中国市場に根差した商品開発
中国生活研究センターによる、ひとつの成果がスリム冷蔵庫だ。
同センターでは、300件の家庭を調査。その結果、中国の家庭ではキッチンに冷蔵庫を設置している家庭が56%、リビングやダイニングに設置している家庭が37%に達することが分かった。調査を進めていくと、その背景に、キッチンに冷蔵庫を置けるスペースがないこと、さらに来客に冷蔵庫を見せたいという中国人ならではの意識があることが明らかになった。
「中華料理は油を多く使用する。油汚れの掃除を効率化できるためにキッチンを小さく作るという傾向がある。そのため、キッチンに冷蔵庫を置くスペースが確保できない」(三善所長)
だが、スペースが完全にないわけではない。パナソニックがそれまで投入していた冷蔵庫では最小幅で60cm。これでは調査した家庭の3割に置けなかったが、55cmにすれば、調査したすべての家庭に冷蔵庫が置けることがわかった。そこで、230リットルながら、55cm幅のスリム冷蔵庫を開発。昨年8月に発売したところ、210~230リットルの冷蔵庫の販売実績はなんと10倍に拡大したのだ。
一方、こんな事例もある。
同センターが、調査した結果によると、中国人の多くは、洗濯機を所有しているにも関わらず、手洗いをしているケースが多いことがわかった。これも約300件の調査から導きだしたもので、とくに、「下着」に関しては、86.2%の中国人が、手洗いをしているというのだ。
ヒアリング調査の結果から明らかになったのは、中国人の多くが、「公共の場所は汚れている可能性が高い」という意識を持っていることだった。中国国内で、鳥インフルエンザや肝炎菌、手足口病などへの関心が高まるなか、外から戻ってきたときの外着は汚れているという感覚があり、汚れている外着と、直接肌に触れる下着を一緒に洗うと、菌が移る恐れがあるために、別々に洗いたいという意識が働くのだという。結果として、それが、下着は手洗いという洗濯方法につながっているのだ。
そこでパナソニックは、洗濯しながら衣類を確実に除菌できるデバイスの開発をスタート。ホームアプライアンス社と、上海交通大学が共同で「光Ag除菌技術」を開発。ななめドラム式洗濯機にこれを搭載して発売した。
結果は、2007年9月には、ドラム式洗濯乾燥機で、わずか3%だったパナソニックのシェアが、2008年3月には18%に拡大。光Ag除菌技術を採用したものが出荷数の65%を占めたという。同社製品の平均単価も、2007年9月の5990元から、2008年3月には6170元に上昇している。
このように、中国での調査結果をもとに開発したヒット商品が、中国ではいくつも創出されているのだ。
「2009年4月以降には、欧州にも生活研究センターを開設する。中国同様に、欧州の生活に合致した商品の開発に取り組む」と大月常務取締役は語る。
中国での戦略的拠点の成果は、今後、本腰を入れる欧州市場においても、威力を発揮することになろう。
そして、それは、欧州市場に留まらず、グローバル戦略でも大きな意味を持つことになるのだ。(つづく)
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