業務を変えるkintoneユーザー事例 第31回
幕張実業のホテル事業部が生々しい業務改善を披露
驚異的な顧客推奨度の向上を実現したホテルのkintone活用方法
2018年06月29日 09時00分更新
2018年6月14日に開催されたkintoneのユーザーイベント「kintone hive tokyo」。5社の事例発表があるなか、今回は2人目の登壇となる幕張実業株式会社 ホテル事業部 金子大樹氏のプレゼンを紹介する。テーマは「kintoneで想いを実現~満足度向上物語~」だ。
コミュニケーション不足とExcel文化からの脱却を求めてkintone導入
幕張実業は、その名の通り幕張にあり、1984年に不動産会社として創業。25年前からはホテル「メイプルイン幕張」を経営している。従業員は41名で、客室は152室と研修室が13室あるような宿泊研修に特化したホテルだ。ホテルの売上が9割とメイン事業となっているが、不動産事業やブログサービスの「makusta」といった情報関連事業も手掛けている。金子氏は同じく幕張にある神田外語大学を卒業して入社して、今年で6年目。同社ではマーケティングを担当している。
「幕張実業は創業から34年経っている会社で、コミュニケーション不足やExcel中心の文化、ベテランだけがノウハウを持っているといった、ありがちな体質が課題でした。そこをなんとか改善したい、という想いがあり、当時の取締役(現在の社長)が2014年にkintoneの導入を決めました」(金子氏)
業務システムにkintoneを採用した理由は、Excelファイルを取り込んだり、ドラッグ&ドロップで簡単にアプリを作成できること。現場の課題や想いを現場の人間が解決したり実現できるところに魅力を感じたそうだ。
サービス業であるホテルは、顧客に満足してリピーターになってもらわなければならない。しかし、同社ではアンケートを積極的に取ることをしておらず、課題となっていた。楽天やじゃらんといった予約サイトに書き込まれる口コミや、ホテルの現場で顧客から褒められたり叱られたりする言葉しか接点がなかったのだ。
「そういった従来から頂いている声は、お客様にとって伝えるハードルが高くなるため、極端な声が多くなります。そのため、広い範囲でお客様の声を聞き、改善していきたいという想いがありました」(金子氏)
そこで、2015年からNPSアンケートを始めた。NPS(ネットプロモータースコア)とは顧客推奨度を数値化する指標のこと。「メイプルイン幕張を知人ににどのくらい勧めたいか?」という質問に対し、0~10点の間で回答してもらうのだ。ここでボーダーとなるのは5~6点ではないのが特徴。中立者を7~8点、推奨者を9~10点、6点以下を批判者と分類する。そして、推奨者から批判者を引いた数値が、NPSスコアとなる。単なる顧客満足度と異なり、ほかの人に推奨するという売上に直結する行動を測定できるので、経営データとして色々なシーンで活用されている。
「オススメ度とその理由を聞くだけと気軽に答えられるアンケートなので、広い範囲の声を聞けるのではと考えました。しかし、われわれは今までアンケートを取ったことがないので、ノウハウがありませんでした。そこで、会議を行ないました」(金子氏)
アンケートの回答を集約し、対面や予約サイトから集められた声もまとめ、改善プロセスを確立し、改善の結果は顧客へ伝えるという4つのポイントを洗い出した。ここにkintoneを活用してうまく回せれば、顧客満足度も向上するのではないかと考えたそうだ。
「結果からご照会すると、kintoneを使った2年間の改善プロセスによって、(予約サイトなどの)口コミが波のホテルといった3.5点から、4.1点まで向上しました。NPSアンケートのスコアも10.6%だったものが、倍の21.2%になりました。kintoneを通じた改善活動で満足度を向上できたのです」(金子氏)
たった2年間なのに、驚異的な伸びだ。NPSスコアは7~8点という高スコアもカウントせず、6点以下をすべて9~10点から引くので、マイナスになることも珍しくない。プラスの時点ですごいことなのだが、それが10.6%から21.2%というのは驚きの数字だ。
kintoneとCS会議で改善をサイクルへ
kintoneの活用法も多岐にわたる。顧客にNPSアンケートを回答してもらったデータは、API連携をして「アンケート集計アプリ」に登録する。予約サイトからの口コミはクロールツールを利用して収集し、CSVファイルに出力して「口コミ集計アプリ」にインポートする。対面で頂いた声は、スタッフがその都度「お客さまの声集計アプリ」に入力する。これで、顧客の声をkintone上に集約することができた。
次に、スタッフでその情報を共有する。その際、各集計アプリから出力したCSVファイルを紙に印刷し、回覧してもらうそう。実際の用紙が表示されたが、小さい文字で大量の情報が1枚にまとめられていた。顧客からの声の左側には正の字を入れるスペースも用意されている。
「紙にする理由は一覧性に優れているうえ、パソコンを持っていないレストランスタッフにも見てほしいという想いがあるからです。(みんなに読んでもらい)回覧する中で何か気になることがあれば、正の字を書き込んでもらいます。会議では、正の字が入ったものを重点的に見るようにしています」(金子氏)
月に1回、CS会議が開催される。いろんな部門から集まったメンバーが参加し、寄せられた声に対し、対応を決めていく。それを記録するのが「ホテル改善ToDoアプリ」で、各集計アプリからルックアップで情報を表示している。さらに、たとえば「珈琲がないので減点しています」という声には、珈琲をアメニティーに入れるとか、湯飲みをマグカップに変更するといった改善点を書き込んでいくのだ。
「CS会議は毎月開催しているので、kintoneの進捗管理でどんどんテーブルに記録を残しています。誰がタスクの責任者なのかも明確になりますし、改善のプロセスを実現したい、という思いも実現できました」(金子氏)
改善を実行できたら、せっかくなので顧客に周知したい。そこでアクションボタンで「ホテル改善アプリ」にデータをコピーして管理している。さらには、ホテルのエントランスを入ったところに掲示板を作り、改善点を貼り出している。
「お客さまの声は、私たちホテルにとっては成長の糧なので、活かさないわけにはいかない、という想いをkintoneで実現できました。kintoneを通じた業務の改善活動が、最終的には業務の効率化や活性化だけでなく、従業員の仕事の取り組み方やお客さまへの接し方の改革にもつながりました。そして、顧客満足度の向上にもつながりました。kintoneは想いを実現できるツールだと感じています」(金子氏)
顧客の声を成長の糧として活用したい、コミュニケーションを活性化させたい、ノウハウを蓄積したい、といった想いをkintoneで実現し、顧客満足度の劇的な向上を達成。そんな「メイプルイン幕張」は今後も愛されるホテルを目指し、kintoneを活用し続けていくとのことだった。
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