Zen3の圧倒的性能を発揮!「Ryzen 7 5800X」「Ryzen 9 5900X」速攻レビュー
文●加藤勝明(KTU) 編集●ジサトラ ハッチ/ASCII
2020年11月05日 23時00分
2020年11月6日19時(日本時間)より、第4世代Ryzenこと「Ryzen 5000シリーズ」の国内販売が解禁される。海外では5日23時の販売解禁だが、国内では翌日にずらすことで現場の負担や混乱を防ごうという狙いなのだろう。ただしRyzen 5000シリーズのレビューは世界同時に解禁になるので、本稿では新Ryzenのファーストレビューをお届けすることにしたい。
Ryzen 5000シリーズは新しい“Zen3アーキテクチャー”を採用した製品であり、「Ryzen 9 5950X」を筆頭に「Ryzen 9 5900X」「Ryzen 7 5800X」そして「Ryzen 5 5600X」の4モデルが第1弾として投入される。初値はそれぞれ税込み10万6480円、7万1478円、5万8828円、3万9380円であり、1世代前の同クラス品(Ryzen 3000シリーズ)よりも5000~7000円上に設定されている。Socket AM4プラットフォームのトリを飾るCPUになると噂されており、DDR4メモリー世代Ryzenの集大成的な存在といってよいだろう。
Ryzen 5000シリーズの物理コア数はRyzen 3000/3000XTシリーズから全く増えていない。だが内部設計の見直しで性能が大幅に向上し、特に性能/消費電力比においてインテルのCore i9-10900Kの2.8倍などという非常に勇ましい数値を出して我々の期待を盛り上げてきた。
この辺の詳しい解説はAMDのローンチイベント解説などで大原雄介氏が詳しく解説しておられるので、そちらをご覧戴くとよいだろう。
今回新Ryzen全モデルの実力を知りたいという方には誠に残念だが、今回AMDの方針によりメディアにはRyzen 9 5900XとRyzen 7 5800Xのみが貸与され、ワールドワイドのローンチと同時にレビュー公開可能という形になった。残る2モデルは後日レビューするとして、今回はマルチスレッド性能と価格のバランスの良い8コア&12コアモデルの性能を検証することとしよう。
Ryzen 5000シリーズで押さえておくべきこと
ベンチマークの前にRyzen 5000シリーズを知る上で押さえておくべきポイントをいくつか挙げておこう。まずはスペックのおさらいから始めよう。
●ポイント1:プロセスルールに変更はない
AMDは製品の製造プロセスにおいて業界トップを独走している。10nmを中々モノにできないインテルや、先日8nmプロセスを採用したGPUをリリースしたNVIDIAよりも微細な7nmプロセスを採用している(このルールに厳密な比較基準があるかは別の話)。
AMDはZen2ベースのRyzen 3000シリーズにおいて初の7nmプロセスを採用した経緯から、Zen3ベースのRyzen 5000シリーズでは、さらにそれを改善したプロセスが採用されるのではないか……と噂されていたが、AMDはメディア向けのブリーフィングにおいて明確にそれを否定した。
AMD曰く“7nmプロセスのレシピ”を改善することでクロックを引き上げることに成功し、それを使って今年7月のRyzen 3000XTシリーズを製造、そのレシピはRyzen 5000シリーズでも使っている、とのことだ。プロセスルールにおいて独走状態の今、プロセス変更の労力は次世代のZen4に集中させ、Zen3は完成度の向上に主眼を置いた、ということなのだろう。
さらに、11月18日より販売開始とされる同社の次世代GPU「Radeon RX 6000」シリーズでもローンチイベントにて“同じ7nmプロセス”という表現をした。つまりAMDとTSMCはCPUとGPUで7nmプロセスの技術蓄積をふんだんに行ない、その結果Radeon RX 6000シリーズの価格設定をライバルより大幅に安くすることに成功したのではないだろうか。
●ポイント2:ダイはCCX×2から単一CCXになり、レイテンシー大幅減
Ryzen 5000シリーズはプロセスが据え置きなぶんIPC(Instructions Per Second)の向上に注力した。AMD曰くIPC上昇幅は前世代の+19%増とのことだが、この増分はCPUのあらゆる側面を少しずつ伸ばした結果である、と謳っている。
