Core i9-10900Kを筆頭に第10世代Core超徹底検証!Ryzenよりもゲームで強いって本当?

文●加藤勝明 編集●ジサトライッペイ

2020年05月26日 14時00分

Comet Lake-Sの10コアダイ

 ついに発売となったComet Lake-Sこと、インテルのデスクトップPC向け第10世代Coreプロセッサー。14nmプロセスを続投しつつも、最上位のCore i9-10900Kは同社メインストリーム向けCPUでは初の物理10コアでブースト時の最大クロックは5.3GHzと、スペックで勝負してきている。ソケットも新たにLGA1200となったため、マザーボードも「Z490」や「H470」などの新チップセットが用意されるなど、久々のプラットフォーム刷新に心躍らせている人もいるだろう。

 本稿はそんな第10世代Coreプロセッサー販売解禁タイミングに合わせて投入した速報レビュー記事の続編である。第10世代Coreプロセッサーがなんたるかを知りたいなら、まず「Core i9-10900KとCore i7-10700K、Core i5-10600Kの性能を速攻検証」をご覧いただいた上で、本稿に進んでいただきたい。

 今回は速報では詳しく触れられなかった第10世代Coreプロセッサーのパフォーマンスを様々なベンチマークを使用して掘り下げてみる。「CINEBENCH R20」のスコアーを見ればCPUの計算能力の上下関係についてはおおよその目安がついてしまう昨今ではあるが、CINEBENCHはあくまでCINEBENCH。実際のPCゲームやアプリでのパフォーマンスで比較しなければ、正しい理解には到達できないのだ。

今回検証用に準備したCPUはすべて製品版。CPUの寸法はLGA115x系とまったく同じだが、切り欠きの位置が完全に変わっているので、旧世代のマザーボードには装着できない

電極の配置も第9世代Coreプロセッサーとは異なるものを採用している

検証環境のおさらい

 検証環境は前回とまったく同じである。インテル製CPUのパフォーマンスはマザーボード側のPower Limit設定がインテル定格ではなく、マザーボードメーカーがデファクトスタンダード的に採用している設定を長らく使っていたため、CPU本来のTDPが現実の消費電力と大きく乖離していたり、ワットパフォーマンスが正しく把握できなくなっていた。

 そこで前回に引き続き、CoreプロセッサーはPower Limitの中でも消費電力に強く影響する「PL1」をCPUのTDP定格値に合わせた上で検証を行なう。前回は第9世代CoreプロセッサーについてはPL1=無制限の場合の数値も掲載していたが、今回は第9・第10世代Coreプロセッサーについては特に断らない限り、PL1は各CPUの定格値に合わせている。

検証環境
CPU Intel「Core i9-10900K」(10C/20T、3.7~5.3GHz)
Intel「Core i7-10700K」(8C/16T、3.8~5.1GHz)
Intel「Core i5-10600K」(6C/12T、4.1~4.8GHz)
Intel「Core i9-9900K」(8C/16T、3.6~5GHz)
Intel「Core i7-9700K」(8C/8T、3.6~4.9GHz)
Intel「Core i5-9600K」(6C/6T、3.7~4.6GHz)
Intel「Core i7-6700K」(4C/8T、4~4.2GHz)
AMD「Ryzen 9 3900X」(12C/24T、3.8~4.6GHz)
AMD「Ryzen 7 3800X」(8C/16T、3.9~4.5GHz)
AMD「Ryzen 5 3600X」(6C/12T、3.8~4.4GHz)
CPUクーラー Corsair「H115i PRO RGB」(簡易水冷、280mmラジエーター)
マザーボード ASUS「ROG MAXIMUS XII EXTREME」(Intel Z490、BIOS 0508)
ASUS「ROG MAXIMUS XI EXTREME」(Intel Z390、BIOS 1502)
ASRock「Z170 Extreme4」(Intel Z170、BIOS 7.50)
GIGABYTE「X570 AORUS MASTER」(AMD X570、BIOS F11)
メモリー G.Skill「Trident Z RGB F4-3200C16D-32GTZRX」
(各CPUの定格で運用、16GB×2)×2
グラフィックス NVIDIA「GeForce RTX 2080 Ti Founders Edition」
ストレージ Western Digital「WDS100T2X0C」(NVMe M.2 SSD、1TB)
電源ユニット Super Flower「LEADEX Platinum 2000W」(80PLUS PLATINUM、2000W)
OS Microsoft「Windows 10 Pro 64bit版」(November 2019 Update)

