今回のことば
「今後、全社員の名刺を、PaperLabで作った再生紙を使用したものへと変更していく」(セイコーエプソン・碓井稔社長)
セイコーエプソンは、オフィス製紙機「PaperLab(ペーパーラボ)A-8000」を製品化。2016年12月から発売する。
同製品は、2011年から開発を開始。2015年12月に試作機を発表。それから1年で製品化にこぎつけた。昨年発表した試作モデルに比べて、電源部分を独立させることでメンテナンス性を向上させるといった改良を加えている。価格はオープンプライスだが、2000万円台前半になる見込みだ。
紙の未来を変える製品
PaperLabは、世界で初めて、使用済みの紙を原料として、オフィス内で新たな紙を生産できる製紙機だ。
エプソン独自の新開発技術「ドライファイバーテクノロジー」により、使用済みの紙を細長い繊維に変え、文書情報を一瞬で完全に抹消。一般的な製紙方法で必要とされている大量の水を使わないため、給排水工事は不要であり、オフィスのバックヤードなどに設置することができる。繊維化された使用済みの紙は、結合素材である「ペーパープラス」を使用することで結合。白色度の向上や色付けなどもできる。
これらの実現には、エプソンが持つ「省・小・精」の技術や、プリンターで培った材料技術やメディア技術が生かされている。
結合した繊維を加圧することで、新たな紙を作り上げるが、加圧時に密度や厚み、形状をコントロールすることで、A4やA3サイズの紙のほか、名刺向けの厚紙なども生産できる。
A4の無着色の紙であれば約0.45円で再生可能であり、市場紙購入では、0.5~0.7円かかるのに比べてもコストが低い。色紙や厚紙用紙、名刺用紙も同様にPaperLabで再生した方が安くて済む。
「紙の普遍的な価値はコミュニケーションのシンプルさにある。見やすく、理解しやすく、記憶に残りやすい。そして、持ち運びや書き込みがしやすい。エプソンはプリンターメーカーとしての責務から、便利な紙を安心して使ってもらうためにPaperLabを開発した。紙の未来を変えることができる製品」と、セイコーエプソンの碓井稔社長は語る。
シュレッダーよりも高いセキュリティー
すでにセイコーエプソンの碓井稔社長をはじめとする同社役員の名刺は、PaperLabで作られた再生紙を使ったものに変更しており、「今後、全社員の名刺をPaperLabで作った再生紙を使用したものへと変更していく」という。
東京・新宿のミライナタワーにあるセイコーエプソンの新宿ミライナオフィス内に、PaperLab A-8000を設置。デモストレーションができるようにしているほか、ここで再生した紙を、同社社員の名刺などに使用する予定だ。
ちなみにPaperLab A-8000は使用済みの紙を投入してから、約3分で1枚目の新たな紙を生産。A4用紙であれば、1時間あたり約720枚を生産できるという。
「繊維化、結合、成形といった各工程において、エプソン独自の技術を採用している。機密文書などの使用済みの紙を、自社内で細長い繊維に分解し、情報を完全に抹消するため、シュレッダーには実現できない水準で情報漏えいを防ぐことができる。さらに新しい紙の調達や、使用済みの紙の処理にともなう輸送を減らすことで、CO2の削減に貢献できる」としている。
環境配慮という点では、エプソンが強力に推進しているオフィス向けインクジェットプリンターも同様だとする。
この連載の記事
-
第591回
ビジネス
シャープが堺のディスプレーパネル生産を停止、2期連続の赤字受け -
第590回
ビジネス
生成AIに3000億円投資の日立、成長機会なのか? -
第589回
ビジネス
三菱電機が標ぼうする「サステナビリティ経営」、トレードオフからトレードオンへ -
第588回
ビジネス
富士通の子会社でDX専門のコンサルティングをするRidgelinez -
第587回
ビジネス
メーカー自身が認定し、工場検査後に販売するパナソニックの中古家電 -
第586回
ビジネス
マイクロソフト、日本への4400億円のAI/データセンター投資の実際 -
第585回
ビジネス
日本市場の重要性を改めて認識する米国企業、変革期にある製造業がカギ -
第584回
ビジネス
NTT版の大規模言語モデル(LLM)、tsuzumiの商用化スタート、勝算は? -
第583回
ビジネス
エコ投資に取り組むエプソン、見方によっては10年で1兆円の投資も -
第582回
ビジネス
パナソニックコネクトの現在地点、柱に据えるBlue Yonder、ロボットとは? -
第581回
ビジネス
スタートして半年の日本NCRコマース、軸はAIとプラットフォームの2つ - この連載の一覧へ