だがその中でも特筆すべき点はCCD(Core Chiplet Die)の構成が従来のCCX(Core Complex)を2基連結したものから、単一のCCXに変更されたことだ。1ダイに8コアを載せたCCDがあった場合、従来は4コア+4コアの構成だったが、Ryzen 5000シリーズでは8コア1基に統合されている。この変更により、あるコアからアクセス可能なL3キャッシュの量が2倍になり、コア⇔L3キャッシュのレイテンシーが大幅に削減されることになる。
RyzenのL3キャッシュは基本的にL2から追い出されたデータを置くビクティムキャッシュなので、コアからアクセス可能なL3キャッシュが倍増するということは、パフォーマンス向上に大いに寄与することができる。
今回もCPUデザインはCCD+IOD構成であるため、CCDを2基搭載するRyzen 9 5900Xおよび5950Xよりも、CCDが1基しかないRyzen 5 5600XとRyzen 7 5800Xの方がレイテンシーを小さくできるという違いはあるが、コアレイアウトの変更により、2CCDでもよりレイテンシーが短くできることになる。
●ポイント3:BIOSはAGESA 1.1.0.0が出るまで待ちのがベター
これまでのRyzenファミリーと同様に、Ryzen 5000シリーズを利用するには、マザーボードのBIOSを同シリーズに対応したものに更新しておく必要がある。そのBIOSがAGESA 1.0.8.0であればRyzen 5000シリーズを載せて起動することは可能だが、CPUの性能をキッチリと引き出すにはAGESA 1.1.0.0以降のBIOSが必要になる。BIOS更新は作業場のリスクでもあるため、今使っているSocket AM4マザーボードのBIOSにAGESA 1.1.0.0準拠が追加されるまでは待った方がベターだろう。
そしてRyzen 5000シリーズ対応BIOSが最速で提供されるマザーボードは今のところX570/B550/A520チップセットのいずれかを搭載したマザーボードであることが確定している。B450やX470マザーボード用のBIOS提供は各マザーボードメーカーの“頑張り次第”だ。
●ポイント4:Radeon RX 6000シリーズの性能をフルに引き出せる(要マザーボード)
AMDが11月18日より販売と予告しているBigNaviことRadeon RX 6000シリーズには、CPUからRadeon RX 6000シリーズのVRAM全領域に効率良くアクセスできる「Smart Access Memory」なる機能が追加されている。
この機能を利用するにはRyzen 5000シリーズのCPUと、500シリーズチップセットを搭載したマザーボードが必要であるとアナウンスされている(現時点でPCI Express Gen4非対応のA520も含まれるかどうかは確定していない)。つまり話題のRadeon RX 6000シリーズを使いたいと考えているなら、マザーボードもセットで考える必要があるのだ。
●ポイント5:メモリー周りの仕様は同じ
CPUコアを載せるCCDの設計が大きく見直された一方で、IOD(I/Oダイ)はRyzen 3000/3000XTシリーズと同じもの(12nmプロセス)が使われる。
ゆえに、IOD内にあるメモリーコントローラーもRyzen 3000/3000XTシリーズから変わっていない。Infinity Fabricとメモリーコントローラー、メモリークロックが1:1:1で動かすのが最も効率が良いといったメモリーチューニングのノウハウもそのまま継承される。
ただRyzen 5000シリーズではこの1:1:1クロックを維持できる上限が従来の3800MHzから4000MHzへ引き上げられた。これまでは1:1:1はDDR4-3800が限界で、費用対効果と確実性の関係からDDR4-3600が人気だったが、Ryzen 5000シリーズでは3800でも安定動作させられる可能性が増え、かつDDR4-4000でも1:1:1を狙えるようになった。
もちろんメモリーのオーバークロックにあたるのでDDR4-4000で動くことを保証するものではない。運が良ければDDR4-4000でInfinity Fabric2000MHz設定の安定動作が期待できる、という程度の意味に捉えておこう。
検証環境は?