今回使用したASUSのZ490チップセット搭載マザーボード「ROG MAXIMUS XII EXTREME」では、BIOSを検証時点での最新版(0508)にすると、初回起動時やCMOSクリアー時にCPUのPower Limitを選ばせる機能がついた。この画面は「F1」を押すとインテル定格(PL1=TDP)、「F3」を押すとPL1は無制限設定となることを意味する

CPUの特性を総合ベンチマークで比較する

 まずは総合ベンチマーク「PCMark10」でどんな処理に強いのか、あるいは弱いのかを確認してみよう。今回はゲーミング以外のテストを実行する「Standard」テストの結果を掲載する。なお、総合スコアーのほかに各テストグループ別のスコアーもチェックしている。

「PCMark10」Standardテストのスコアー

 まず総合スコアー(青いバー)を見ると、Core i9-10900Kがコア数で勝るRyzen 9 3900Xを上回っている点に目がいく。Standardテストは軽めの処理が主体で、コア数勝負になるのはDCC(Digital Contents Creation)テストグループであるためだ。各テストグループ別のスコアーを見ると、確かにDCCではCore i9-10900KのスコアーはRyzen 9 3900Xよりも下回っている。

「PCMark10」Standardテスト、Essentialsテストグループのスコアー

 Core i9-10900Kをはじめとする第10世代Coreプロセッサーの総合スコアーを押し上げている要因のひとつがEssentialsテストグループだ。アプリの起動時間を見る「App Start-up」テストでは第10世代Coreプロセッサーが高スコアーを上げている。つまり、アプリの起動が高速ということになる。

 Ryzen勢のシステムにPCI Express Gen4接続のSSDを使えばもう少し差が縮まる可能性もあるが、App Start-up程度の読み書き負荷では、Gen3とGen4の違いは(経験上)誤差のようなものなので、これは単純にCPUまわりの差異によるものと言える。「Firefox」を利用する「Web Browsing」テストでも第10世代Coreプロセッサーは優秀である。

「PCMark10」Standardテスト、Productivityテストグループのスコアー

 第10世代CoreプロセッサーはProductivityテストグループでもスコアーを稼いでいる。「Spreadsheet」も「Writing」も「Libreoffice」を使った実仕様環境に近いテストだが、いずれのテストでもRyzen勢よりも高スコアーをあげている。ちなみに、第10世代Coreプロセッサーよりも第9世代CoreプロセッサーはWritingスコアーが低めに出ているが、これはすべてPL1を95W制限で動かしているためである。PL1を125Wにした第10世代CoreプロセッサーよりもCPUクロックのブーストが途切れがちになったことが原因と考えられる。

「PCMark10」Standardテスト、DCC(Digital Contents Creation)テストグループのスコアー

 ここまでやや精細を欠いていたRyzen勢だが、DCC(Digital Contents Creation)テストグループでは違った立ち回りを見せた。Ryzen勢は「Photo Editing」で大きくスコアーを稼いでいるが、その一方で「Rendering and Visualization」や「Video Editing」では首位をCore i9-10900Kに明け渡している。

 Rendering and Visualizationでは「POV-Ray」を利用したレンダリングテストが入っているため、単純にコア数の多いRyzen 9 3900Xが一番になりそうだが、実はこのテストはOpenGLによるワイヤーフレーム表示も含まれており、それがインテル勢と相性が良かったためである。

CGレンダリングでは第9世代Coreに明確な差をつけたものの……

 ここから先はアプリ系ベンチマークを中心に性能を比較していきたい。手始めに「blender」のレンダリング時間で比べる。「barbershop_interior_cpu.blend」を使用し、最初の1フレームだけをCPUでレンダリングする。CINEBENCH R20と同様全コアを使ってくれるのでCPUの馬力測定にはちょうど良い。

「blender」によるレンダリング時間

 Core i9-10900Kの処理時間は5年前(Skylake世代)のCore i7-6700Kのおよそ3分の1。14nmプロセスをここまで強化し続けたインテルの執念(と辛い開発事情)が感じられる結果となった。コア数や動作クロックが似ているCore i9-9900KとCore i7-10700Kとでは後者が大勝しているが、これはPL1をTDP定格値に設定しているせいもある。設計的には大きな飛躍がないぶん、PL1の上限値を公式に引き上げることで、より高クロックで回すことを許容したCPUになっていると言える。

 自社製の旧世代CPUに対する優越性は確保できた一方で、ライバルであるRyzen勢に対しては一様に負けている。今のRyzenは動作クロック的にはインテルに一歩劣るものの、ことマルチスレッド処理が重要なシチュエーションでは、同コア数のインテル製CPU(Ryzen 7 3800X対Core i7-10700K、Ryzen 5 3600X対Core i5-10600K)に対して、より短時間で処理を終えられる。

