プラットフォームとAIに徹底的にフォーカスする1年
2024年の日本における事業戦略について、日本NCRコマースの小原社長は、「プラットフォームとAIに徹底的にフォーカスする1年になる」と位置づける。
その上で、「これまでは、POSやセルフレジなど、新たなハードウェアを提供する企業という捉え方をされていたが、これからの日本NCRコマースは、ハードウェアの前後を含めたカスタマジャーニー全体を、プラットフォームとして提供し、顧客体験の強化や、従業員体験の再構築を支援することになる」と語る。
プラットフォーム戦略では、リテールおよびレストランを対象にした「Voyix Commerce Platform(VCP)」と、デジタルバンキング向けの「Channel Service Platform」が軸になるという。
Voyix Commerce Platform
VCPでは、POSやセルフレジ、決済端末などの様々なフロントエンド機器を接続し、NCR Edgeと呼ばれるサーバー上で仮想化。各種データを統合して管理するとともに、ブラウザアプリケーションや、個別化されたレガシーアプリケーションも統合し、制御することができる。ここでは、サードパーティーとの連携により、17社のアプリケーションが活用できるほか、NCRマーケットプレイスとして、開発者向けサービスを提供。オープンAPIを活用したアプリケーション連携を可能にしている。
日本NCRコマース 執行役員 マーケティング本部長の間宮祥之氏は、「VCPは、レガシートラップからの脱却を促すプラットフォームになる」と位置づける。
レガシートラップとは、店の運用を止めないために、レガシーシステムが捨てられず、古いテクノロジーの維持にIT関連予算の多くが割かれ、結果として、イノベーションへの投資余力がなくなるという状況を指す。日本で指摘されている「2025年の崖」と同様の状態だ。
実際、海外の小売業においては、既存テクノロジーの維持に75%のIT投資予算が割かれており、この状況がさらに拡大すると予測されているという。
「この状況を抜け出さないと革新の機会を逸することになる。日本の小売業も早晩同じような状況に陥る」と指摘する。
そして、「データが細分化し、デジタルプロセスがソフトウェアの機能に制限されたレガシーオペレーティングモデルから脱却する必要がある。VCPを活用することで、プラットフォーム上のAPIによる拡張性を活用し、さらにマイクロサービスも活用できる。VCPによるエクスペリエンスオペレーティングモデルに移行することで、レガシートラップから抜け出すことができる」と自信をみせる。
Channel Service Platform
一方、「Channel Service Platform」では、新たな顧客接点をサポートするリモートアシステドサービスや、AIを活用した次世代コンタクトセンターシステムで構成。他社システムとも連携しながら、統合型CRMを介して、カスタマジャーニーをエンドトゥエンドでカバー。さらに、APIを通じて銀行のバックエンドシステムと連携することができる。今後、Omni Channel Sales Platformの提供も計画しているという。
日本NCRコマースの間宮氏は、「デジタルの加速、店舗のトランスフォーメーションに加えて、顧客体験をつなぐことを提案していくプラットフォームになる。店舗での対面での接点と、セルフサービスやモバイルでの非対面の接点に加えて、その間に位置するリモートアシステドサービスによる顧客接点においても銀行を支援できる」とする。
リモートアシステドサービスでは、テレビ窓口ソリューションである「NCR Interactive Teller Essentials」の導入を推進。カメラと各種デバイスを活用したブースを設置し、遠隔地の窓口業務担当者が、顧客がリアルタイムに接続して対応。現金処理を伴わない、ほぼすべてのテラー取引や相談業務などを行えるという。「営業店に人員を配置することなく、顧客対応が可能になる。日本でも問い合わせが増えている」という。
また、Channel Service Platformを活用するために金融機関向けアドバイザリーサービスを強化。AIの活用や、米国を中心とした100行以上の導入実績をもとにした店舗展開の知見も提供することで、国内金融機関のチャネル戦略の検討を支援するという。
AIの柱はNCR Analytics
もうひとつの柱となるAIでは、リテールおよびレストラン向けに、会話型AIおよび処方型AIを活用したNCR Analyticsを提供する。
アプリを通じて、AI バーチャルエージェントのNCR ai.s.a.pと自然言語で対話しながら、店舗の状況を把握したり、必要なインサイトをリアルタイムで取得。NCR Analytics SMARTでは、対話を通じて、店舗運営などに関するアドバイスを得ることができる。
たとえば、担当店舗の売上げが低い原因を聞くと、全店舗のデータをもとに分析して。「店員を増加させたほうがいい」といったように、具体的なアクションを提案するという。
また、次世代セルフレジ「NCR Voyix Next Generation Self-Checkout Solution」を日本でも提供。画像認識にAIを活用し、消費者がセルフレジでの商品登録をスムーズできたり、自動学習により商品画像登録業務を大幅に削減したり、セルフレジでの不正対策を行えたりする。
日本NCRの小原社長は、「画像認識AI、対話型AI、処方型AIの3つのAIを活用する。店舗の無人化を促進したり、AIとの対話により、まるで優秀なスタッフを抱えているような状況を作り、課題に対する具体的なアクションや解決策を提示したりできる。実証実験を通じて、日本における具体的なユースケースを確立していく」と意気込む。
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