アニメで利益を上げるには? キーマン2名が登壇
1月10日、「デジタルハリウッド大学大学院 秋葉原メインキャンパス」で転換期を迎えつつある、アニメビジネスの未来に関して活発な議論が展開された。
これはデジタルハリウッド大学大学院とアスキー・メディアワークスの共催で行なわれたイベント。ASCII.jpの連載「メディア維新を行く」に基づき、Amazonでの品切れ状況が続くなど販売も好調な新書「生き残るメディア、死ぬメディア」の発売を記念した特別セミナー。会場には定員を上回る70名の参加者が訪れ、補助席も用意されるほどの盛況ぶりだった。
講師および進行役は、著者のまつもとあつし氏が自ら担当。ゲストには連載でも取材した、映像制作会社ディレクションズ代表の長江 努氏、グッドスマイルカンパニー代表取締役の安藝貴範氏のお二方が登場。アニメ「イヴの時間」「ブラック★ロックシューター」を事例に、転換期を迎えつつあるアニメビジネスの未来について活発な意見が交わされた。
50年前の鉄腕アトムが原因ではない
セミナーでは冒頭、まつもと氏が取材データを示しながら日本のアニメビジネスを取り巻く現状について解説した。国策としてクール・ジャパンを標榜し、海外でも数万人規模のコンベンションが毎月のように開催される一方で、アニメ作品の売り上げ、作品数はともに減少傾向にあり、その話題性や人気に比して利益は上がっていないと指摘。
そして、その原因を探る上で欠かせないビジネスの考え方として「バリューチェーン/ウィンドウウィングモデル/グッドウィルモデル」および、製作委員会方式についてあらためて解説を行なった(関連記事)。
製作委員会の解説では、“テレビアニメの嚆矢といえる「鉄腕アトム」(1963年)が制作された際、制作費を低廉に受注したことが現在まで続く現場スタッフの低賃金につながっている”という説にも言及。
まつもと氏は、「実際はキャラクターの商品化を積極的に展開することで当時の虫プロは現場スタッフを含めて潤っていた。つまり、鉄腕アトムは毎週のテレビ放映で視聴者の共感と認知を高めた上で、キャラクター商品を販売して利益を出すというビジネスモデルを構築していたのであり、しかもそれは十分に機能していた」と語り、前述の説は必ずしも当てはまらないとする、アニメーション史研究家 津堅信之氏の説を紹介した。
そして現場にお金が落ちてこないという昨今の状況は、50年前の鉄腕アトムが原因ではなく、アニメのビジネスモデルが現実にそぐわなくなっているからだとの見解を示した。
深夜アニメは究極のフリーミアム
まつもと氏曰く、現在主流を成している製作委員会方式のテレビアニメは、無料放映後にDVD・ブルーレイ販売などで回収するという“究極のフリーミアムモデル”だという。
しかし、アニメの主な視聴者層である若者のテレビ視聴量は減少、肝心のビデオグラムも売り上げ・出荷量共に下がっている現状ではフリーミアムモデルも有効に機能しない。もはや“テレビで流せば認知獲得、共感(グッドウィル)を得て資金回収の可能性が見えてくる”時代は終わったと述べてセミナーの前半を終えた。