今回のことば
「デルおよびEMCともに、日本市場におけるシェアを、海外主要諸国と同じ水準にまで引き上げたい。伸びしろは大きい」(デル・平手智行社長)
日本市場のシェアを海外水準に
デルおよびEMCジャパンは、2017年2月1日からスタートした同社新年度の事業方針を発表した。
そのなかで、デルの平手智行社長は、「デルおよびEMCジャパンともに、日本市場におけるシェアを海外主要諸国と同じ水準に引き上げたい。伸びしろは大きい」と、国内におけるシェア拡大に挑むことを宣言。EMCジャパンの大塚俊彦社長も「国内IT市場におけるシェアを倍増させる。これは、デルおよびEMCジャパンにとって大きく飛躍する目標であり、それに挑戦していくことになる」と意気込む。
欧米やアジアにおけるデルのサーバーのシェアは約20%。だが、日本では11%に留まっている。また、EMCを中心としたストレージのシェアは海外主要国においては35%のシェアを持つが、日本では15%に留まっている。
海外同様のシェアに到達するまでの具体的な期間は示していないが、見込まれるのは約3年。短期間にこの水準にまで高めていくという意欲的な目標だ。
鍵を握る「2×2戦略」
成長戦略として、デルおよびEMCジャパンが掲げたのが、「2×2(ツーバイツー)戦略」だ。
最初の「2」は、デルとEMCの組み合わせによって製品ポートフォリオが倍増することを示す。もともと重複分野が少ない両社の組み合わせは、製品ポートフォリオが2倍に拡大することに示す。
「デルのサーバーの販売を拡大すれば、EMCのストレージやソフトウェアの販売増につながる。ひとつの製品が、別の製品の販売にもプラス影響を及ぼすことになる。両社の製品を一体となって市場に提供していくことができる」(EMCジャパンの大塚社長)というわけだ。
デルがサーバー、ネットワーク、クライアントPC、ワークステーションを担当。EMCジャパンはストレージ、データ保護、POS、RSA、Virtustreamを担当する。コンバージド・インフラストラクチャーは両社で担当することになる。
もうひとつの「2」は、市場カバレッジが倍増するということだ。中堅・中小企業、あるいはコンシューマー市場で実績を持つデルに対して、大手企業などを得意とするEMCジャパンの組み合わせは、カバー範囲を広げることになる。
デルでは、大手法人、官公庁、地域、コンシューマー、チャネルパートナーを担当。EMCジャパンは、業種別大手法人、グローバル企業、アライアンス、OEM事業を担当する。
もちろん、EMCの製品がコンシューマユーザーに販売されるということはないだろうが、大手企業に対してもデルの製品販売を加速したり、中堅・中小企業に対してもEMC製品の提案が行なえる環境が整うことになる。これはパートナー戦略においても同様で、直接販売から間接販売へのシフトを図るデルにとっても追い風だ。パートナーのなかには、取り扱い品目が1.5倍から2倍になっている例もあるという。
すでに、パートナー支援組織やパートナー制度を統合。窓口を一本化しており、この1年で、人員が5倍に増加したデルのパートナー事業部門もこのなかに組み込まれている。
「デルとEMCジャパンが持つ広範なソリューションを、より価値がある形で顧客に提供することができる。国内において、顧客のデジタルトラスフォーメーションを推進し、シェア倍増を目指す」(EMCジャパンの大塚社長)とする。
5本の矢でシェア拡大目指す
両社は、シェア倍増に向けて「5本の矢」を打っていくという。
5本の矢として、両社が掲げたのが、業界一幅広いエンド・トゥ・エンドの製品、サービスポートフォリオを持ち、機能統合による一貫したオペレーションを推進することができる「デル/EMCのパートナーシップによるワンカンパニー」、デジタルトランスフォーメーションを実現するコンサルティングアプローチや、ハイタッチ営業の大幅強化による「顧客に信頼されるテクノロジーパートナー」、地域ごとのパートナーシップ強化やサービス/サポートの拡充による付加価値提供を行う「SI/リセラーとのパートナーシップによる全国カバレッジ強化」、日本初と日本発を実現するコ・イノベーションや、IoTや組み込みソリューション、HEMSなどを通じて、産業別の取り組みを推進する「ITの戦略的活用を推進する企業とのパートナーシップ」、セキュアハイブリッドクラウドソリューションの提供を目指す「通信キャリア・クラウドプロバイダーとの戦略的パートナーシップ」だ。いずれも「パートナー」が鍵になる。
すでに米国では、2016年9月8日にデルテクノロジーズが発足。デルとEMCの事業が統合されているが、日本ではそれぞれに法人格を残しながらも、2月1日付けで機能統合を完了。「日本でも、実質的にはワンカンパニーで推進する体制が整っている」(デルの平手社長)とする。
「基本姿勢は、米国以外の法人格は存続し、時間をかけて統合していくことになる。各国の状況や顧客ニーズの違いを勘案したものであり、顧客に対する価値提供の継続性を第一に、機能統合を優先している」と語り、「法人格は別でも、いずれもマイケル・デルの会社であることに変わりはなく、ビジョンや考え方はすべてひとつ」と、ワンカンパニーであることを強調する。
名刺の基本デザインやメールアドレス、決算日はデルに統合。一方で給料日はEMCジャパンのサイクルを採用するなど、一方的な統合方法ではないようだ。
当初は「昼のデル」、「夜のEMC」と表されたように、デルの社員は裏面が青、EMCジャパンの社員は裏が黒となっていたが、今後はこれも見直しが行われ、より一体化したものになりそうだ。
そして、日本法人の統合時期は未定だが「すでに関連する部門同士の統合を開始しており、オフィスそのものも統合する方向にしていきたい」(デルの平手社長)というように、日本法人統合よりもオフィスの統合が先行しそうだ。
この2月から始まったデルおよびEMCジャパンによる新たな事業年度は、シェア倍増に向けたスタートの1年となり、あわせて様々な面でさらなる統合作業が進む1年となりそうだ。2社が挑むハードルは高い。
この連載の記事
-
第591回
ビジネス
シャープが堺のディスプレーパネル生産を停止、2期連続の赤字受け -
第590回
ビジネス
生成AIに3000億円投資の日立、成長機会なのか? -
第589回
ビジネス
三菱電機が標ぼうする「サステナビリティ経営」、トレードオフからトレードオンへ -
第588回
ビジネス
富士通の子会社でDX専門のコンサルティングをするRidgelinez -
第587回
ビジネス
メーカー自身が認定し、工場検査後に販売するパナソニックの中古家電 -
第586回
ビジネス
マイクロソフト、日本への4400億円のAI/データセンター投資の実際 -
第585回
ビジネス
日本市場の重要性を改めて認識する米国企業、変革期にある製造業がカギ -
第584回
ビジネス
NTT版の大規模言語モデル(LLM)、tsuzumiの商用化スタート、勝算は? -
第583回
ビジネス
エコ投資に取り組むエプソン、見方によっては10年で1兆円の投資も -
第582回
ビジネス
パナソニックコネクトの現在地点、柱に据えるBlue Yonder、ロボットとは? -
第581回
ビジネス
スタートして半年の日本NCRコマース、軸はAIとプラットフォームの2つ - この連載の一覧へ