そろそろ今回の検証環境を紹介しよう。前述の通り今回はAMD側の要請により、Ryzen 9 5900XとRyzen 7 5800Xの2モデルしかテストすることができなかったので、比較対象も前世代同クラスのCPUを中心に揃えた。
Ryzen 9 3900XTとRyzen 7 3800XTの2つを選択したのは、CPUのコア数だけでなく、CPUクーラーが同梱しないモデルであること、さらにRyzen 5000シリーズとシリコン製造の“レシピ”が同じであるという理由からである。Ryzen 9 5950Xはテストできなかったが、Ryzen 9 5900Xの伸び方次第では旧16コアモデルも食う可能性があるので、Ryzen 9 3950Xも評価に加えている。さらに比較対象として、インテルのCore i9-10900KとCore i7-10700Kの2モデルも追加した。
また、ビデオカードはRadeon RX 6000シリーズのレビューサンプルがまだ存在しない段階であったため、GeForce初のPCI Express Gen4対応GPUである「GeForce RTX 3080 Founders Edition」を選択した。
ちなみに、X570マザーボードのBIOSはレビュー用に配布されたバージョンではなく、GIGABYTE公式からダウンロードできるAGESA 1.1.0.0 C対応の「F31e」(10月29日付)に統一。Windows 10は最新の「20H2」とし、Windows 10のHAGS(ハードウェアアクセラレーションによるGPUスケジューリング)は有効とした。インテル環境で重要なCPUのPower Limit設定については、インテルの定格(PL1=TDPとなる設定)設定とした。
【検証環境:AMD】 | |
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CPU | AMD「Ryzen 9 3950X」 (16C/32T、3.5~4.7GHz)、 AMD「Ryzen 9 5900X」 (12C/24T、3.7~4.8GHz)、 AMD「Ryzen 9 3900XT」 (12C/24T、3.8~4.7GHz)、 AMD「Ryzen 7 5800X」 (8C/16T、3.8~4.7GHz)、 AMD「Ryzen 7 3800XT」 (8C/16T、3.9~4.7GHz) |
CPUクーラー | Corsair「iCUE H115i RGB PRO XT」 (簡易水冷、280mmラジエーター) |
マザーボード | GIGABYTE「X570 AORUS MASTER」 (AMD X570、BIOS F31e) |
メモリー | G.Skill「Trident Z RGB F4-3200C16D-32GTZRX」 (DDR4-3200、16GB×2)×2 |
ビデオカード | NVIDIA「GeForce RTX 3080 Founders Edition」 |
ストレージ | Corsair「Force Series MP600 CSSD-F1000GBMP600」 (NVMe M.2 SSD、1TB) +ウエスタンデジタル「WDS100T2X0C」 (NVMe M.2 SSD、1TB) |
電源ユニット | Super Flower「Leadex Platinum 2000W」 (80PLUS PLATINUM、2000W) |
OS | Microsoft「Windows 10 Pro 64bit版」 (October 2020 Update) |
【検証環境:インテル】 | |
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CPU | インテル Core i9-10900K (10C20T、最大5.3GHz)、 インテル Core i9-10900 (10C20T、最大5.2GHz)、 インテル Core i7-10700K (8C16T、最大5.1GHz) |
マザーボード | ASUS「ROG MAXIMUS XII EXTREME」 (Intel Z490、BIOS 0707) |
メモリー | G.Skill「Trident Z RGB F4-3200C16D-32GTZRX」 (DDR4-3200、16GB×2、CPUの定格で運用)×2 |
ビデオカード | NVIDIA「GeForce RTX 3080 Founders Edition」 |
ストレージ | Corsair「Force Series MP600 CSSD-F1000GBMP600」 (NVMe M.2 SSD、1TB) +ウエスタンデジタル「WDS100T2X0C」 (NVMe M.2 SSD、1TB) |
電源ユニット | Super Flower「Leadex Platinum 2000W」 (80PLUS PLATINUM、2000W) |
