同一周波数で消費電力18%削減! 進化した「Intel 18A-P」はどこが変わったのか?

文●大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

2026年06月22日 12時00分

 前回まででISSCC 2026も一段落したところで、今回からはホノルルで6/14~18に開催された2026 VLSI シンポジウムの発表に切り替えよう。

 TSMCのA16やインテルのIntel 18A-Pなどいろいろ最新プロセスの発表もあったし、それ以外にも取り上げるべき話題は多い。初回は、Intel 18A-Pの詳細を公開した"Intel 18A-P CMOS Technology Enhancement Featuring Advanced RibbonFET (GAA) Transistors and PowerVia for High-Performance Computing"の内容を解説していく。

Intel 18Aの性能改良版「Intel 18A-P」は
密度は維持しつつ性能/電力を改善

 このIntel 18A-P、インテル自身がプレスリリースの中でその一端を示している。Intel 18A-Pは以前からロードマップに示されていた、Intel 18Aの性能改良版である。

この後、Intel 18AにTSVを追加し、Base DieとのFoveros Directとの接続を可能にする18A-PTが追加される予定だ

 昨年における発表では、Intel 18A-Pはロジック密度こそIntel 18Aと変わらないものの、性能/消費電力比を8%前後改善するとしていた。今回の発表によればIntel 18Aと比べて以下が実現する、とされている。

  • 同一消費電力で9%程度の動作周波数向上
  • 同一周波数で18%程度の消費電力削減

180nmと160nmの両方のセル高でパフォーマンスの向上が可能になった、という。Intel 18Aの設計との後方互換性があるとのことが、続く説明を読む限り、Intel 18A-Pのメリットを出そうとしたら再設計は必須に見えるのだが……

 なお、2025 VLSI SymposiumにおけるIntel 18Aの発表は連載831回で説明している。

 では、なにを変更した結果として、この9%の動作周波数向上が実現したのか? という一覧が下の画像だ。

9%の動作周波数向上のために実行したこと。一番すさまじいのは熱抵抗を半減だが、V0~V2(BSPDNの配線)の抵抗削減も効果はありそう。M2~M4も若干の改善があるようだ

 CPPは50nmのままだしLibrary Heightも180nmないし160nmのままなので、確かにロジック密度は変わらず、物理的な縮小はできない。ただW1/W3のトランジスタに関しては変更が加わったようで、新しくW1.5が追加になったほか、W3がW3P(Performance)向けになっている。

 また180nmは本来だとW2/W3の2種類のトランジスタ構造だったのが、新たにW1も追加されている。あとトランジスタ駆動電圧(VT)も、従来の4種類から5種類になった。また配線層もいろいろ工夫しているようで、Skew corners(端的に言えば性能のバラつき)を33%削減し、V0~V2の配線抵抗を削減。さらに熱抵抗を半減させたとしている。

5種類のVtと新ライブラリの追加で、より緻密な動作最適化を実現

 まずVtについて。Intel 18AではULVT/LVT/SVT/HVTの4種類だったのが、Intel 18A-PではLVTとULVTの間にULVTLLという新しい電圧を追加している。

要するに省電力モードに入った際の動作電圧の選択肢をもう一つ増やし「ULVTに落とせるほどではないが、LVTではやや電圧過剰」な状態の選択肢を提供した格好だ

 Cell Libraryの概観が下の画像である。ちなみにIntel 18Aは連載831回で示した画像を参照してもらいたい。

Cell Libraryの概観。W3PのDual Contactは後述する

 Intel 18Aでは180nm(180H)が2種類、160nm(160H)が3種類だったのが、今回から4種類/5種類に増えている。要はより細かく動作状態に対応できるようにライブラリーの種類を増やしたわけだが、先も少し書いたようにこれだけ細かくライブラリーがわかれたうえ、ULVTLLを追加となると、どう考えても物理設計をやり直さないとIntel 18A-Pのメリットを生かすのは難しいように思える。

 もちろんメリットはなくてもいい(Intel 18Aと変わらない性能でも構わない)という話であれば、Intel 18Aの設計をそのまま使うことはできそうだが。その新しく追加されたライブラリーにおける性能特性が下の画像だ。

新しく追加されたライブラリーが持つ性能特性。おそらく180Hでの結果だろう。縦軸が消費電力ではなく静電容量であることに注意

 W2/W3でも若干の性能改善が施されているが、これに加えてW3Pでは大幅に性能が引き上げられている。ただこれをそのまま使うと消費電力が増えてしまうことになる。ここにW1を追加することで、全体としては動作周波数を抑えながら平均で9%程度の動作周波数改善が可能になった、という理解でいいはずだ。

 下の画像がFront End、つまりトランジスタ層の特性をまとめたもので、同じリークなら動作周波数が12%向上していることを示している。おもしろいのが右のグラフで、Intel 18A-Pはそのままでは性能向上は6%程度に過ぎないが、Direct BS Contactを併用することでさらに6%の向上につながるとしていることだ。

トランジスタ層の特性。実際には配線層も速度向上のボトルネックになり得るので、ここで最大12%向上したからといって実際にCPUが12%高速に動作するわけではない

 そのトランジスタそのものの性能改善が下の画像で、NMOSで5%、PMOSで16%程度の駆動電流増加を実現したとしている。結果としてCMOS全体で言えば6%ほどの性能改善につながったわけだ。

