利用実績がすでに高まりつつある量子コンピューター
そして、3つめの量子コンピュータでは、日本でも利用実績が高まっていることを示す。
山口社長は、「日本の稼働率は100%。世界で最も高い稼働率になっている」と語る。 日本では、2021年7月から、商用量子コンピュータ「IBM Quantum System One」を、新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センターで稼働。2023年10月からは、127量子ビットのEagleプロセッサを搭載した「IBM Quantum System One」も稼働させている。
東京大学が設立した量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII)に参画する産官学の組織が積極的に利用しており、バイオインフォマティクスや高エネルギー物理学、材料科学、金融など、幅広い分野での量子研究が進んでいる。
また、2023年12月に、米ニューヨークで開催されたIBM Quantum Summit 2023では、世界最高性能の量子プロセッサとなるIBM Quantum Heronプロセッサを発表したほか、IBM初のモジュール式量子コンピュータ「IBM Quantum System Two」を発表。さらに、東京大学やアルゴンヌ国立研究所、ワシントン大学などとともに、ユーティリティスケールの量子コンピューティングの実証を推進していることなどを明らかにした。
ここで注目しておきたいのが、IBM Quantumの開発ロードマップを2033年まで拡張したことだ。
というのも、このロードマップで、2033年に示された姿は、「量子コンピュータが、完成形といえる段階に到達することを明示した」という声が、関係者の間からあがる内容になっているからだ。
2033年には、Blue Jayシステムとして、2000量子ビット、10億ゲートを実現。エラー訂正による大規模な量子コンピューティングに留まらず、最終的には完全なエラー訂正を組み込んだシステムを構築することができるという。
ギルディレクターは、「完全にフォールトトレラントなマシンを大規模に構築するには2000万量子ビットのシステムが必要だったが、IBMはわずか10万量子ビットで実現できる。これは、これまでのすべてのテクノロジーと比較して大きな違いになる」としたほか、「2033 年以降、量子を中心としたスーパーコンピュータが登場し、ここに1000量子ビットを組み込み、量子コンピューティングの能力を最大限に発揮できるようになる」としている。
IBMは、量子ロードマップの改訂を繰り返し、ゴールとなる年を伸ばしてきたが、今回は10年先のゴールまで示してみせた。これまでのIBMの量子ロードマップでは、予定通りの進化を遂げてきたことが証明されている。そのIBMが示した10年先の量子コンピュータの未来は、実現可能な世界だといえるだろう。
ここにも、テクノロジーカンパニーであるIBMの底力が感じられる。
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