 最大限第10世代Coreプロセッサーのフォローをするならば、プロセスルールが14nmなのに最新の7nmと互角に渡り合っている部分だろう。だが、最上位のCore i9-10900KとRyzen 9 3900Xの差は大きいし、物理16コアのRyzen 9 3950Xには圧倒的な差をつけられる。マラソンで例えるなら、インテルは性能レースの先頭集団から脱落し、「第2集団」の後方になんとか食らいついている状態、といったところか。

 もうひとつマルチスレッド処理性能を測るものとして、CGレンダラー「V-Ray」を利用したベンチマーク「V-Ray Next Benchmark」も試してみよう。CPUとCUDAを使ったテストを実行できるが、今回はCPUだけを使ったテストを実行する。結果の単位はスコアー(ksamples)であるため、棒グラフが長いほど高性能という意味になる。

「V-Ray Next Benchmark」の結果

 blenderやCINEBENCH R20と同様、やはりここでもコア数が多くL3キャッシュも多いZen2世代のRyzenには勝てないという結果となった。PL1の制限により若干スコアーが低めに出ているとは言え、高クロックなCore i9-10900Kでもコア数に勝るRyzen 9 3900Xとの差は埋められないのだ。

動画エンコードもコア数の前に……

 続いては動画エンコード系処理で比較してみよう。今自作PC市場には最大64コア/128スレッドのCPUまであるが、動画エンコードに関して言えばコア数があまり多すぎても扱いきれないことのほうが多い。10コア/20スレッド程度のCPUのほうが無駄なく使えそうだ。

 まずは「Handbrake」を利用し、4KのH.264動画(再生時間約5分)をフルHDのMP4もしくはMKV形式に変換する時間を計測する。コーデックや画質設定はプリセットの「(H.264)Super HQ 1080p30 Surround」「H.265 MKV 1080p30」「VP9 MKV 1080p30」を使用した。

「Handbrake」を利用した4K動画を1080p動画に書き出す時間

 Core i9-10900Kは10コアすべてに負荷がかかっている時でも4.9GHzで動作可能だが、エンコード作業に関しては12コア/24スレッドのRyzen 9 3900Xに1分42秒~2分39秒も差をつけられている。同コア数のRyzen 7 3800X対Core i7-10700Kでは1分程度のビハインドで収まっているが、やはり物理コア2基の差は大きかったと見るべきだろう。

 続いては「Media Encoder 2020」でのエンコード処理速度を比較する。「Premiere Pro 2020」で再生時間約3分半の動画を作成し、それをMedia Encoder 2020にキュー出しして1本の4K MP4形式に出力する際の時間を比較する。コーデックはH.264がVBR 80Mbps、H.265がVBR 50Mbpsとなる。最近NVEncに対応したことで話題を呼んでいるが、今回はCPUのみでエンコードさせた(いずれも1パス)。

「Media Encoder 2020」を使ったエンコード時間

 Handbrakeほどではないにせよ、こちらでも第10世代Coreプロセッサーは同等クラスのRyzen勢よりも遅い。インテル勢の遅さの原因はPL1=125W設定であると考えるかもしれないが、これについては後々検討してみよう。

 最後に動画エンコードではないが、RAW現像処理のパフォーマンスも見てみたい。「Lightroom Classic」を利用し、100枚のRAW画像(DNG形式、各々に色補正やレンズ補正を付けたもの。24メガピクセル)を最高画質のJPEGに書き出す時間を計測した。書き出しの際にシャープネス処理(スクリーン用、適用量「標準」)も付与している。

「Lightroom Classic」によるDNG→JPEG書き出し時間

 現在のLightroom ClassicはRyzenのほうが圧倒的に速い、と断言するつもりはないが、ことJPEG書き出しとシャープネス処理(この処理がやたらとCPUのリソースを使う)においては、Ryzenは圧倒的なアドバンテージを持っている。Ryzen 5 3600XがCore i9より速いのだから、コア数でもクロックでもない。今回の検証設定では単純にZen2アーキテクチャーと相性の良い処理が使われているから速い、ということだろうか。

ゲームはAPIも重要なファクター

 インテルは第10世代Coreプロセッサーを「世界最速のゲーミングプロセッサー」であるとアピールしている。これまでのベンチマーク結果を見れば、その理由は明らかだ。シングルスレッド性能を生かせ、かつ現時点で耳目を集めるような用途と言えばゲーミング以外にはない。

 前回は軽く「Rainbow Six Siege」1本でのみ検証したが、今回はゲームの種類を増やしてじっくりと見てみよう。まずは「3DMark」のスコアーを比較してみる。テストは「Fire Strike」と「Time Spy」のみに絞り込んだ。