OS | Microsoft「Windows 10 Pro 64bit版」 (October 2020 Update) |
シングルスレッド性能も完全にAMDの天下
では定番の「CINEBENCH R20」のスコアー比較から始めよう。各CPUの実売価格(11月4日時点)をマルチスレッドのスコアーで割り、1円あたりのスコアーも比較してみた。グラフは上からコア数順にソートしている。
ここで注目したいのは10C20TのCore i9-10900Kと8C16TのRyzen 7 5800Xのマルチスレッドのスコアーがほぼ同じであること、さらにRyzen 5000シリーズのシングルスレッドのスコアーは群を抜いて高いことの2つだ。
Core i9-10900KもPL1=無制限設定にすればもう少しスコアーを伸ばすことができるが、定格でシングルスレッド600ポイント以上は難しい。かつてはシングルスレッド性能の高さを伝家の宝刀としたインテル製CPUだが、Zen3世代のRyzen 5000シリーズでは、シングル最速の栄冠は完全にAMDの掌中にあるといってよい。
マルチスレッドのスコアーに関してもRyzen 5000シリーズは良好な伸びを示しており、特に12C24TのRyzen 9 5900Xは19%スコアーを伸ばしている。今回のRyzen 5000シリーズの動作クロックは3000XTシリーズに100MHz上乗せしただけなので、前述のIPC19%上昇とほぼ合致する結果が得られたと考えてよいだろう。
そして1円あたりのスコアーはRyzen 5000シリーズがRyzen 3000XTシリーズよりもやや上の値を示している。Ryzen 5000シリーズは値段だけ見ると前世代よりガッツリ値上げされたような気分になるが、こうして費用対効果を計測してみると値上げ分の仕事はこなしているようだ。
「PCMark10」では8コアが10コアを上回る
続いては総合ベンチマーク「PCMark10」を試してみよう。実施するテストはゲーミング以外の性能を見る“Standard”を選択した。総合スコアーだけでは得手不得手が分かりづらいので、各テストグループ別のスコアーも見ておこう。
PCMark10にもコア数が物を言うテスト(DCCのPOV-Rayなど)はあるが、CINEBENCH R20のように決定的なものではない。このグラフからは、8C16TのRyzen 7 5800Xが10C20TのCore i9-10900Kどころか16C32TのRyzen 9 3950Xをどのテストグループについても上回っている。
コア数や絶対的なクロックの高さよりも、シングルスレッド性能とIPCの高さが鍵となる。Ryzen 9 5900Xがスコアートップだが、費用対効果で考えればRyzen 7 5800Xは飛び抜けて高い。
続けて各テストグループ別に結果をもう少し深掘りしてみよう。
アプリの起動時間やビデオ会議、FireFoxを使ったWebブラウジング性能を見るEssentialテストグループでトップに立っているのはRyzen 7 5800X。Ryzen 9 5900Xよりも上のスコアーを出している理由として考えられるのは、Ryzen 9 5900Xが2CCD構成ゆえにCCDをまたぐような処理発生時のレイテンシーが足を引っ張っているのではないかと推測できる。
前世代Ryzenの中では1CCDのRyzen 7 3800XTがトップに立っている点もこの説を裏付けている。Ryzen 5000シリーズが出るまではクロックの高い第10世代Coreプロセッサーがトップを押さえていたが、Ryzen 5000シリーズに取って代わられた、といってよいだろう
LibreOfficeを使った表計算&ワープロ処理時の性能を見るProductivityテストグループでもRyzen 7 5800Xは非常に優秀だ。Ryzen 9 5900Xはワープロ(Writing)でトップに立っているが、Ryzen 7 5800Xと大差ないレベルにとどまっている。もっとも、処理の重さで言うとむしろ軽めな方なので、軽めな処理にRyzen 7 5800Xがハマっただけとも言える。
Standardテスト中最もCPUパワーへの依存度が高いDCC(Digital Content Creation)テストグループでは、Ryzen 9 5900Xがコア数に勝るRyzen 9 3950Xを上回る性能を見せている。Ryzen 7 5800XもCore i9-10900Kを下しているものの、コア数勝負になりやすいPhoto EditingやRendering and VisualizationにおいてRyzen 9 5900Xに大きく引き離されてしまった。
Rendering and Visualizationでコア数最多のRyzen 9 3950Xが負けている(上から3番目)理由は、このテストでは単純なCGレンダリングの他にワイヤーフレームモデルのアニメーション処理が評価対象となるが、このアニメーション処理においてシングルスレッド性能が重要になるためである。Ryzen 9 3950Xはコア数は十分にあるがアニメーション処理における処理性能は今ひとつだった、ということになる。
