2013年末の出荷予定が
怪しくなってきたKaveri
さて、ここからは今後の話だ。読者の中にも「Kaveri」、それと「Steamroller」の行方について色々気になっている方もおられよう。その話に入る前に、まず連載180回の記述に関して訂正が1つある。
SteamrollerはGLOBALFOUNDRIESでの製造だが、KaveriはTSMCの28nmに切り替えたという話をした。実はこれが間違いで、なんとKaveriもオリジナルプランであるGLOBALFOUNDRIESの28nmプロセスでの製造のままだったのだ。
TSMCへの切り替えを検討(少なくとも工程と性能の見積もり)を行なったのは事実らしいが、結局TSMCへのスイッチは見送られたそうだ。その理由も今ではわかる。PS4とXbox OneがTSMCの28nmを使って製造するから(Xbox Oneは当初はTSMCの40nmを使うが、後追いで28nmに移行する模様)で、製造キャパシティーと物理設計の両面からギリギリだったということだろう。
Kaveriの製造をGLOBALFOUNDRIESからTSMCに振り替えると、物理設計の大幅な手戻りが発生するが、これを吸収できるだけの設計能力を、AMDは持ち合わせていなかったようだ。
以上を念頭に置いた上で情報をアップデートしよう。6月5日にCOMPUTEXで開催されたRichlandの発表会の会場で、AMDのLisa Sue氏がついにKaveriの動作デモを行った(関連記事)。
もっとも現状はまだエンジニアリングサンプルになる以前の、動作検証用のダイのレベルなので、そもそも全機能が利用可能かどうかも不明だ。そのうえ動作周波数ももちろん未公開で、定格レベルに達しているのかも怪しい。それはともかくとして動作するサンプルが登場したことの意味は大きい。プロセスは明確には説明されていないが、GLOBALFOUNDRIESの28nm Bulkであることだけは確認されている。
ではそのGLOBALFOUNDRIESの28nmプロセスはというと、実は今年に入ってやっとチップの出荷が始まっている。まずは一山超えたというところだ。ただ、これで喜ぶのはまだ早い。GLOBALFOUNDRIESは28nm世代で3種類のプロセスを用意している。
まずは省電力性に特化した28nm-SLP(Super Low Power)で、動作周波数的には1~1.5GHz程度が上限となる。次が、この28nm-SLPをもう少し高速に振ったもので、若干リーク電流が増えるものの2GHzオーバーくらいまでの製品を製造できる28nm-LPH(Low Power, High Performance)。最後は、動作周波数が一番高い28nm-HPP(High Performance Plus)である。
この3つのプロセスのうち、すでに量産製品が出てきているのは28nm-SLPのみ。LPHに関してもまもなく最初の量産品が出てくるという話であった。ただ上の画像にも“Extension of 28nm-SLP”(28nm-SLPプロセスの拡張版)と記述がある通り、この2つは基本的には同じものである。
問題は28nm-HPPで、これはSLP/LPHとは異なるトランジスター構成をとるものであり、そしてこのHPPに関してはいまだ量産をまともに開始できる時期が明確になっていない。
ここまで書けばおわかりの通り、AMDのPiledriver/Kaveriは、この28nm-HPPを前提に設計しているので、出荷時期がずるずると後ろに下がってきたわけだ。それでも今回、一応動作するものが出てきたことで、28nm-HPPについても目処が立ったのかもしれない。しかし、すでに6月であるから、これからES品を製造して動作検証を行ない、これを元に量産品を製造するために、最低でも2回は新規にラインに流すことを考えると、年末までに出荷できるかかなり怪しい。
上図ではKaveriの出荷時期を2013年末としたが、現実問題としては2014年という方が確実に思える。またKaveriはともかくSteamrollerの方はさっぱり情報が聞こえてこないのも謎である。
とはいえ、この28nm-HPPに使わる技術は20nm世代にも応用されるし、TSMCが28nmプロセスで記録的な売り上げを立てている現状を鑑みれば、キャッチアップを早急に行なわないとTSMCに独走されてしまうので、開発を急ピッチで進めているようだ。
したがって、Steamrollerもひょっとすると比較的早く投入できるかもしれないが、逆に全エンジニアリングリソースをKaveriに振り向けた結果としてOpteronやFX向けのSteamrollerが中断状態に陥っている可能性も皆無ではないわけで、結果として現状では「不明」である。
「AMD FX」シリーズの
新製品をE3で発表する?
もっともいつまでも不明のままAMDの方も放置はしておけないと思ったのだろう。Joe Macri氏(Corporate VP & Product CTO of AMD Global Business Unit)は5月に開催されたAMD Tech Dayのインタビューの中で、「AMD FX」シリーズの新しい製品について、「6月11日からロサンゼルスで開催されるE3のタイミングで発表する」と説明した。
果たしてそれが「AMD FX-8350」の上位にあたる製品なのか、それともオーバークロック向けの限定品なのか、あるいは4/6コアグレードなのかは現状まったく不明であるが、これはAMDの発表を待ちたいところだ。
この連載の記事
-
第775回
PC
安定した転送速度を確保できたSCSI 消え去ったI/F史 -
第774回
PC
日本の半導体メーカーが開発協力に名乗りを上げた次世代Esperanto ET-SoC AIプロセッサーの昨今 -
第773回
PC
Sound Blasterが普及に大きく貢献したGame Port 消え去ったI/F史 -
第772回
PC
スーパーコンピューターの系譜 本格稼働で大きく性能を伸ばしたAuroraだが世界一には届かなかった -
第771回
PC
277もの特許を使用して標準化した高速シリアルバスIEEE 1394 消え去ったI/F史 -
第770回
PC
キーボードとマウスをつなぐDINおよびPS/2コネクター 消え去ったI/F史 -
第769回
PC
HDDのコントローラーとI/Fを一体化して爆発的に普及したIDE 消え去ったI/F史 -
第768回
PC
AIアクセラレーター「Gaudi 3」の性能は前世代の2~4倍 インテル CPUロードマップ -
第767回
PC
Lunar LakeはWindows 12の要件である40TOPSを超えるNPU性能 インテル CPUロードマップ -
第766回
デジタル
Instinct MI300のI/OダイはXCDとCCDのどちらにも搭載できる驚きの構造 AMD GPUロードマップ -
第765回
PC
GB200 Grace Blackwell SuperchipのTDPは1200W NVIDIA GPUロードマップ - この連載の一覧へ