「3DMark」Fire Strikeのスコアー

 DirectX 11ベースのFire Strikeと、DirectX 12ベースのTime SpyではCPUの使われ方もかなり違う。Fire StrikeではPhysicsテストでCPUパワーが計測されるが、コア数が多いからといって素直に総合スコアー(青いバー)が伸びるわけではない。Physicsスコアーでトップに立ったRyzen 9 3900XとCore i9-10900Kの差はほとんどないに等しい。Graphicsスコアーに関しては、5年前のCore i7-6700Kでも他と遜色ないスコアーになってしまったので、どういったCPUが強いという傾向がわかりづらくなってしまった。

「3DMark」Time Spyのスコアー

 一方でDirectX 12ベースのTime Spyでは、Graphicsスコアーは全体にRyzen勢のほうが高く評価されており、インテル勢はCore i9-10900KですらRyzen 5 3600Xよりもやや下の評価となっている。とは言え、GraphicsスコアーのトップがCore i7-6700Kというなかなかにおもしろい状況なので、総合スコアーで判断すべきだろう。

R6SではDX11でもVulkanでも第10世代Coreが平均で上

 続いては前回の速報記事で使った「Rainbow Six Siege」におけるフレームレートをもう一度検証してみよう。前回はVulkan API下でのフレームレートしか見なかったが、今回はDirectX 11の時もチェックする。今回のグラフでは、第9・第10世代CoreプロセッサーはすべてPL1をそのCPUのTDPで運用した時のデータである。

 画質は「最高」をベースに、レンダースケールを100%とし、ゲーム内蔵のベンチマーク機能を利用して測定した。解像度はフルHD固定としている(以降同様)。

「Rainbow Six Siege」DirectX 11、1920×1080ドット時のフレームレート

「Rainbow Six Siege」Vulkan、1920×1080ドット時のフレームレート

 このゲームのベンチマーク結果は最低フレームレートと最高フレームレートが変動しやすいが、平均フレームレートはDirectX 11でもVulkanでも第10世代CoreプロセッサーがRyzenよりもやや上回るという結果が得られた。この点において第10世代Coreプロセッサーが優れていると言うのは間違ってはいない。

 だが最低フレームレートの違いに注目してみると、APIを問わず最低フレームレートはRyzen勢のほうが安定して高い。特にDirectX 11では、第9・第10世代Coreプロセッサーの最低フレームレートは特に低迷している感が強い。

 一般的にフレームレートの変動が大きくなると、ゲーム画面のティアリングやスタッターが目立ちやすくなる。ゆえに、最低フレームレートと最高フレームレートの振れ幅が少ないほうが見やすい画面となる。とりわけVRR(Variable Refresh Rate、G-SYNCやFreeSyncのこと)機能がないディスプレーの場合はなおさらだ。その意味では、Rainbow Six Siegeと第10世代Coreプロセッサーを組み合わせるならばVulkanを使っていくべきだろう。もちろん、それはRyzenも同じだ。

モンハンアイスボーンはDX12で強みを発揮

 続いては「MONSTER HUNTER WORLD: ICEBORNE」を試してみよう。このゲームではAPIをDirectX 11またはDirectX 12のどちらかを選択できる。画質は「最高」とし、集会エリア内の一定のコースを移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定した。

「MONSTER HUNTER WORLD: ICEBORNE」DirectX 11、1920×1080ドット時のフレームレート

「MONSTER HUNTER WORLD: ICEBORNE」DirectX 12、1920×1080ドット時のフレームレート

 このゲームではAPIによって性能の傾向が大きく分かれた。まずDirectX 11ではRyzen勢が安定して強く、平均フレームレートも最低フレームレートにおいても現行のインテル製CPUを上回っている。DirectX 11はあまりマルチスレッド処理に配慮がされてない時代のAPIゆえに、シングルスレッド性能重視の第10世代CoreプロセッサーにはうってつけのCPUのように見えるが、実際強かったのはRyzenだった。

 また、軒並みに第10世代Coreプロセッサーが同格の第9世代Coreプロセッサーに負けているのもおもしろい。ひょっとすると、DirectX 11ではまだ十分な最適化が行なわれていない可能性が高い。

 だがDirectX 12になると傾向が逆転。今度は第9・第10世代Coreプロセッサーが大きくパフォーマンスを伸ばし、Ryzen勢よりも最低フレームレートも平均フレームレートも高くなった。つまり、ハイエンドGPU(今回はGeForce RTX 2080 Ti)のパフォーマンスを十全に生かせるようになっている。

