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業務を変えるkintoneユーザー事例 第147回

神戸市が推進する積極的なデジタル化 「こうべE-mail接種券」の事例

新型コロナワクチンの接種券発行アプリを1週間で作った神戸市のスピード感

2022年08月05日 09時00分更新

文● 大河原克行 編集●MOVIEW 清水

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神戸市では職員がkintoneを自由に使え、自らアプリを開発する文化ができている

 開発は、箱丸氏と山本氏の2人で行なった。箱丸氏は、民間企業のシステム部門に所属していた経験があり、データベースの設計にも携わっていた専門家だ。一方、山本氏も民間企業で勤務していていた経験を持つが、アプリ開発のノウハウは、入庁してから得たスキルの方が幅広いと語る(関連記事:神戸市と市川市がkintone導入の経緯と効果を語る)。

「神戸市では、全庁においてkintoneを利用しやすい環境を整備しており、部門や業務を超えて、kintoneの技術を学ぶことができるKTL(KOBE Tech Leaders)という組織もある。また、現場では、デジタル戦略部からの支援が受けやすい環境も用意されている。こうした環境があるからこそ、安心して開発できるだけでなく、楽しみながら開発することもできた」(山本氏)

 KTLは、kintoneをはじめとしたICTツールの学習や、トレーニングの機会提供をする、庁内コミュニティであり、ICTを業務改善や市民サービス向上に活かすことを目的に、職員一人ひとりのレベルやニーズに応じたセミナーの開催、庁内イントラによるチャットルームでの情報交換などを実施。7つにわけて運営しているチャットルームのひとつに、「KTL kintone」がある。

 一方で、箱丸氏は、対象となる規模が77万5000人と膨大であり、これだけの大量のデータに、kintoneがアクセスできるのかどうかが懸念材料のひとつだったというが、デジタル戦略部のkintone担当者に確認しながら、問題なくアクセスできると判断できたという。

 kintoneを自由に使える環境があり、いつでも聞きに行ける場所が複数用意されていることは、神戸市の職員が、自らアプリを開発する文化の定着には重要な要素になっている。kintoneを活用したアプリ開発が日常的に行なわれており、ワクチン接種対策室でも、つねにに複数のアプリ開発が進行しているという。

 従来はExcelと電話で行なっていた接種会場で働く看護師の管理や、施設に入居している市民をまとめて4回目のワクチン接種の受付ができるような仕組みも開発したところだ。「学んでいると、kintoneには、まだ使い切れていないさまざまな機能があったり、個人情報を守るための最適な機能があることに気がつく。新たなアプリ開発に必要な機能を探していて、新たな機能を発見することもある。こうした繰り返しが、市民サービスに密着したアプリ開発につながる」(箱丸氏)という。

 こうした神戸市の取り組みについて、神戸市企画調整局デジタル戦略部部長の森浩三氏(肩書は取材時点。8月1日付で、企画調整局 医療・新産業本部 医療産業都市部長に異動)は次のように語る。

「デジタル戦略部は、神戸市におけるデジタルリテラシーの向上支援などを行なってきたが、個々の業務をデジタルによって効率化したり、市民サービスを向上したりといったことに取り組むことができる組織体質、人材育成、そして課題認識の仕方が定着してきた。デジタル戦略部が支援しなくても、各部署が自律した形で、当たり前のようにデジタル化に取り組む動きが出てきた」

神戸市企画調整局デジタル戦略部部長 森浩三氏(肩書は取材時点)

 だが、その一方で、「こうした取り組みをさらに加速しなければ、神戸市は立ちいかないと考えている」と厳しい見方もする。

 「神戸市の職員の事務の効率化に留まらず、市民サービスとして付加価値が高いものや、神戸市がここまでしてくれるのかと思ってもらえるものを、もっと創出する必要がある。データやデジタルを活用して、神戸の街づくりを変えたいと思っているが、やっていることは、まだアーリーステージでしかない。これまで以上に、神戸市が、街づくりに対して、どんな姿勢をみせるかが問われている」(森氏)

 森氏は、神戸市が、DXにおいて先進的な自治体ではあるという捉え方に、むしろ危機感を感じている。

「まだ、『その程度の水準』というぐらいの認識であり、もっと前に進まなくてはならないと感じている。社会環境が変化し、市民の生活も変化し、技術が進展し、ニーズが多様化している。そうした環境の変化に、対応しないと滅びるのは企業だけでなく、自治体も同じである。自治体が変わらなくては、市民は時代の変化に取り残される。自治体の職員が、昨日やっていたことを今日もやれば、給料がもらえるという意識ではいけない。同じことをやっていては、自治体がなくなるという危機感が必要である。生活や命を守り、安心して住める街づくりをしなくてはならない。そのためには、神戸市が、自らを否定して、変えていくことが大切である。そこに、神戸市がデジタルに軸足をおく狙いがある」(森氏)

 神戸市が推進している積極的なデジタル化への取り組みは、生産性向上や効率化といったことではなく、市民サービスを変え、神戸市そのものを変えるという大きな狙いのもとに推進されている。

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