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「Knowledge 2024」基調講演、Now Platformと生成AI、Now Assistの強化、富士通との提携など紹介

「ビジネスのあらゆる場面で使えるAIを」ServiceNow CEO

2024年05月13日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 ServiceNowが2024年5月7日~9日、米ラスベガスで年次カンファレンス「Knowledge 2024」を開催した。初日の基調講演では同社のCEO、ビル・マクダーモット氏がステージに立ち、「ビジネスのあらゆる場面で使えるAI」という同社のAI戦略を打ち出した。

ServiceNowのCEO、ビル・マクダーモット(Bill McDermott)氏。エネルギッシュにステージを動き回った

ServiceNowが提供する「ビジネスのあらゆる場面で使えるAI」をアピールした

「全員がAIを使えるのがServiceNow」と強調

 今年のKnowledgeにはおよそ2万人の参加者が集まった。そのうち約300人が日本の顧客やパートナーだという。満員の会場を前にしたマクダーモット氏はまず、顧客に感謝の言葉を伝える。

 「8000社以上いるServiceNowの顧客は、合計で1億5000万人を雇用しており、経済規模は20兆ドルに達する。2023年の1年間だけで230億回のワークフローを実行し、DXを進めている」(マクダーモット氏)

 ServiceNowはITサービスマネジメント(ITSM)ツールとしてスタートし、運用の自動化やセキュリティなどのIT領域、さらに顧客や従業員、取引先に対するサービスへと領域を拡大してきた。基盤となっているのは、単一のデータモデル、単一のアーキテクチャを特徴とする「Now Platform」だ。このプラットフォームを通じて、自社ツールどうしだけでなく、SAP、Oracle、Salesforceといった外部のソリューションとも連携する。同社ではこのNow Platformを“プラットフォームのプラットフォーム”と呼んでいる。

単一の「Now Platform」を基盤とすることで、ServiceNowのツール間や他社ソリューション間との連携、さらにはAI適用が容易になる

 マクダーモット氏は「組織で働く人は、一日平均13個のアプリケーションを使うと言われている。これにより、生産性の30%が無駄になっている」と述べる。ServiceNowが提供する“プラットフォームのプラットフォーム”によって「使っている(複数の)アプリケーションの上に、単一の(統合された)体験レイヤーを置く」ことができるという。

 ここに生成AIのパワーを組み込むことで、業務効率はさらに改善する。Now Platformという単一プラットフォームに、チャットボット、Copilot、音声認識などさまざまなAI機能を搭載するわけだ。ServiceNowの試算によると、同社の顧客企業だけで、年間10億時間に相当する生産性の改善が期待できるという。

 マクダーモット氏は、従業員、サービス担当者(オペレーション、エージェント、サポート)、開発者、顧客などあらゆる関係者がその恩恵を受けられると説明し、「“人々のためのAI”、きちんと機能するAIを提供する。ServiceNowにより、ビジネスの隅々までAIを導入できる」と述べた。

AIチャット「NowAssist」がパワーアップ

 そうしたNow Platformの最新機能として、今回、企業が自社独自のAIモデルを持ち込めるようになった(Bring Your Own Model)ことが発表された。さらに、エクスペリエンスレイヤーではメタデータを用いたフレームワークにより、さまざまな役割を持つ従業員がシステムを切り替えずに利用できるようになったこと、ワークフローレイヤーでは自動化として同一のAPIを用いることでシステム間のやり取りが可能になり、バラバラのシステムを連動させるアクションを作成できるようになったことなども発表している。

“AIファースト”のプラットフォーム。インテリジェンスレイヤーに自社のAIモデルを用意するが、汎用のモデル、ドメイン固有のモデルも利用できるうえ、自社のモデルを持ち込むこともできるようになった

 2023年秋に発表したAIチャット「Now Assist」では、ナレッジベースのアイテム生成が加わる。新機能を紹介したServiceNowのプラットフォームとAI担当SVPのジョン・シグラー氏は、「2023年、1850億のナレッジベースのアイテムが生成され、1人のエージェントがアイテムを生成するのに要した時間は平均30分」だったと説明する。今回の新機能では、ここをNowAssistに任せられるようになるため効率が大きく改善される。また、ITSM向けにプロンプト管理も発表した。