「Blender」ではCore i9-10900Kに圧倒的な差を見せつける
続いてはCG作成ソフト「Blender」をベースにしたベンチマークツール「Blender Open Data」を使用する。想定するBlenderのバージョンは2.9.0とし、CPUのみでレンダリングする時間を計測した。
CINEBENCH R20ではCore i9-10900Kが僅差でRyzen 7 5800Xを上回っていたが、このテストではRyzen 7 5800XがCore i9-10900Kを優越している。ただ全部優越という訳ではなく、一番軽い“bmw27”では僅差で負けているし、“pavilion_barcelona”では両者の差は30秒も違わない。
しかし、その一方で“koro”や“victor”でははっきりと分かる差を付けるなど、シーンの設計やレンダリングの設計次第で速さが決まる、ということが分かる。ただ同じコア数のRyzenで比較すると、旧世代のRyzenと新しいRyzen 5000シリーズの力の差は処理の重いシーン(特にvictor)において顕著だ。プロセスルールは変えずにコア設計の見直しだけでここまで伸ばした点に関しては、驚きという他はない。
「Media Encoder 2020」でも安定して強い
次は「Media Encoder 2020」を利用した動画エンコード時間を比較しよう。「Premiere Pro 2020」を利用し、再生時間約3分半の4K動画を編集(カット編集とシーントランジション追加主体のシンプルな動画)、それをMedia Encoder 2020にキュー出ししてMP4動画に出力した時の時間を計測した。
コーデックはH.264およびH.265を使い、ビットレートはそれぞれ80Mbpsと50Mbpsを指定。どちらも1パスVBRで処理している。GPUの支援はデコード処理(Mercury Playback Engine)のみで、エンコードには使用していない。
初出10万円近かったRyzen 9 3950Xが7万円強のRyzen 9 5900Xに肉薄されている。Adobe製の動画エンコーダーはコア数が多すぎて遊んでしまう事が多いことが知られているが、Ryzen 9 3900XTと3950Xの間にはしっかり差が出ていることを見れば、エンコーダーの設計が原因でないことはすぐに分かる。
12コアのRyzen 9 5900Xが16コアの3950Xに肉薄しているのは、Zen3の設計が非常に優秀である以外の答えが存在しないのだ。今回残念ながらRyzen 9 5950Xをテストできなかったが、この結果から考えると、このテストではH.264で3分を切ることは十分に考えられる。動画編集がメインなら、例えコア数が同じモデルでもRyzen 5000シリーズに乗り換えるメリットがありそうだ。
「Lightroom Classic」ではやや微妙な結果も
続いては「Lightroom Classic」を使った検証だ。今回は60メガピクセルのRAW画像(DNG形式、調整付き)を100枚用意し、これを最高画質のJPEG形式に書き出す時間を計測した。書き出し時にはシャープネス(スクリーン用、適用量標準)を付与しているが、この処理が極めてCPU依存度が高く、CPUの力の差が出やすい。ここまでの検証で優秀な結果が出ていたRyzen 5000シリーズでどこまで伸びるか楽しみなテストである。
ちなみに写真素材は林 佑樹氏(@necamax)が撮影し、同氏がLightroom Classicで実際に調整したものを使わせて戴いている。
Lightroom Classicの処理はL3キャッシュの多いRyzenの相性が良く、インテル製CPUを大差で引き離すことが過去のさまざまなベンチマークで明らかになっている。だが今回のRyzen 5000シリーズはRyzen 3000シリーズより高速だが、その差は大きいとは言えない。
このテストではZen3の良い部分はほとんど使われておらず、ほぼキャッシュ周りの効率の良さだけでインテル製CPUを負かしてきたことが明らかとなった。
ついでに「Photoshop 2021」のパフォーマンスも見てみよう。まずはLightroom Classicで使った60メガピクセルのDNGをPhotoshop上のCamera Rawを用いて開いた時の時間を計測する。ブレが大きいため3回計測した時の平均値を採用している。
Lightroom Classicの処理時間の差はCPU負荷の極めて高いシャープネス処理にあるのでは、という予想を立てていたが、単純にRAW画像を開く処理だけでもRyzenは全体的に高速。数値上ではRyzen 9 5900Xが一番高速だが、Ryzen 9 3900Xなどの差は極めて小さいため、誤差の範囲でしかない。
