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業務を変えるkintoneユーザー事例 第157回

営業から情シスへ転身した水沢氏がハマった沼とその抜け出し方

kintone開発で3つの沼を抜けた その先に見えた自分の新しい強さ

2022年09月27日 10時30分更新

文● 重森 大 編集●MOVIEW 清水

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巻き込み沼 - 数字を扱う一部の人にしか活用されないkintone

 ふたつめの沼は、巻き込み沼。巻き込まれてしまうのではなく、巻き込みたいけど巻き込めない状況を示している。水沢氏が引き継いだ当時、kintoneは社内の一部の人にしか利用されていなかった。kintoneを利用していたのは、数字を扱う人の中でもごく一部。

「目的の共通理解が足りていないために、活用が広がらないのだと考えました。私が引き継ぐまでに何度も巻き込みに失敗していた人たちを、どうやったら巻き込めるのか。台風を例に考えてみることにしました」(水沢氏)

 kintoneを理解すること、これを台風の目と考えて、できるだけ多くの人を巻き込む方法を考えた水沢氏。導かれた答は、台風を強大にしていくよりも台風を移動させる方が良いのではないかということだった。

kintoneへの理解を台風に例え、台風を移動させることで人々を巻き込もうと考えた

「私はkintoneを通じてほぼすべての業務にタッチしていましたが、会計に使うデータとして正確性が求められるため、意識は入力方法や使い方に偏っていました。もっとも大切な『何のためにkintoneを使うのか』という視点が薄くなっていました」(水沢氏)

 その後、社長と徹底的に話し合い、改めてkintone利用の目的を明確にした水沢氏。その後は利用を広めるために、目的の共有、入力リマインドを徹底し、使い方動画を作成して展開した。なぜ数字が合わないのか、なぜ使われないのか仮説をたて、分析しては改修を行なった。

「これらの取り組みの結果、原因不明なまま数百万円ずれる会計から脱却し、分析ができる近似値の会計ができるようになりました。巻き込んだ各事業からも、kintone活用の相談がくるようになりました」(水沢氏)

 「だれがどこで稼動するのか、ぱっと見てわからない」という通信事業からの相談には、グレープシティのKrewDashboardとカレンダーを組み合わせて応えた。担当者の入力もれや配置ミス、伝達漏れなどで生じていた無駄な時間を、毎月50時間削減できたという。

 kintoneの社内展開を通して水沢氏は、システム導入の各ステップにおいて次のことが重要だと気づいた。

【導入】目的の明確化
【定着】目的の共有と理解、フローに沿ったアプリ構造
【活用】魅せるデータづくり、効果を先に示す

kintone展開の各ステップにおいて重要なポイント

孤独沼 - kintoneについて相談できる人が社内にいない

 kintoneのことを聞いても、わかる人は社内にもういなかった。仲間と一緒に取り組めない、孤独な状況。孤独が、みっつの沼の中で一番辛かったと、水沢氏は語った。

「社内にリソースがなかったので、情報を求めて社外のリソースへ当たりました。頼りにしていたのは、キンコミ(キントーンユーザーコミュニティ)プロジェクト・アスノートkinbozuでした。kintone hive 2021から始めたTwitterでも、kintoneの情報をやりとりしました」(水沢氏)

kintoneを取り巻くコミュニティに参加して仲間を得た

 そこには、イベント会場で出会ったユーザーを含め、多くのkintone仲間がいた。コミュニティで質問をするとあしらわれることもなく、すぐに参考になるコメントが寄せられた。コミュニティで暖かさを感じた水沢氏は「ひとりじゃない」と感じることができ、救われたという。

kintone活用で経営は進化、水沢氏は人生100年時代の新たな活力を得た

 「見えないものを魅せる、寄り添いをカタチに」という水沢氏のkintoneテーマが実現され、みんなと一緒に考え活用するkintoneができあがった。krewDataで各事業を集計し、krewDashboardでMQ会計表を実現した。期間を選択するだけで、経営状況が誰でもわかる仕組みができあがっている。現在の状況もブラックボックス化されておらず、同じく期間を選択するだけで表とグラフで過去の実績を振り返ることができるようになっている。kintoneの導入から6年、水沢氏が引き継いでから1年。やっとkintoneの数字をもとに意志決定が行なわれ、具体的な計画を立て、チームがワークするようになったのだ。

kintoneの数字を元に事業の意志決定や計画策定ができるようになった

 また、声を失った水沢氏はkintone開発を通して、人生100年時代を生き抜くために大事な資産を得たという。「LIFE SHIFT 人生100年時代の人生戦略」の著者であるリンダ・グラットンの言葉を引き、次のように語った。

「これまでは教育、仕事、引退という3つのステージを歩んで来ましたが、これからはステージの移行を数多く経験するマルチステージの時代になります。ここで必要なのは、画一的な生き方にとらわれず、生涯変身する覚悟です。私も、営業から情シスへと越境を果たしました」(水沢氏)

 さらに、同著で100年ライフを過ごすうえで重要とされる見えない3つの資産に照らして、自身が得たものを挙げた。仕事に役立つ知識やスキルである生産性資産においては、営業スキルからITスキルへと転換した。健康、良好な家族・友人関係を示す活力資産においては、テレワークを活用してパートナーと過ごす時間が年間で432時間増え、体重も増えたと語る。さらに、kintoneコミュニティを通じて新しい仲間も得た。一番大きいのは、変化に応じて自分を変えていく力である変身資産だ。これまでの一切が通用しなくなっても大丈夫だとわかったことは、水沢氏の人生を支える大きな力になるに違いない。

「これからは社内にkintoneチームをつくり、事業を越境した魅せるkintoneを作っていこうと思います」(水沢氏)

 そう語って、水沢氏は話を締めくくった。

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