 ちなみにDirectX 12環境でCore i5-9600Kとi7-6700Kのフレームレートが振るわないのは、単純にCPU負荷が上がり、6コア/6スレッドや4コア/8スレッドのCPUではボトルネックになってしまっているためだ。

 ここまで、DirectX 11環境では第10世代Coreプロセッサーは力を発揮できず、よりモダンなDirectX 12環境では発揮できるという傾向が浮かび上がってきたが、結論に飛びつくのはまだ早い。

FF14ベンチではCore i9-10900Kが突出して強い

 次は「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ」の公式ベンチマークを使ってみよう。画質は「最高品質」に設定し、スコアーのほかにベンチマーク中のフレームレートも比較する。

「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ」ベンチマーク、1920×1080ドット時のスコアー

「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ」ベンチマーク、1920×1080ドット時のフレームレート

 このベンチマークは(ゲーム自体も)DirectX 11ベースで作られているが、Core i9-10900Kのスコアーとフレームレートが突出しているのがわかる。次点でCore i7-10700Kが入り、Ryzen勢と続く。ゆえに、APIがDirectX 11ではCPUの性能を生かせない、というよりもゲームタイトルごとの最適化の問題と言えるだろう。

CoD: MWは微差でインテル勢が勝利

 次は「Call of Duty: Modern Warfare」で試してみよう。画質はDXRをオフにした以外はすべて最高設定(モーションブラー系はオフ)とし、キャンペーン「ピカデリー」における一定のコースを移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定した。

「Call of Duty: Modern Warfare」のフレームレート

 このゲームはDXRに対応していることからもわかる通りDirectX 12ベースだが、グラフにある通りインテル勢のフレームレートのほうが微妙に高いだけで、CPU性能の差は非常に小さい。MONSTER HUNTER WORLD: ICEBORNEの差に比べると、このゲームでのフレームレート差は誤差といってもいいくらいだ。

 ちなみに今回の検証環境ではRyzen 5 3600Xのフレームレートが異様に低くなる現象に遭遇したが、単純な不具合だと思われる(かといってデータを記載しないのも憚られるので、そのまま掲載している)。

RDR2でもインテル勢が優秀だが、10コア以上は最低で落ち込む傾向

 続いてはVulkanを使用した「Red Dead Redemption 2」で試してみたい。画質(精密度)は20段階中の10段階とし、トリプルバッファーと垂直同期はオフとした。ゲーム内ベンチマーク機能を利用して計測している。

「Red Dead Redemption 2」のフレームレート

 このゲームでも平均フレームレートにして3fps程度6コア/12スレッド以上のインテル製CPUが優秀な値を示している。MONSTER HUNTER WORLD: ICEBORNEの伸びが特別に大きいだけで、他のゲームではさほど差はないといって良いだろう。

 しかし、今回の検証環境では10コア/20スレッド以上のCPU(Core i9-10900KとRyzen 9 3900X)では、何回試行しても最低フレームレートがずっと落ち込んだままだった、という点が気になった。コアが増えすぎてマルチスレッド処理のオーバーヘッドが出てしまったのか、最適化がうまくいっていないのかまでは不明だが、このタイトルに限っては物理8コアのCPUが良い結果を出せていた。

10コアでもCPU使用率99%の激重シチュエーションではRyzen有利

 最後に直近のタイトルとして「Mount & Blade II: Bannerlord」を試してみた。まだアーリーアクセス段階のゲームなので今後改善される可能性も大だが、2020年5月の検証時点での性能として参照してほしい。

 画質は最高画質とし、バトルサイズ(登場する兵士の数)は最大の1000とした。カスタムバトルで騎兵500騎対500騎を激突させ、その時のフレームレートを「CapframeX」で測定する。ただし、毎回布陣や両軍が衝突する地点が違うため、フレームレートの変動は大きい。最低3回計測して平均フレームレートが中庸な値を採用している。

「Mount & Blade II: Bannerlord」のフレームレート

 この条件でゲームを始めると、Core i9-10900KのCPU占有率は最大で99%程度、敵の数が少なくなるにつれ下がっていくが、両軍が激突した直後はほぼフル稼働となる。PCゲームにおけるCPUの使い方としてはかなり特殊な環境となる。また、ベンチマーク時のシチュエーションに強く左右されるため厳密なベンチマークとは言えないが、Core i9-9900Kに対してCore i9-10900Kはコア数で優位に立ち、さらにクロック(この検証ではPL1の違いも加わる)の差も加わり、フレームレートに大差がついた。

