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Windows 8アプリ開発者・ドルフィンシステム福島幹雄氏インタビュー

Windowsストアで勝つには――ドルフィンシステム福島氏

2012年11月01日 11時00分更新

文● ASCII.jp編集部 写真●曽根田元

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なぜアプリで電子書籍を作ったのか?
「世界と勝負するには技術やアイデアではなく、コンテンツだから」

―― Windows 8ストアアプリを開発にあたって、新たな勉強は必要になりましたか。

福島 「いいえ、ほとんどないですね。ドキュメントを読めばわかる、そんなレベルです」

―― そしてそのドキュメントも日本語で書かれていると。

福島 「もちろんそうです。あと、今年のWDD(Windows Developer Days)でセミナーを1、2日受けて、それでほとんどわかりましたね。あとはオンラインでマイクロソフトさんが提供するものだけでほとんど足りました」

―― そして最初に作られたアプリが電子書籍。

福島 「この電子書籍に関わっている人たちは皆、マイクロソフトのMVP(Most Valuable Professional)という、日本に200名ぐらいいる民間エバンジェリストなんです。確か、社外の技術別に過去1年間の活動によって与えられる称号ですね。そのMVPが集まって『新しいユーザーインターフェースで何か作ろうよ』ということで開発したものです。プロジェクトマネージャーは、Microsoft ProjectのMVP(Microsoft MVP for Project)ですね」

―― それはすごい! 中身は……DTPで組んだものを画像として表示しているのでしょうか。

福島 そうです。ご覧になればわかると思うのですが、組版は普通の本と同じです。いわゆる電子書籍アプリは、EPUB3など専用フォーマットに基づいたビューアですが、これはアプリ専用に組版した画像です」

―― そういった一騎当千の方々が集まって作ったアプリが電子書籍だったということには、何か意味があるのでしょうか。

福島 「これはWindows ストアとも関わってくる話です。今どき電子書籍作るなら、EPUB3あたりで出すものだろうと思いますよね?」

―― そうですね。

福島 「なぜ画像で、かつ組版を強調しているのか。Windows ストアってグローバルなマーケットですよね。ここで、日本人として何ができるのかと考えた場合、利益を上げるのは大変なんです。

 というのは、技術勝負だと勝てないんですよ。なぜ勝てないかといえば、日本人の私が100円のアプリを1万本売っても100万円にしかならない。1年も食べていけません。

 でもこれが物価の安い新興国の開発者なら食べていける。だから技術力勝負だとやっていけないんです。“プログラミングできますよ”レベルで同じようなアイデアを持つ人間が2名いたら、人件費の安いほうが勝つわけです。だから我々はWindows ストアを、技術だけで戦えるマーケットだと思っていません」

―― 人件費で考えると、日本は最も苦戦する国の1つですね。

「今後は日本人であることを活かした戦い方が求められると思います」

福島 「同じ技術レベルだったら単価の安いほうが有利です。ではこれからどうすればいいのか。

 日本人として戦うことの強みって、“日本人であること”しかないじゃないですか。ならば、日本人ならではのコンテンツというものが必要だと。だから技術力勝負でこのアプリを作ったわけではなく、日本のもの・文化をどう売っていくか、というところが今回の裏の目的なんです。

 そのなかでやり方は数多くあると思います。漫画も選択肢の1つです。とりあえず今回集まったメンバーに、ちょうどWindows 8の本を書いている著者、編集プロダクションの人もいて組版ができると。その方が言うには、海外の組版はいい加減だと。ただ単に文章流して画像を入れて、線引いたりするだけ。日本のように注目箇所を赤く囲んだりとか、項目をきれいに合わせたりしないと。

 確かにね、海外の本は結構いい加減なものが少なくない。たまに読みますけど、暖かみはまったくない。だから本にもメイドインジャパンというか、ジャパンクオリティーがあるんです。となると、組版はやはり日本の強みだよね、と」

―― なるほど。

福島 「このアプリは誰でも作れます。それこそ国を問わず。しかし、この(美しい)組版は日本人しかできない。つまり、コンテンツが日本のものじゃないと売れないというのが、たぶんWindows ストアだと思うんですよ。

 開発者視点だと現在は大きな転換期なんです。まず技術力勝負で勝てる時代ではなくなっている。開発環境は揃っているし、クラウドもあるし、簡単に使えるAPIも整ってきましたが、開発者からすると活躍の場は減っているんです」

―― 減っていますか。

福島 「たとえば、こういう言い方するとあれなんですけど、マイクロソフトさんがどんどん仕事をしてWordが世界中に広がったら、他のワープロソフトが売れなくなりましたよね。世の中の進展と共に広がった結果、PC市場のプレイヤーは世界に3社しかない。マイクロソフトとグーグルとアップルです。

 昔はもっといっぱいありましたよね。でも淘汰されている。だからプログラマーも有能な人間が100人ぐらいいたら、世界はもうそれでいいかもしれない」

―― 100人のプログラマーで世界のITは動く、みたいな。

福島 「極端かもしれませんが、そういう世界だと思うんですよね。そのなかでどう戦うかといえば、コンテンツを持っている・コンテンツを生み出せる、というところが重要なのであって、アイデアは一般に考えられているほど重要じゃないと思います」

―― アイデアもですか。

福島 「というのは、世界のどこかで似たようなアイデアを考えている人はいるんですよ」

―― 同じアイデアを持った人が、それこそ国の数だけいてもおかしくない。そしてWindows ストアでグローバルに売る限り、人件費の安い国から勝ち抜けていく。となると日本人は不利ですね。

福島 「そういう世界になるだろうなという思いがあったので、今回のプロジェクトに私は参加したんです。日本のコンテンツというルートがあれば、味付けで勝負できますから。

 転換期なのでこれからどうなるかまったくわかりませんが、(開発者としては)期待と不安を併せ持つOSがWindows 8だと私は見ています」

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