ただRyzen 9 3950Xは今回試したRyzenの中でも明らかに半呼吸長い時間を必要としているため、ここの部分は誤差とは言にくいものがある。
そしてここでもインテル製CPUの遅さが際立つ結果となった。この結果は3回の計測でほぼ安定してこの結果に近い値が出ていた(平均のマジックで差が付いているのではない、ということ)ので、CPUアーキテクチャーの設計的に、Zen2/Zen3世代のRyzenはPhotoshopやLightroomと相性が良いようだ。
さらにここで開いたDNG画像を縦横2倍(240メガピクセル)に拡大し「虹彩絞りぼかし」を適用した時間も計測してみた。設定値はデフォルトだが、高品質モードにチェックを入れている。こちらも3回の平均値で比較する。
Photoshopの虹彩絞りぼかしはGPUの支援が得られるフィルターであるが、実のところCPUパワーもかなり使う。インテル製とAMD製のCPUが割と良い感じで競い合っているが、ここでもRyzen 5000シリーズが頭1つ以上抜けて高速である。
前世代のRyzenに比べると2秒程度高速、インテルの第10世代Coreプロセッサーに比べるとさらに+1秒前後の差がつく。Ryzen 5000シリーズはクロックやブースト設定に頼った性能向上ではなく、根本的な処理の見直しでここまで性能を改善した、という点が実感できる結果となった。
Zen3のパワーは「3DMark」のスコアーにも現れる
そろそろゲームベンチに入りたいが、その前に「3DMark」のスコアーがCPUでどう変化するかを見てみよう。ご存じの通りCPUの物理演算性能がスコアーに加味されるため、強力なCPUは高スコアーを出すためには欠かせないからだ。今回は“Fire Strike”と“Time Spy”について検証する。
CPUの計算力が試されるPhysicsテストでトップを獲ったのはコア数の最も多いRyzen 9 3950Xではなく、Ryzen 9 5900Xだった。Physicsテストはコア数の効くテストではあるが、ある程度のコア数になるとリニアにスコアーが延びず、むしろ処理効率のほうが重要になる。
Ryzen 9 5900Xは設計的にもコア数的にもちょうどバランスが良かった、ということになる。ただ同じ物理演算を使うCombinedテストではコア数の少ないRyzen 7 5800Xに負けているが、これは2CCD構成のRyzenの弱点、つまりCCDをまたぐような処理が発生した時のレイテンシーが関係していると思われる。
一方Time SpyではCore i9-10900Kが総合スコアーでもCPUテストのスコアーでも逃げ切り、完封負けをなんとか回避した格好だ。ここでもRyzen 9 3950Xと5900XのCPUスコアーに大きな差はない。コアの設計変更がかなり良く効いているようだ。
「Rainbow Six Siege」では意外にも10900Kが最速
では実ゲームベースの検証に入ろう。まずは「Rainbow Six Siege」で試してみる。APIはVulkanとし、画質“最高”をベースにレンダースケールを100%に設定した。解像度を上げるほどCPUの差が出なくなるため、今回のゲームベンチは全てフルHD1本に絞って検証している。内蔵ベンチマーク機能を利用して計測した。
ここでトップに立ったのは意外にもCore i9-10900K。平均fpsのみならず最低fpsも最高値を出している。CGレンダリングや動画エンコードではRyzenにトップを譲ったものの、ゲームキングは簡単に手渡さないという気迫を感じる……というのは大げさだが、Ryzen系の最低fpsが軒並み低めになっていることから考えると、Ryzenでも十分フレームレートは出せるが、CPU周りの設計が原因で微妙に足を引っ張る部分があるといったところか。
ただRyzen 3000XT vs Ryzen 5000シリーズ対決で見た場合、Ryzen 5000シリーズの方が平均fpsにおいてRyzen 3000XTシリーズよりも高い値を出している。そのうちRadeon RX 6000シリーズが出てSmart Access Memoryが解放された時には、さらに差が開く可能性がある(CPUのメモリーアクセスパターン次第なので、Smart Access Memoryの効果はゲームの設計に大きく依存するだろう)。
最低fpsを引き上げた「Apex Legends」
続いては「Apex Legends」を使う。画質は最高設定とし、射撃練習場における一定コースの移動とバンガロールのスモークの中に入るという行動をとった時のフレームレートを「CapFrameX」で計測した。起動オプションで144fpsフレームレート制限の解除(+fps_max unlimited)を追加している。