 しかし今回のような検証条件では、コア数の多いRyzen 9 3900Xのほうが圧倒的に有利だ。実際Ryzen 9 3900XはCore i9-10900Kよりも10fps近く上回っている。8コア/16スレッドのRyzen 7 3800Xが次点になるなど、全体的にRyzenに有利なテスト条件だったと言えるだろう。

PL1=125WとPL1=無制限設定で比較してみた

 冒頭でも書いた通り、今回の検証では第10世代Coreプロセッサーはインテルの定格設定であるPL1=125W、第9世代CoreプロセッサーはPL1=95W設定で検証した。すべてのZ490チップセット搭載マザーボードを触っているわけではないが、本稿執筆時点(5月24日)では、ほぼすべてのマザーボードがPL1=無制限設定がデフォルトになっている。PL1=125W設定で検証した理由については前回述べたが、そのひとつにPL1=無制限の設定では逆に性能が落ちる場合もあった、というものがある。

 では、PL1の設定の違いで性能に差は生まれるのか否かを改めて検証してみたい。第10世代CoreプロセッサーのPL1設定をインテル定格の125Wと無制限(BIOSでの表記上は4095W)にしていくつかベンチマークを回してみた。

「CINEBENCH R20」のスコアー。PL1=125Wと無制限の比較

 上のグラフはCINEBENCH R20のスコアー比較だが、PL1=無制限にするとマルチスレッドテストのスコアーはわずかに上昇する程度で、シングルスレッドテストのスコアーは逆に下がっている。検証時に使用したASUS製マザーボード「ROG MAXIMUS XII EXTREME」のBIOS 0508の熟成度が足りずにスコアーが下がっている可能性も捨てきれないが、PL1を無制限にしたところで、今回の検証環境では効果はないように見える。そして、これがPL1=125W設定のテストをメインのデータとして扱うことになった根拠となる。

「PCMark10」Standardテストのスコアー。PL1=125Wと無制限の比較

 CINEBENCH R20とは対象的に、PCMark 10ではPL1=無制限設定にするとCore i9-10900KとCore i7-10700Kの総合スコアーが上昇した。テストグループ別に眺めてみると、どのテストグループも一様にスコアーが目に見えて伸びている。PL1設定によって特定の処理が高速化するのではなく、シンプルにクロックがよりブーストするようになってスコアー上昇にがつなったと考えられる。

「blender」のレンダリング時間。PL1=125Wと無制限の比較

 blenderのレンダリングベンチマークでは、PL1=無制限にしたほうが処理時間が短くなった。ただし劇的に短くなるわけではなく、Core i9-10900Kで約1分14秒、Core i7-10700Kで約35秒、Core i5-10600Kだと約16秒とコア数が少なくなるにつれ差も小さくなっていった。コア数が多く消費電力も発熱も多いCPUのほうがPL1を制限することによる性能的なデメリットが大きいのはごく自然な話である。しかし、その差はさほど大きくないと言えるだろう。

「Media Encoder 2020」のエンコード時間。PL1=125Wと無制限の比較

 続いては「Media Encoder 2020」によるエンコード時間の比較だが、計算負荷が比較的低いH.264ではPL1=無制限にしたところで10秒も短縮しなかったが、計算負荷の高いH.265ではblenderと同様、上位CPUほどPL1=無制限にした時の性能向上が大きかった。ただし、短縮された時間はせいぜい1分程度と小さく、blenderと傾向は同じだ。

「MONSTER HUNTER WORLD: ICEBORNE」DirectX 12、1920×1080ドット時のフレームレート。PL1=125Wと無制限の比較

 MONSTER HUNTER WORLD: ICEBORNEのフレームレートはDirectX 12のみで計測したが、ゲームでもPL1=無制限は効果があることがわかる。しかし、Core i5-10600Kに関してはほとんど差を認められない。blenderやMedia Encoder 2020では差が出ていたので、ゲームではベンチマークの誤差などに埋もれてしまうほど微妙な差になっていると考えられる。

PL1設定別の消費電力とクロックの傾向

システム全体の消費電力。PL1=125Wと無制限の比較

 システム全体の消費電力に関しては速報でお伝えした通りだが、PL1=125Wと無制限の差をより詳しく解説するために第10世代Coreプロセッサーのデータだけを抜粋した。また、グラフの見方を改めて説明すると、「アイドル時」はシステム起動10分後の安定値、「高負荷時(ピーク)」は超高負荷テスト「Prime95」のSmallFFTテストを10分起動した時のピーク値、「高負荷時(安定)」はSmallFFTを一定時間回した後(Power Limitが発動した後)にやや低めで安定する消費電力を意味する。

