楽天モバイル、政治の力でプラチナバンド獲得なるか

文●石川温

2022年04月22日 09時00分

楽天グループ創立25周年レセプションより

 楽天モバイルが3月30日より新経営体制に刷新された。

 仮想化ネットワークを担当していたタレック・アミン氏がCEOに就任。国内の基地局建設を統括していた矢澤俊介氏が社長となった。タレック・アミンCEOは海外と国内事業、矢澤俊介社長は国内事業を中心に指揮を執る。

楽天モバイル 矢澤俊介社長

プラチナバンドの獲得目指す

 まず、矢澤社長が着手したのがプラチナバンドの獲得に向けての活動だ。

 楽天モバイルはすでに参入時の計画値を大きく上回る4万3000局を超える基地局を全国に設置。人口カバー率も96.7%と、計画を約4年前倒すことに成功している。しかし4Gにおいては1.7GHz帯の周波数しか持っていない。

楽天モバイルは、MMD研究所の調べでは料金、サービス、総合の顧客満足度では1位を獲得しているものの「通信品質」においては9位と他社と比べて惨敗を余儀なくされている。

 この理由は、つながりやすいとされる「プラチナバンド」を楽天モバイルが持っていないという理由が大きい。

 プラチナバンドとは700〜900MHz帯の周波数で、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクはすでに所有している。かつて、ソフトバンクがiPhoneを独占的に販売していた頃、「iPhoneは魅力だが、ソフトバンクは電波がつながりにくいので、NTTドコモからiPhoneが出るまで待つ」というドコモユーザーが少なからず存在した。

 当時のソフトバンクはプラチナバンドを持っておらず、孫正義社長(当時)が総務省を訴訟するという騒動を起こしたほどだった。

 ソフトバンクは、割り当てられていた周波数帯で全国に基地局を建てまくり、その後、総務省からプラチナバンドを割り当てられたことで、NTTドコモ、KDDIに匹敵する通信品質を実現したのだった。

改正電波法の10月施行に期待

 現在、楽天モバイルにすぐに割り当てられるようなプラチナバンドは存在していない。楽天モバイルとしては、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクから、ぞれぞれ5MHz幅を総務省にいったん返してもらい、それを新たに楽天モバイルに割り当ててもらうという計画を進めている。

 もちろん、既存3社は猛反発。あるキャリア幹部は「プラチナバンドは現在も使っており、多くのユーザーを抱えている。ユーザーに迷惑をかけるようなことができない」と反論する。

 総務省の有識者会議でも、仮に楽天モバイルの主張を通そうとするには、技術的なハードルもあるため、NTTドコモは10年、KDDIは7年ほど移行期間が必要だと主張。一方で楽天モバイルは「1年で可能だ」と強気の姿勢を示している。

 矢澤社長は「国民の財産である電波の有効活用という観点からも政治の判断に期待したい」と語る。

 現在、国会では電波法の改正議論が進んでおり、周波数には有効期限があるという話が盛り込まれようとしている。これが可決されれば今年10月にも施行となり、楽天モバイルにチャンスが巡ってくるというわけだ。

 矢澤社長が「政治の判断に期待したい」というのは、まさにそういうわけなのだ。

政治の力でプラチナバンドもなんとかなる?

 4月14日、都内のホテルで「楽天グループ創立25周年レセプション」が開催された。

 大宴会場に1000人を超える招待客が参加。コロナ禍で久々に見る大きなパーティーであった。

 冒頭、三木谷浩史会長の挨拶に続いて登壇したのが、林芳正外務大臣、後藤茂之厚生労働大臣、さらに岸田文雄総理大臣が公務の合間を縫って挨拶をしたのだった。

 林外相は、三木谷会長と古くからの友人であることをアピール。「三木ちゃんがネットでモールを立ち上げると話したときには、止めときなよと言ったんだが、私の先見の明がなかったようだ」と笑いを誘った。

 また、岸田首相も三木谷氏と知り合って20年以上の仲という。

 さらに安倍晋三元総理や菅義偉前総理からのビデオメッセージも紹介された。楽天グループが、第4のキャリアとして参入したのは三木谷会長と菅前総理の深い関係があったからだと言われている。通信料金の値下げを実現しようとしていた菅前総理がお膳立てをして、楽天グループに周波数が割り当てられたとされている。

 25周年レセプションで、大物政治家が続々とやってきて挨拶をしていった様子を見ると「政治の力で、プラチナバンドもなんとかなってしまうのでは」という気にさせられるのだった。

さらなる値下げにも期待か

 矢澤社長は「現在、3社はメインブランドでの値下げをほとんどしておらず、サブブランドで対抗してきている。3社からすれば『楽天モバイルは恐れに足らず』ということなのだろう。それは楽天モバイルに割り当てられている周波数の幅が3社に比べて6分の1に過ぎない点もある。周波数を割り当ててもらうことで、さらに競争が促進されれば、業界全体の料金が下がるのではないか」と語る。

 つまり、楽天モバイルに新たに周波数帯を割り当てれば、楽天モバイルがつながりやすくなるというだけでなく、結果として4社での競争が加速し、既存3社の料金プランもさらに値下げが期待できるのではないかというのだ。

 周波数を割り当てることによって、すべての国民にメリットが出てくることになる。

 果たして、政治はどう判断するのか。楽天モバイルがプラチナバンドでサービスを始められるのは1年後か、それとも7年、10年後か。既存3社が真っ向から反発する中、楽天モバイルが政治と国民を味方にできるかが、カギと言えそうだ。

 

筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)

 スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。

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