トランジスタそのものの性能改善。縦軸はどちらも対数スケールのはずである。OffとOnの電流比を比較したものだ

 性能改善をどう実現したかの詳細そのものは当然未公開だが、ヒントとして示されたのが下の画像。PMOS側のRibbonFETにおける歪シリコンの作り方を改良したという説明だ。

右側のグラフは、回折させたNano beamを使っての測定結果とのこと

 確かにこちらを831回で示したIntel 18Aの断面図と比べると、少し形状が違い、より整った形状になっているのがわかる。

裏面接続の進化と熱抵抗20%削減
Nova Lakeへの採用も明言

 次がDirect BS(Back Side) Contactの話である。Intel 18Aではゲート部へは右の写真で言えば上端(Front Side Contact)のみで接続されていたが、Intel 18A-Pでは下端(Direct Back Side Contact)での接続も追加された。

Direct BS Contactの概要。右端の写真は連載806回で示したRibbon FETの図で言うところの黄色い矢印方向からの断面写真、その左は赤い矢印方向からの断面写真となる。Front Side ContactはPowerVIAを経由して下端(つまりトランジスタの下側)にある電源ラインに接続されているが、これに加えてBacksideからも直接ゲートに接続できるようにした

 Direct BS Contactの効果を示したのが下の画像である。これまではFront Side側のみを経由して電流が流れていたが、今度はFront/Backの両方から流れるようになるので、より高い駆動電流が実現できる。結果としてゲートからBSPDNまでの配線抵抗が減ったようで、これによりNMOSで20%、PMOSで12%の配線抵抗削減に成功、結果としてこちらも6%程度の駆動能力向上につながった、ということのようだ。

だったらいっそFront Sideを廃してBack Sideのみにすれば、Front Side用のPowerVIAを省けてシンプルに構築できるのではないか? という気もするが、性能を稼ぐにはDual Sideの方が好ましいという判断なのだろう

 Direct BS Contactに関する信頼性の検討が下の画像である。要するにDirect BS Contactを追加したことで信頼性に問題は出ないか? という話であるが、電圧ストレステストや破壊試験の結果を見る限り、既存のIntel 18Aと同等であるとしている。

どちらのグラフを見ても、大きく劣化したり、という傾向は見えない。改善もされていないが、それが目的ではないから当然である

 トランジスタ全般としての信頼性に関してBTI(Bias Temperature Instability)およびGOX(Gate Oxide degradation)を検証した結果が下の画像だ。BTIの結果は大幅に改善、GOXは多少の改善(といっても対数軸なので、絶対的な数値で言えば結構大きな差であろう)が見られており、Intel 18A-Pの要求に合致した結果になるとされている。

BTIの検証結果。BTIは高温環境下で連続して利用している際に発生する経年劣化、GOXはゲート酸化膜の経年劣化である

 その次が発熱対策である。左の図はあくまでもコンセプトであって実際のものとは異なる(厚みが減っているかどうかは結構怪しい)とのこと。

この図は一番上がBSPDNの配線で、その下にトランジスタ層、信号配線層と続いているわけだが、その下のピンク色/緑色の部分は別にこの厚みのなにかがあるわけではなく(絶縁用の酸化膜はあるが)、あくまでも熱抵抗が下がったことを視覚的に示したかっただけの模様だ

 論文をあたってみると、「Intel 18では微細化された高電力密度トランジスタの影響を補うために、熱影響の緩和策が導入された。Intel 18A-Pでは材質の改良と、EDAツールフローの強化により、局所的にも全体的にも熱抵抗を約20%削減している。

JEDEC規格のストレス試験を通して、チップ・パッケージの相互作用(CPI:Chip Package Interaction)の信頼性は完全に認定されている」と説明されており、発熱そのものが減っているわけではないが、熱抵抗を下げることでより放熱しやすい(=温度を下げやすい)構成になっているとのことだ。

 最後に配線層について。今回配線層そのものの説明はなかったので、基本的なジオメトリはIntel 18Aのものに準ずるものと思われる。

配線層の変更。ちなみに論文で左から29%、20%、9%となっており、スライドではこれを丸めた格好だ

 ただ意外な改良点があって、それがBSPDNに使われるVIAである。信号側についてはタングステンベースのVIAだったと記憶しているが、これはVIAの直径が小さいためである。BSPDN側は銅ベースのVIAだと思うのだが、これについて「寸法及び材質の面での改良」により10~30%の配線抵抗を削減できた、としている。

 このV0~V2、Intel 18Aの説明ではBM0~BM2という名称だったと思うのだが、なぜ名称が変わったのかは不明である。ただこれにより配線抵抗に起因する電圧降下や消費電力/発熱の削減に貢献している模様だ。

 このIntel 18A-P、Nova Lakeに採用されることが今回明確に示されたのが最後のニュースだ。ほかにDiamond RapidsもIntel 18A-Pを利用することがCOMPUTEXのタイミングで明らかにされている。すでにIntel 18A-Pのリスク生産は始まっているとされており、年内にはエンジニアサンプルなども出てきそうである。

以前Nova LakeはIntel 18Aではないかと見られていたが、Intel 18A-Pであることが明示された