 PL1を無制限にした場合や、物理6コア以下のCPUの場合は高負荷時(ピーク)と高負荷時(安定)はほとんど変わらない(下がっても数W程度)。しかし、8コア以上のCPUでは、PL1をある値以下(今回はCPUのTDP)に設定すると、消費電力の安定値が2つ出現していることがわかる。

ラトックシステムのBluetoothワットチェッカー「REX-BTWATTCH1」で、Core i7-10700Kの消費電力を追跡してみた画像(左端がスタート)。SmallFFT開始から約30秒でPower Limitが発動し、消費電力は200W弱に落ち込む。PL1を無制限にした場合は高めのままずっと続く

 このテストでも上位CPU、特にCore i9-10900Kの消費電力がPL1=無制限で大幅に伸びるが、Core i5やi7ではさほど増えないこともわかる。言い方を変えれば、Core i9-10900Kを一般的なPL1=無制限で運用する場合はかなりワットパフォーマンスを犠牲にしているということだ。この点においては、7nmプロセスを採用するZen2世代Ryzenのワットパフォーマンスが際立つ結果になったと言ってもいい。

 Core i7とi9の高負荷時(安定)と、Core i5の高負荷時(ピーク)がほぼ200W前後であることから、インテルの定めているTDP=125Wという指標は、CPUにある程度高負荷をかけ、一定時間経過した後の安定値のことを示唆している感じにも見える。これは仮説にすぎないが、コア数が最大8コアになった第9世代Coreプロセッサーでも同様の傾向は確認できている(今回の検証環境では160W弱で安定する)ので、何らかの法則があるようだ。

 では、PL1=125Wと無制限で、クロックや温度の動きにどのような違いが出るのだろうか? モニタリングツール「HWiNFO」を利用して、動画エンコード時のCPUのAverage Effective Clock、CPUパッケージ温度、そしてCPU Package Powerを開始から7分程度追跡してみた。

動画エンコード時におけるCore i9-10900KのAverage Effective Clockの推移

動画エンコード時におけるCore i7-10700KのAverage Effective Clockの推移

動画エンコード時におけるCore i5-10600KのAverage Effective Clockの推移

 まずはCPUのAverage Effective Clockの推移だ。この処理ではCPU各コアの占有率はほぼ100%近くになるため、Average Effective Clockは全コア動作時の最大クロックにかなり近いものとなる。

 最も印象的な値を示しているのはCore i9-10900Kだ。PL1=無制限の場合、エンコード処理が本格的に始まる1分過ぎあたりから、Average Effective Clockはほぼ4.8~4.9GHzまで到達する。これに対し、PL1=125W時は4.2GHz前後で上下し、低い時は3GHz台まで下がることもある。

 ただし、時間軸左端ではCore i9-10900KのPL1=125W設定でも無制限設定とほぼ同じようなクロックを出している。もう少し詳しく見ると、Core i9-10900Kの各コアに立つ「Power Limit Exceeded」フラグは開始1分程度のところで全コアにほぼ一斉に付く。このフラグが立つまではPL1=125Wと無制限の間に差はないが、125Wのリミットをオーバーした瞬間にクロックが低下し、処理時間に差が出るということになる。

 同様にCore i7-10700KでもPL1=125W設定ではAverage Effective Clockが低下するが、Core i9-10900Kほどの差はない。さらにCore i5-10600Kにいたっては、PL1=125Wと無制限の差はほとんど見られない。これは前掲のblenderなどの比較でも、上位CPUほど差が開く結果と合致している。

PL1設定別のCPUパッケージ温度の推移

動画エンコード時における各CPUのCPUパッケージ温度の推移

 Core i9-10900Kの場合、本格的に温度が上がり始める開始1分以降の温度を見ると、PL1=無制限ではCPUパッケージ温度が87度まで上昇したのに対し、PL1=125Wでは61度前後にとどまっている。ただし、PL1=125Wでも処理開始から30秒程度まではPL1=無制限と同じような温度上昇カーブを描いているので、温度が上がる時はしっかり上がるのだ。

 Core i7-10700KのPL1=125W設定時は65度前後で安定、Core i5-10600KのPL1=125W設定時は61度前後で安定と、TDP 125WのCPUでも280mmラジエーターの簡易水冷クーラーで十分冷やせることがわかる。逆にPL1=無制限とした場合は、Core i9-10900Kのような多コア&高クロックの上位モデルだとかなり温度が上がることになるので、360mmラジエーターの簡易水冷クーラーなどへのアップグレードを検討したくなる。

