CPU黒歴史今回のお題はCyrixの「Gobi」である。あるいは(初代)「VIA C3」と言うべきかもしれない。これもまた、歴史の狭間で捨てられてしまったCPUである(関連記事)。
資金難からNSに買われるも
CPU性能競争から脱落
元々Cyrixという会社は、互換FPUメーカーとして1988年に設立された。最初は80387互換、ついで80287互換のFPUを出していたが、386互換の「Cx486SLC」「Cx486DLC」でx86互換CPUメーカーに仲間入りする。以後の快進撃は連載65回でも説明しているので、そちらをご覧いただきたい。
Cyrixの快進撃は、「6x86」(M1)と「6x86MX」(M2)世代で打ち止めになってしまう。その理由は大きく2つ。資金的な問題とエンジニアリング的な問題であった。
もともとCyrixは独立企業であったものの、ベンチャー企業にありがちな資金不足の問題は、同社にとって常に課題であった。その結果として1997年に、CyrixはNational Semiconductor(NS)に買収される。これはCyrixにとって資金的な問題を解決することになるかと思いきや、逆に問題の種が増えることになった。NSはこの当時から、アナログ半導体を主とする半導体メーカーだったからだ。
当時NSはなにを考えてCyrixを買収したのか? 今となっては正確な真意を確認することはできないが、当時のアナウンスとしては「NSのアナログビジネスとうまくコラボレーションすることで、より売上を伸ばす機会がある」という説明だった。実際に、その後5x86コアをベースに製造した「Geode」は、セットトップボックスなどの情報家電向けや、低価格のデジタル組み込み機器に利用された。そうした分野では同時にNSのアナログ半導体が使われることも多かったから、目論見は間違ってはいなかったと言えるだろう。
だがこれは、Cyrixにとっては必ずしも幸運とは言えなかった。Cyrixが望むハイエンドCPU向けの開発に、NSはおよび腰だったからだ。結果として1998年に入ってからは、Cyrixは激化するAMDとインテルのCPU性能競争から、脱落し始めることになる。NS側にはCyrixにさらなる資金を投入して、再び性能競争に参入させようという意図はなかったようだ。
性能を改善できずM2は低価格品に
売り上げ低迷でVIAに売却
もうひとつがエンジニアリングの問題である。Cyrixはそもそもx86のライセンスを持っていなかったから、「インテルとクロスライセンス契約を交わしており、x86プロセッサーの製造に法的な問題がない企業に、製造を委託する」という形でライセンス問題をクリアしていた。製造はIBMやテキサス・インスツルメンツ(TI)、SGS Thomson(現STMicroelectronics)などのファウンダリ(製造事業者)に委託して、これをCyrixが販売するという手法だ。
ところが、その製造委託費用を出すことさえ難しいため、「製造したCPUを自社ブランドで販売する権利を与える代わりに、CPUを安く作ってもらう」という荒業で乗り切った。これがIBMやTI、SGS Thomsonのブランドでx86互換CPUが販売された理由である。
NSはインテルとクロスライセンスを結んでいたので、x86互換CPUの製造にはなんの問題もなかった。そこでNSに買収された後、CyrixはNSの製造設備を使って製造した。ところがNSの製造設備は、同時期の他のファウンダリと比べて特に優れていたというわけでもなかった。結局、NSで製造したM1/M2は消費電力が多く、それほど動作周波数を上げられなかった。
根本的な問題として、M1/M2のパイプライン構造は性能のわりに、消費電力が多い傾向にあった。これをなんとかしない限り、根本的な解決は難しい。ところがパイプラインに手を入れるのは、どうしても時間がかかる。そのため当時は、とりあえずプロセス側で工夫をして、消費電力を下げたり動作周波数を上げるなどで時間を稼ぎ、その間にパイプライン構造を工夫する方が一般的だった。
ところがプロセスそのものが、SGS Thomson/NSのどちらも、それほど性能改善の余地がなかった。IBMは相対的にやや低消費電力だったと記憶しているが、せいぜい「やや」程度の話で、大きく変わらなかった。M2が出た1998年当時は、各社が0.25μm(250nm)プロセスを実用化し始めたばかりの時期。継続的にプロセスを改善していけば、もう少し消費電力削減も可能だったのかもしれないが、その体力がCyrixにはなかった。
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