技術が使いやすいというのは、技術が見えないということ
パナソニックが目指すブランドバリューは、先進、洗練、信頼である。
とくに、先進的なデジタル技術の搭載が不可欠なAV機器を担当するAVCネットワークス社には、「先進」のブランドバリューを高める役割が求められるのは明らかだ。
だが、坂本専務は次のように語る。
「先進性を実現するといえば、尖った技術を見せることを優先するように聞こえるかもしれない。だが、『ideas for life』のブランドスローガンの観点からは、むしろ、それは逆である。パナソニックが、今後訴えていくべきなのは、尖った超最先端の技術ではなく、ライフスタイルのなかに溶け込むような技術、生活の一部分として自然に活用される技術となる」
CEATECのパナソニックブースでも、同様の観点からの展示を行なった。3~5年後の生活シーンと銘打ち、「ネオ・ビエラリンクの世界」、「空間まるごと 一歩先のくらし」をテーマとし、先端技術の訴求よりも、生活のなかで最新技術がどう利用されていくのかを前面に打ち出したのだ。
「よく見れば先端技術が数多く使われているが、普通にはわからない。そうした洗練された強みを、これからのパナソニックの訴求ポイントにしたい。確かに数年前のAVC社には、技術をギラギラ見せていこうという姿勢があった。だが、個別の商品提案から、つながる商品提案になった時点で、なにができるかを勝負する時代になった。そのためには、先進技術が生活のなかに溶け込み、先端技術の個片がインビジブルになっていかなくてはいけない。生活空間の一部に、ギラギラした技術が見えていたら、気分が悪いだろう(笑)。技術が使いやすいというのは、技術が見えないということ。これは、私の持論でもあり、経営会議でも、社員にも、何度も繰り返し語ってきた」
先端技術が溶け込んだ結果は、例えば、薄型テレビを中心に、パナソニックブランドの数々のAVC商品が深く連携し、さらに白物家電との連携も広がることを指す。そして、その時には、技術提案ではなく、ソリューション提案が前面に出ることになる。
CEATECで見せた壁全体をディスプレイとした「ライフウォール」は、CESの基調講演で見せたものをさらに進化させたものだ。CEATECの展示では、パナソニック電工のセキュリィカメラ技術を活用し、人物の動きを検知するセンサーとソフトを採用した。これも、クロスドメインの開発によるシナジー効果といえる。
坂本専務は、「AVCネットワーク社における商品企画の基本は、いかにつなげることができるかという点。つながらない商品は、やらないぐらいの気持ちで考えている」と語る。
パナソニックは、携帯オーディオプレーヤーであるd-snapのビジネスを、事実上、終焉した。
「これはつながらない商品の代表のひとつだった」(坂本専務)のが要因のひとつ。もちろん、事実上の終焉の決定は、収益性の観点からの判断もあっただろう。
だが、d-snapの開発チームは、つながらない商品をやめる一方で、d-snapで培った技術を生かし、これを、「お風呂テレビ」の名称を掲げたポータブルワンセグテレビ「SV-ME75」として次の事業につなげることに成功した。
「お風呂テレビは、d-snapのオーディオ技術に、5インチの液晶、ワンセグ機能、防水機能などを付加して商品化したもの。まだ具体的なことはいえないが、今後、薄型テレビなどとのリンクを進めていく方向性も見えている」という。
一方で、AVC機器では部屋と部屋をつないだ連動提案の強化、さらには白物家電との連動も期待される。
「部屋から部屋へとつなげる提案はまだたくさん可能性がある。だが、これといって決定的なものがない。一方、白物家電とつなげるという観点では、アプライアンス側に若干の仕掛けが必要。技術的な解決はすでに手を打っている。むしろ、これからは商品企画が鍵になる。卵が冷蔵庫にありますよと、薄型テレビに表示しても、それがなんだという話になっては意味がない(笑)。簡単、便利に利用できるソリューションとして見え、しかも、技術を自己主張させずに溶け込ませる。こうした連動商品の開発を推進していく」
家の中の連携だけに留まらず、家の外との連携によって、家まるごとの提案を、ひとつのブランドで提供できるメーカーは、世界中を見渡しても限られている。パナソニックは、その数少ないメーカーの1社である。
だからこそ、デジタル時代の「あかるいナショナル」を実現するのは、やはりパナソニックしかない、ということになる。
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