動画エンコード時における各CPUのCPU Package Powerの推移

 最後にCPU Package Powerの推移だ。Core i9-10900KのPL1=125W時は序盤に200W近くまで上がるが、開始1分弱で125Wに落ち込み、処理終了まで維持される。PL1=無制限にするとCPU Package Powerは210W前後で安定する。つまり、全コア4.9GHzを維持するために電力をじゃぶじゃぶ投入しているのだ。

 Core i7-10700Kも同様にPL1=125W設定時は1分過ぎに125Wで安定するが、PL1=無制限では150W前後まで上がる。一方で、Core i5-10600KはPL1の設定に関係なく、CPU Package Powerは100W前後で安定している。裏を返せば、100W以上の仕事はさせないよう設計されているのだ。SmallFFTを実効させた時の高負荷時消費電力がCore i5-10600Kだけ2段にならない理由はここにある。

まとめ:Ryzenに対してゲームでは依然優勢だが、決め手に欠く

 以上で第10世代Coreプロセッサーの詳細なパフォーマンス検証は終了だ。インテルが第10世代Coreプロセッサーをゲーミング向けプロセッサーとして優秀であるとアピールしているが、今回のベンチマーク結果はその主張を裏付けるものとなった。だがこれは、ゲーム以外の用途では同クラスのRyzenに勝てないという悲しい事実の裏返しでもある。とは言え、プロセスルールでは2周遅れているインテルの14nmがクロック強化とコアの微増でAMDの7nmプロセスの背中にぴったりつけている点は評価してもよいだろう。

 しかし、肝心のゲーム用途でもタイトルの設計次第ではRyzenに勝てないという状況があるということも確認できた。現時点においては、Rainbow Six SiegeやMONSTER HUNTER WORLD: ICEBORNEではDirectX 11よりもVulkanやDirectX 12といったより新しいAPIでないと力が発揮できないし、最低フレームレートにおいてはRyzenのほうが有利なゲームも存在することがわかった。

 第3世代Ryzenが世に出るまでは、ことPCゲームにおいてはインテル製CPUは不動の王者だった。しかし、そのゲームでも、勝てるシチュエーションが限定されてしまった。平均フレームレートではいくらかRyzenより高い値を示したものの、最低フレームレートとのバランスではRyzenに負けるシチュエーションも出てきた。さらに、現在の価格設定ではRyzenに対して割高感がある。第3世代Ryzenよりも「安くて速い」という価値をはっきりと示せなかったのはインテルの明らかな失策と言える。

 また、第10世代CoreプロセッサーのPL1をインテル定格(125W)の設定にすることで、パフォーマンスはやや下がるものの温度や消費電力といった面でかなり改善することもわかった。Mini-ITXマザーボードで小型なゲーミングPCを組もうと考えているなら、PL1設定を下げることでかなり扱いやすくなることは確かだ。

【特報】6月4日19時~ジサトラKTUで第10世代Coreプロセッサーの特別番組が決定!【自作PCを視聴者プレゼント】

 来る6月4日(木)19時から、デスクトップPC向けインテル第10世代Coreプロセッサーの発売を記念し、アスキーYouTubeチャンネルの「ジサトラKTU #155」にて特別番組を放送します。声優の愛美さんをゲストに迎え、Core i9-10900Kを使った生PC自作を行ないます。作ったPCは愛美さんのサイン入りで抽選1名様にプレゼントする予定です。ぜひご視聴ください!

▽放送情報
放送日: 2020年6月4日(木)
時間 : 19:00~放送予定
番組 : 【自作PCプレゼント】インテル史上最速ゲーミングCPU「Core i9-10900K」で声優の愛美さんが自作PCに初挑戦!:ジサトラKTU #155

▽出演者
ジサトライッペイ(@jisatora_ippei
加藤勝明(KTU)(@kato_kats

▽ゲスト
愛美さん(@aimi_sound
安生健一朗さん(インテル株式会社 技術本部・部長)

 また、自作PC業界の面々が豪華プレゼントをかけたプレゼン&クイズ大会を実施する生番組もアスキーYouTubeチャンネルにて同時配信予定! つばさ&ドリル北村がゲストの方といっしょに第10世代Coreプロセッサーを掘り下げちゃいます! 

▽放送情報
放送日: 2020年6月4日(木)
時間 : 19:00~放送予定
番組 : 【超豪華プレゼント】インテル史上最速ゲーミングCPU「Core i9-10900K」発売記念!自作業界オンラインミーティング

▽出演者
つばさ(@tsubasa_desu
ドリル北村

▽ゲスト
ASRock 原口 有司さん
ASUS 市川彰吾さん
GIGABYTE ソフィアさん
MSI 新宅洪一さん
安生健一朗さん(インテル株式会社 技術本部・部長)

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