 このほか、エージェント向け新機能では顧客との通話終了後のサマリ生成が、戦略ポートフォリオ管理(SPM)向け新機能としてはフィードバックのサマリ生成などが発表された。また開発者向けには、自然言語を使ったプレイブックの生成、カタログアイテムの生成などを新機能として発表している。

ServiceNow プラットフォーム&AI担当SVPのジョン・シグラー(Jon Sigler)氏、プラットフォームエンジニアリング&AI担当SVPのジョー・デーヴィス(Joe Davis)氏

 ライブデモでは、従業員からの医療費負担についての自然言語での質問に対して、Now Assistが外部のSharePoint上にあるドキュメントから情報を引用して回答する様子が披露された。「ServiceNowをエンタープライズ全体のシステムとして用いて、答えを探すことができる」と、プラットフォームエンジニアリング&AI担当SVPのジョー・デーヴィス氏は説明した。

Now Assistのライブデモ画面。外部のSherePointにあるコンテンツを参照して回答、情報ソースへのリンクも提示している

別のライブデモとして、ベーカリーがServiceNowを導入し、売れ筋商品の欠品と廃棄を防ぐというストーリーも紹介された。ServiceNow上でPOSデータ、IoTオーブンのデータ、来店客数のカウント、履歴データなどを結びつけることで、AIが「どの商品を何点、いつ焼くべきか」を推論する。このワークフローは従業員が自然言語でAIに生成させたもので、ほかにも「商品が一定数まで減ると補充を促すアラートを送信する」フローも生成していた

富士通とServiceNowが戦略的提携

 基調講演ではServiceNowの導入顧客も複数登場した。その1社が香港の金融機関、HSBCだ。調達業務におけるServiceNow活用を紹介した。

 世界に23万人の従業員を持つ同社では、調達金額は年間で110億ドルに及ぶという。従来は、バラバラのレガシーシステム、調達から支払までの作業の非効率さといった課題を抱えていた。すでに人事、IT、法務の各領域でServiceNowを利用していたこともあり、調達業務でもServiceNowを選んだ。

 HSBCで調達向けデジタル製品担当のグローバルトップを務めるマーク・ジョーンズ(Marc Jones)氏は、「過去に(自社独自の)カスタマイズをしたソリューションを導入して失敗したため、業界でベストなシステムを、そのまま使いたかった」と説明する。

 HSBCでは、過去2年間で50のレガシーシステムを15まで削減し、従業員体験の簡素化、自動化、処理の改善を図っているという。この1年の成果として、複数拠点のSharePointサーバーに点在していたナレッジを集約し、古いドキュメントの整理を進めることができた。すべてのナレッジをServiceNowに置くことで、従業員からの質問の95%に回答できるようになったという。

 現在は調達ハブのServiceNowへの実装を開始したところで、1回の調達につき5分程度の時間短縮が期待できるという。調達部門では年間およそ30万件の注文を処理しているため、合計の削減時間はかなりの規模になりそうだ。

 「2023年、調達に関するものだけで8000件のチケットが発生した。その多くは『商品はどこにあるのか?』『インボイスの状況は?』といった(単純かつ重複した)内容で、ハブを用いたセルフサービス形式にすることで、このような問い合わせへの対応が削減されるだろう」(HSBC ジョーンズ氏)

 また今回、ServiceNowでは富士通、Genesys、Infosysとの提携も発表している。富士通はServiceNowの導入顧客でもあるが、今回の戦略提携を通じて、「Fujitsu Uvance」のオファリングとしてServiceNowの技術を組み合わせたソリューションを提供する。また、、川崎市に「Fujitsu-ServiceNow Innovation Center」を開設することも明らかにしている。

* * *

 基調講演の締めくくりとして、マグダーモット氏は「ビジネスにかかわるすべての人々のために『機能するAI』を導入しよう」と呼びかけた。

 「ビジネスへのAI適用においてはインクリメンタルな(一歩ずつ進むような、漸進的な)思考ではなく、(爆発的に進む)指数関数的な思考が求められる。技術はすでにある。われわれは顧客を支援する体制を整えている。ServiceNowは顧客の成功を重視し、こだわっている。今後も顧客が勝者となり、成長することにコミットする」(マグダーモット氏)

マグダーモット氏は、AIを活用してDXを推進するためのコツ“トップ10”を紹介した

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