アップル、iPhone 13シリーズにTouch ID、USB-Cを採用しなかった理由【石川 温】

文●石川 温 編集●飯島 恵里子/ASCII

2021年09月17日 10時30分

 9月15日未明、アップルがスペシャルイベントを開催。iPhone 13シリーズならびにiPad miniなどを発表した。

 iPhone 13に関しては、見た目は去年、発売されたiPhone 12にかなり近い。iPhone 13はどちらかというと、iPhone 12Sという感じがしなくもない。ネットの反響を見ていると「コロナ禍のマスク生活でFace IDでロックを解除できないがつらい。iPhone 13でTouch IDを復活されてくれれば買ったのに」「なんで、Lightningケーブルでしか充電できないのか。USB-Cにしてれば買ったのに」という声が散見した。

 確かにマスク姿でFace IDのロックを解除するのは面倒だ。Androidスマホやパソコン、iPad Proなども持ち歩いている人とすれば、iPhoneもUSB-Cで充電できればかなり楽だ。

 果たして、アップルはどんなつもりでiPhone 13でFace IDを使い続け、Lightningケーブルを継続しているのか。

 実は、Face IDはマスクから鼻を出すだけでロックが解除できるようになっている。顔を登録する際、顔の一部だけで認証するメニューが存在しているのだ。設定の「Face IDとパスコード」という項目から「もうひとつの容姿をセットアップ」を選び、顔を登録する際、画面下に出てくる「アクセシビリティオプション」を選ぶと顔の一部を認識された状態でFace IDを使用することが可能となる。この設定をしておけば、マスクをしているとき、鼻をマスクから出すだけでFace IDのロックを解除できるようになる。

 また、Apple Watchを装着し、Apple Watchのロックが解除されている状態なら、iPhoneも簡単にロックが解除できる。アップルとしてはこの機能により、Apple Watchがさらに売れると期待しているのではないか。iPhone SE(第2世代)であれば、Face IDではなく、Touch IDが使えるので、そちらを選ぶという選択肢も一応、残っている。

果たしてコロナ禍はいつまで続くのか

 iPad AirなどはFace IDから、本体側面の電源ボタンにTouch IDが搭載されるようになった。今回、発表されたiPad miniもTouch IDが採用されている。

 iPhoneでも本体側面に電源ボタンがあるのだから、そこにTouch IDを埋め込んでもいいような気がする。

 ただ、iPhoneの場合、一気に数千万台を製造することもあり、2020年にコロナが流行ったからといって、2021年発売予定のiPhoneでいきなり仕様を変更するというのは難しいのかもしれない。

 iPhone 12シリーズとiPhone 13シリーズは一緒に開発されている可能性もあるため、「コロナでマスクが流行っているからTouch IDに急遽、変更する」といっても、すぐに部材を調達するのが困難ということも考えられる。

 アップルとしてもiPhone 13開発時にはコロナ禍はすぐに収まるという判断をしていたかも知れない、一方で、アメリカではコロナが収束し、マスクを外す生活になりつつあるだけに「いまからTouch IDに戻す」という選択も難しいのかもしれない。

 ただ、ほかのAndoridスマホでは画面内に指紋認証センサーが埋め込まれていたりする。ひょっとすると、アップルでも画面内指紋認証センサーは開発していてもおかしくなさそうだ。

Lightningケーブル周辺に広がる巨大なエコシステム

 Lightningケーブルか、それともUSB-Cケーブルか、という問題については、アップルとしてはLightningケーブルのままで十分という判断をしていそうだ。

 そもそも、Lightningケーブルでもそこそこ高速で充電ができる。表裏関係なく、何も考えずにケーブルを挿入して充電ができる。「別にUSB-Cじゃなくてもいいじゃん」というのがアップルのスタンスなのではないか。

 USB−Cに変えたくても、すでに世界中には何億というLightningケーブル対応のiPhoneが出回っている。それに対して、サードパーティも充電ケーブルなどを販売している。Lightningケーブル周辺は巨大なエコシステムが広がっているのだ。

 アップルが懸念しているとすれば、充電における安全性ではないか。ちょっと前まで、一部の国では「充電していたらスマホが燃えた。爆発した」なんてニュースが続出していた。粗悪なバッテリーや充電器などを使うことで、事故が多発していたのだ。事故が起きれば、充電器が悪くても、スマホのメーカーが悪者にされてしまいがちだ。

 アップルとしては粗悪品での充電はできるだけ避けたいというのが本心だろう。

 サードパーティがLightningケーブルを作り、販売するにはアップルの認証が必要となる。アップルが認証した製品に対してはMFi(Made For iPhone/iPad/iPod)というロゴがつけられることになる。アップルの認証を受けていると言うことで、製品に対して安全に充電することが可能となる。ユーザーを充電時のトラブルから守るという意味で、iPhoneでLightningケーブルが使われ続けているのではないか。

 もちろん、MFi認証を取得するには、メーカーがアップルにライセンス料を払う必要がある。世界中で売られるMFi機器からのライセンス収入のことを考えると、アップルが意地でもUSB-Cにしたくないと考えるのが自然だ。

 一方で、iPadはUSB-Cになりつつある。

 タブレット市場では価格競争になりがちだ。iPad miniは価格競争から逃げようと、高機能化に舵を切った。コネクタ部分もLightningからUSB-Cに切り替わった。USB-Cに変えることで、デジタルカメラや他の周辺機器との接続性が向上する。アップルとしてはiPadをパソコンに代わるデバイスに位置づけたいため、iPad miniでもUSB-Cに変更したのだろう。

 欧州では充電端子の統一化という動きも出ている。今後、アップルがiPhoneでどのような対応するか、見ものといえそうだ。

 

筆者紹介――石川 温

 スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)、『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。

 

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