Elbrus E2K
最後は、かなりマイナーなElbrus社の「E2K」について語ろう。「x86命令をVILW命令に動的に変換して実行することで、より高速かつ低消費電力が実現できる」というのは、トランスメタの「Crusoe」やその後継である「Efficeon」の特徴であるが、この元になったのがロシアのElbrusというメーカーのE2K(Elbrus-2000)である。
0.18μmプロセスで試作した場合、E2Kは1.2GHzで動作し、SPECint95で「135」、SPECfp95で「350」という性能を発揮。ダイサイズは126mm2で、消費電力は約35Wと予想されていた。しかもこのE2K、x86とIA-64命令をサポートするという、いくらなんでも無理だろうというスペックだった。実際にこれはあり得ないほど楽天的な予測で、とてもこんな性能では動かなかった。
1999年の時点でRTL※1が完成という話であったが、なんと実際にチップが製造されたのは2005年のこと。TSMCの0.13μmプロセスで製造されたE2Kは300MHz動作が精一杯。ピーク性能も32bitで「9.5GIPS」(SPECintなどの数字は不明)どまりだった。
※1 Register Transfer Levelの略で、デジタル回路記述の手法のひとつ。回路そのものを論理的に記述するために使用する。
とはいえ、このE2Kの構成はかなりお化けで、512bitの命令長で同時に最大23命令を発行可能だった。またトランスメタのCMS(Code Morphing Software)と同じく、動的にx86命令をVLIW命令に変換して処理する機能を持っていた。
このE2Kの開発を指揮したのはBoris A. Babaian氏であるが、実はトランスメタの創業者であるDavid Ditzel氏は1992年~1995年にBabaian氏と共同作業をしていた。またその後も、Elbrusの協力企業としてトランスメタの名前が挙がっていたこともある。その意味では、CrusoeやEfficeonの原型になったのが、このE2Kといってもいいだろう。
E2Kはアイデアはともかく、チップの製造でずいぶん苦しむことになり、結局十分な性能の製品を世に出せなかったのが痛かった。最終的にE2Kは、商用向けの量産をすることなく終わる。Babaian氏はその後、2004年にインテルに入社。現在はインテルのフェロー(特別研究員)の一員として、ソフトウェアおよびサービスグループのアーキテクチャー担当ディレクターという役職についている。かつてのパートナーだったDitzel氏も、今ではやはりインテルの副社長として、ハイブリッド・パラレルコンピューティング担当チーフアーキテクトを務めているあたりに、ちょっとした皮肉を感じる。
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