ご存じの通りフレームレート上限を解除しても、GeForce RTX 3080のパワーがあれば隠し上限である300fpsに到達させるのはたやすい。しかし、スモークのような半透明の表現はフレームレートにとって強いインパクトとなり、最低fpsもここのタイミングで記録される。
まず平均fpsでトップを獲ったのはCore i9-10900Kだが、そこから1fpsも違わない位置にRyzen 9 5800Xが付けている。この部分だけ見ればCore i9-10900Kがタイに持ち込んだと言えなくもないが、最低fps(の1パーセンタイル点)を見ると、Ryzen 7 5800Xの方が10fps近くも高い。この最低fpsの高さはZen3アーキテクチャーにあることは上のグラフを見ても明らかだ。
Ryzen 3000XTシリーズも悪くはないが、同コア数の第10世代Coreプロセッサーにやや劣る。しかし、今回のRyzen 5000シリーズは平均fpsで並び(抜けないのは300fps上限の存在もあるだろう)、最低fpsでは完全に上回っている。グラフからも読み取れる通り、2CCD構成のRyzen 9 5900Xよりも1CCD構成のRyzen 7 5800Xの方がなんとなく良い値が出ている感じはするが、このゲームでは誤差レベルとしか言いようがない。
見えない壁に阻まれる「Borderlands 3」
続いては「Borderlands 3」で試してみる。APIはDirectX 12、画質は“バッドアス”に設定し、内蔵ベンチマーク機能を利用して計測した。ただし、最低fpsはログを分析して算出している。
グラフだけを見ると144fpsあたりで制限がかかっているように見えるが、今回のハードウェア構成ではどのCPUも140fpsよりやや下に収束していっただけだ(実際は150fps以上出るシーンもある)。それゆえかなりGPU側がボトルネックになっているベンチと言うこともできるが、最低fpsの出方を見ると、CPUパワーの差が出てくる。
最も優秀だったのはRyzen 9 5900X、続いてRyzen 7 5800Xだった。Core i9-10900Kも優秀だが、Ryzen 5000シリーズの登場で最速の座からは追われてしまったといえるだろう。
「MONSTER HUNTER WORLD: ICEBORNE」では
Ryzen 5000シリーズが圧倒的な強さをみせる
続いては「MONSTER HUNTER WORLD: ICEBORNE」で試してみよう。APIはDirectX 12とし、画質は“最高”をベースにHigh Resolution Textureを追加している。「CapFrameX」で集会エリアにおける一定のコースを移動した時のフレームレートを計測した。
以前第10世代CoreプロセッサーとRyzen 3000XTの8コアモデル同士を対決させた際は平均fpsにおいて第10世代Coreプロセッサーが圧倒的な強さを見せつけたが、Ryzen 5000シリーズはさらにその上を行き、コア数の多い旧世代CPUをも軽く抜き去ってしまった。
同コア数のRyzenを見た場合でも最低fpsが30fps近く延びており、このゲームのQOL上昇に大いに役立ってくれることを示している。ハイエンドGPUを使っている場合はCPUのパワーアップでフレームレートが延びることがまま見られるが、ここまで劇的な変化はあまり記憶がない。今Ryzen 3000番台を使っているなら、Ryzen 5000シリーズへの乗り換えはぜひともオススメしたいところだ。
「Horizon Zero Dawn」ではあまり効果なし?
別の重量級である「Horizon Zero Dawn」でも試してみよう。画質は“最高画質”とし、ゲーム内ベンチマーク機能を利用して計測する。これまで何回かこのベンチマーク機能を使った結果最低fpsのブレが極めて大きいと分かったので、今回は5回続けて計測を実施し、最低fpsの中央値を出した結果を採用することとした(最低はブレるが平均fpsはほとんどブレない)。また、このベンチにおけるCPU側のフレームレートも比較してみた。
MONSTER HUNTER WORLD: ICEBORNEではないが、ここでもRyzen 5000シリーズが平均fpsを大きく引き上げている。最低fpsもRyzen 5000シリーズの方が高く出ているが、筆者が試した限りでは、このゲームはコア数が6基程度のCPUの方が最低fpsが延びることも分かった(これについては次回に回したい)。最低fpsが落ち込みやすいのはゲーム側の設計の不備もかなり多く占めているようだ。
ただRyzen 5000シリーズはCPUのフレームレートでも既存のCPUよりも平均および最低fps(1パーセンタイル点)においても高い値を示している。その分だけGPUに効率良くレンダーキューを出せると考えれば、Ryzen 5000シリーズは圧倒的にゲームで強いという結論を出しても良いだろう。
最新重量級「Watch Dogs: Legion」では?
