバリスタが世界大会で入れる渾身の一杯レベル」(寺尾社長)の味が出せるようになったということ。

 その上で太田さんが「やりこみました」と熱を込めて語るのは、どんな環境であっても同じ味になるよう再現性を高めることでした。

 「研究段階でひとつのもの(味の設計)を作ることはできても、実際にはお客さんがどんな電圧を使うか、どんな水を使うかといったいろんなパラメーターがある中でも同じ味を出していかなければいけない。その作り込みには本当に苦労しました。いわゆる白物家電に使われるものとしてはかなりリッチなマイコンを入れていて、コンセントの電圧を推測したり、ヒーターの温度を瞬間瞬間でセンシングしたり、シビアな計算をしています」(太田さん)

 そんなシビアな調整で目指したのは「ポップな味」(寺尾社長)。

 ポップとは誰もが好む王道のこと。コーヒーの味わいには豆の種類や抽出方法によって苦味、酸味、華やかさ、とろみなどに幅がありますが、人がコーヒーを好む理由は苦味とメイラード反応の香りにこそあるというのが社長の持論。そう考えると、コーヒーのまんなかにあるのは「ストロングでクリアなコーヒーなんじゃないですかというのが我々の提案」(寺尾社長)ということ。

 「それにうんと言ってもらえるかは社会にお任せするしかない」としながらも、出来には自信を持っているようでした。

バルミューダが普通であってはいけない

 コンセプトは確かに挑戦的ですが、5万9400円という価格も挑戦的です。社長自身は「激高(げきたか)ですよね、コーヒーメーカーとしては」と認めた上、「デザインの価値と味わいを両立させて一番コンパクトにしたのがこの価格。これ以上は1円も下げられなかった」とも語りました。

 「普通だったら削るんですよ。もうちょっと丸くする。 丸くして、お客さんに届けやすい商品にするためにいろんな調整をかける。当然今回もそうしようとしたんですが、最初に原案として出された味とデザインがすごく良かったんです。それを丸くしたいとも思ったが、できなかった。言い方は悪いですが、一番角が立った商品になりました。一番エッジー(とがっている)だと」(寺尾社長)

 原案とは、デザイナーが「バルミューダがコーヒーメーカーを出すならこの形状じゃないですか」と開発前に持ってきたモックアップ。あまりに出来がよく、「この味にこのデザインだったら出す価値がある」ということで、原案の姿をめざすことが最終的な目標になったのだそうです。

 そのため社長も値下げを指示してはいたものの、現場から上がってきた「ステンレスのパーツをやめていいか」「メッキをやめてもいいか」などの提案はすべて却下。胸の中では、原案をめざすという方針を貫けるならむしろ10万円になっても作ってやるというくらいの気持ちでいたといいます。

 そうまでしてエッジにこだわるのは「普通ではいけない」という思いから。

 「味だけキープしてデザインを丸くして出せばいいじゃんと言うことは正直できましたが、それをやっていったら普通になっちゃうと。これまで(商品を)丸くもしてきましたが、社会一般からすればとがったものにしたつもり。それが上場してもっと丸くしたら、普通の会社になっちゃう。バルミューダに投資するというのは、ある程度勇敢な行動、人がやらないことをやるということを求めてくれていると、我々は勝手にそう解釈しているんです。我々がステークホルダーに対してどんな責任を持っているのかと言うと、それはキレのある行動に対してなんじゃないかなと」(寺尾社長)

 寺尾社長はそう言ったあと、「世界最大の会社もかつてはそうだったじゃないですか」とアップルのことをほのめかしていました。株主が見ているのは行動ではなく結果では? とは思うものの、バルミューダが上場して丸くなったら終わりというのはよくわかります。ただ、普通の人がここまで普通ではないものを買うのかは正直わかりません。ポップな味わいだと言いながら、価格的には全自動コーヒーメーカーよりも高く、エスプレッソメーカーにさえ手が届くほど。しかもできるのがコーヒーのお湯割りだと言われたら「???」という顔をする人も多いのではないでしょうか。

 それでも実際に使ってみると、味、設置のしやすさ、デザイン、質感を含めた総合的な印象から「まあ6万なら」と納得させられる恐ろしさがありました。失礼ながらバルミューダのキッチンシリーズは近年あまりピンと来ていなかったものの、今回の破壊力は別ものでした。バルミューダは世界観で殴ってくるところがありますが、その真骨頂と言えます。社長は「間違ってヒットしたらいいなと思ってます」と冗談めかして言いましたが、間違いが起きてもおかしくありません。

 6年前、青山の製品発表会でBALMUDA The Toasterを初めて見たときの得体の知れない興奮をふたたび味わったような気もしました。一般的な評価はわからないが、この世界に魅了される人は確実にいるだろうというもの。上場後初にしてバルミューダの集大成のようなこの製品が一体どうなっていくのか。なぜかこっちが緊張しはじめた傍ら、社長は6年前よりもなお熱っぽく語っていました。

 「我々はここからいかに強く光るかと言うフェーズに入っていると思うんです。鈍く光っていてもしょうがないので」

 

「BALMUDA The Brew」主な仕様
サイズ 幅140×奥行き297×高さ379mm
抽出量 1〜3杯(1杯あたり約120ml)
モード REGULAR、STRONG、ICED
サーバー素材 ステンレス、PP
抽出時間 約4〜7分
本体重量 約3.4kg
カラー ブラック
コード長 1.0m

 

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※お詫びと訂正:初出時、発売日を2021年9月8日としていましたが、2021年10月7日の誤りです。関係者の皆さまにご迷惑をおかけしたことをお詫びするとともに訂正します。(9月8日 15:50)

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