最後に直近の話題作である「Watch Dogs: Legion」でも試してみよう。APIはDirectX 12、画質“最大”をベースに、レイトレーシングも“最大”+DLSS“バランス”+精細度100%を追加した。ゲーム内ベンチマーク機能を利用して計測している。
このゲームではDXR設定を高くするとかなりのCPUパワーを要求されるので、強力なCPUは必要不可欠。ここでもRyzen 5000シリーズが平均fpsのみならず最低fpsも引き上げており、Ryzen 5000シリーズのPCゲームにおける強さが再確認できた。
消費電力はほぼ変わらず
Ryzen 5000シリーズは性能が劇的に向上したが、消費電力はどうだろうか? そこでラトックシステム「REX-BTWATTCH1」を用い、システム起動10分後の安定値を“アイドル時”、「Prime95」のSmallFFT実行中の最大値を“高負荷時”として計測した。
Ryzenの場合、高負荷をかけるとクロックが押さえ込まれるため一定以上はなかなか上がらない。Ryzen 5000シリーズも同じ電力管理手法であるため、コア数が同じRyzen 3000XTシリーズと消費電力に差はないといってよい。消費電力の多さでいえばインテル製CPUの高さが際立っているが、このグラフの値はTauの制限56秒以内に観測された最大値であって、これを超えると190W程度までに一気に下がる。
瞬間的な値を見ればインテル製CPUはだいぶワットパフォーマンスが悪いが、長い目で見る(例えばエンコード)なら実は大して変わらない。ただマザーボードのBIOS設定次第(PL1=無制限)ではこのグラフの最大値がずっと継続するので、そのような設定を採用する場合は、Ryzenのワットパフォーマンスは圧倒的強みとなることは間違いない。
コア間レイテンシーを確認する
最後に「Sandra」を使って新旧Ryzenのコア間レイテンシーがどう変化したかを視覚的に明らかにしていきたい。具体的にはCPUの「マルチコアの効率」テストを実施し、そこで算出される論理コア同士のレイテンシーを書きだしている。Sandraのテストでは一方向のレイテンシーしか計測しない(論理コア1→3が計測されたら3→1は省略される)ため、逆方向のレイテンシーは順方向と同じ値として扱っている。
例えば論理コア0(縦列)から論理コア1へのアクセスは10.9nsと極めて速く(同じ物理コア内の論理コアなので速くて当然)、論理コア0→論理コア2~7までは26.7ns~27.6nsまでとやや長くなる。しかし、宛先が論理コア8~15になると70以上の値が当たり前になる。
Ryzen 7 3800XTの場合、論理コア0から見て論理コア7までが同じCCX(4コア)内のアクセスとなり、論理コア8~15が隣のCCXに所属するコアになるので、レイテンシーが一気に増える。ある論理コアから見てレイテンシーの長いコアと連携する場合は処理時間が長くなるのも当然といえる。
ところがRyzen 5800Xでは、どの論理コアから見ても30ns以下でアクセスできたことがこの図に示されている。各レイテンシーの値は試行ごとに上下に変動するが、平均としては25ns程度に収まっている。
CCXが8コア化してレイテンシーが下がったことがこの図でも確認できた。ただ同物理コアに属する論理コア同士のレイテンシー(緑のマスの部分)はRyzen 7 3800XTよりも微妙に長くなっており、全てが改善した訳ではないことも分かる。
今度はRyzen 9 3900XTのレイテンシーマップだが、2CCD構成になったことでオレンジのマスの数が一気に多くなった。24×24-24=552通りのアクセスパターンがあったとき、大半のアクセスはレイテンシーの長い組み合わせになってしまう。
OS側でそういった非効率なアクセスにならないよう仕事を割り振ってくれる仕組みがあるとはいえ、CCXとCCDまたぎでレイテンシーが長くなってしまうRyzen 3000/3000XTシリーズの弱点は無視できない。
ところがCCD=CCXとなったRyzen 9 5900Xでは、30ns以下でアクセスできる組み合わせが劇的に増えた。もちろんCCDをまたぐアクセス(例:論理コア0→論理コア12〜23まで)の場合はレイテンシーが長くなることを避けられないが、Ryzen 9 3900XTに比べると明らかに効率が良くなってたことが分かる。
まとめ:Ryzen 7 5800Xの凄さが際立つ
以上でRyzen 5000シリーズの速報レビュー1回目は終了だ。冒頭で述べた通りAMDの要請によりRyzen 9 5950XとRyzen 5 5600Xは検証できなかったが、クロックもTDPもほとんど変えずに凄まじい性能向上を果たしたZen3アーキテクチャーの凄さを再認識させられた。
特にコア数が格上のCore i9-10900Kどころか、処理によってはRyzen 9 3900XTや5900Xをも上回ったRyzen 7 5800Xの凄さが際立つ結果となった。TDP65WのRyzen 7 5700Xがまだ出ていない(現時点では予定があるかも不明だが……)が、もしTDP 65WのRyzen 7 5700Xが先に出ていたら、ここまでのインパクトは得られなかったのではないだろうか。
インテルのメインストリーム向けのフラッグシップに対し有無を言わさぬ性能差を見せつける(残念ながら完封勝利には至らなかったが……)ためには、TDP 105Wで性能が出しやすいRyzen 7 5800Xを出す方が得策とAMDは判断したのだろう。
「お前(インテル)を負かしたのは既存の7nmプロセスなのだ……お前が2021年に次のステージに進もうとも、我々はまだ5nmを残している……」というAMDの挑発が聞こえてきそうな新製品といえるだろう。
次回(Ryzen 5000シリーズ販売解禁後)は、残された2モデル(Ryzen 9 5950XとRyzen 5 5600X)を検証する予定だ。こちらもお楽しみに。
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